第三話 隣のお姉さんの秘密
隣の中学生男子、登場。
彼の名前は一ノ瀬シュウくん。中学二年生、バスケ部です♪
僕のうちの隣には、大学生のお姉さんが住んでいる。
名前は、まだ知らない。
顎の長さで揺れるふわっとした髪型の、ゆるっとした人だ。朝部屋の前で会った時、僕が挨拶をするとへにょっと笑う。
夜中にコンビニで会った時は、上下が違うジャージを着ていた。寝ぐせのついた頭で眠そうにして、肉まんを注文していた。
僕に気づくとまたへにょっと笑い、肉まんをひとつ追加で注文した。
コンビニから出ると、お姉さんは僕を待っていたみたいで、追加で注文した肉まんをくれた。
二人で白い息を吐きながら、黙って肉まんを齧りながら帰った。僕は夜中に女の人と歩くなんて初めてだったから、なんだかとてもドキドキした。
でも、お姉さんは特に何も話さなかったので、ただ暗い夜道を一人で帰るのが、怖かっただけかも知れない。
電車の中で見かけた時は、違う人みたいにキリッとしていた。座席の一番端に座って文庫本を読んでいた。お姉さんは、いつもよりずっと大人っぽく見えた。
僕に気づいて、笑いかけてくれたり、話しかけてくれて、それで《《ナニカ》》がはじまる想像をしたけれど、そんな都合のいいことは、全然起きなかった。
現実は僕を甘やかしてはくれない。
お姉さんは駅二つ分くらい本を読んでいて、そのあと居眠りをはじめた。メガネがずれて口をちょっと開いている。僕は「若い女の人がそんなでイイの?」と思った。
でもそのあと、お姉さんの口元がへにょっと弛むのを見て、電車の中なのを忘れて吹き出してしまった。
ずっと年上の女の人だけれど、とても可愛いと思った。
お姉さんの背について最初に気づいたのは、お姉さんがヒールの靴を履いてることが多くなった頃だ。
僕とお姉さんは、だいたい同じくらいの時間に家を出る。お姉さんは電車に乗って大学へ行く。僕は自転車に乗って中学へ行く。
あれ? と思った。
肉まんを食べながら歩いた夜、お姉さんはペタンコのサンダルを履いていたけれど、僕より背が高かったはずだ。
ヒールの靴を履いたお姉さんは、僕より少し小さかった。
僕は「やった、背が伸びた!」と思って、いそいそと保健室に身長を測りに行った。
二ヶ月前に測った時から、1ミリも伸びていなかった。
僕の成長期は勢いが足りない。
お姉さんの靴の踵は、だんだんと高くなっていく。今朝会った時は十センチくらいの細いヒールの靴を履いて、壁づたいにガニ股で歩いていた。
僕と目が合うと少し動揺して視線をゆらゆらさまよわせて、そのあと困ったようにへにょっと笑った。
ヒールの靴を履いたお姉さんの背は、それでも僕より低かった。お姉さんの身長は、少しずつ縮んでいる。
そんなことがあるのだろうか?
大変なことなんじゃないかな? だってそんな病気は聞いたことがない。
お姉さんは、宇宙人とか異世界人なのだろうか? だんだん小さくなるなんて、普通の人だとはとても思えない。
僕は、大変な秘密に気づいてしまった。
不思議な力を持ったどこか違う世界の人が、地球人に偽装しているのだろうか?
僕は隣の部屋から感じる非日常的な気配に、なんだかワクワクした。まるでゲームか物語の中の出来事みたいだ。
でもそれだと、いつか自分の世界に帰ってしまう。それだと僕は、二度とお姉さんに会えなくなってしまう。
僕も一緒に連れて行ってもらう想像をしてみたけれど。
さすがにそれは、少し怖かった。
読んで頂き、ありがとうございます。
改稿しながら1時間ごとに、キリの良い部分まで投稿していきます。続きは21時ですよ笑!