第四話 仮説
クロマルが毎日外に出るようになってしばらくして、私の『毎日2ミリ小さくなる』という法則が崩れ出した。
小さくなるのが止まったわけではないらしく、不規則になったのだ。その変化に、私は戸惑いを覚えた。喜んで良いのか、どうなのか……。
私は今、約85センチ。三歳児くらいの身長だ。このあたりで止まるならば、この身体で生きてゆく覚悟を決めなければならない。
そんな宙ぶらりんな気持ちを持て余して、私は検証をすることにした。
小さくなる日と、ならない日。その日の行動や食べた物を書きとめて、比べてみることにした。
私の行動からは、法則性が見えて来ない。
けれど、クロマルの行動に目を向けた時。私が小さくなる日とピタリと一致した。
クロマルは外に遊びに出掛けると、家でごはんを食べない日がある。どこかで食べ物をもらったりしてあるのだろうか? そんな日の次の日、私は小さくなっていないのだ。
クロマルが出掛けても、家でごはんを食べた日は、いつも通りに小さくなる。
一度、思い切って丸一日、ごはんを抜いてみた。エサ入れのお皿の前でみゃあみゃあと鳴く様子に、罪悪感が半端なかったけれど。
その次の日、私は小さくなっていなかった。
もしかして……。
私が小さくなるのは、クロマルと関係があるのだろうか?
考えられるのは、クロマルの食事か食欲だろうか? クロマルはごはんと一緒に、私の『何か』を食べているのだろうか。
それって……妖怪か悪霊みたい?
ごはんを食べ終わったクロマルが、食後の毛繕いをはじめる。
何となく不服そうに見える背中を、プスプスと指でつつく。つついた部分の毛を、ピピピッと揺すって迷惑そうに振り向く。
例えば。クロマルが原因で私が小さくなっているとしたら――。
私はクロマルを手離すのだろうか?
クロマルをどこか遠くへ捨てに行く。ベランダのサッシを締め切って、中に入りたがるクロマルを締め出す。
考えただけで、胸が締め付けられた。私にそんなことが出来るのだろうか。
クロマルが長い尻尾をふわりと私に巻きつけるようにして、そのままスルリと素知らぬ顔ですり抜ける。あ、行っちゃうのかなと思ったら、戻ってきてストンと私の膝の上に腰を下ろした。
大きくなったなぁ。私が小さくなった分を差し引いても、クロマルは大きくなった。無理やり私の膝に乗って、はみ出している尻尾をフリフリと振っている。
私は今、クロマルを捨てに行くことを考えていたんだよ? 悪い妖怪なら、退治しなきゃダメなのかなって思っていたんだよ?
私は呑気に喉をゴロゴロと鳴らしているクロマルのほっぺを、びよーんと引っ張った。
私にそんなことが出来る筈がない。
クロマルは、普通の猫ではないのだろうか? 夢の中でクロマルは、夜空を駈けるように飛んでいた。
クロマルとはじめて逢った日のことを思い出す。クロマルは迷い猫だった。あの日。冷たい小雨の降る真冬の朝。
大きな公園の坂道に、クロマルはびしょ濡れでうずくまっていた。