表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
第三章 秘密のクロマル
36/96

第三話 小さな影

シュウくん視点。




 お姉さんに、小さなカップケーキをたくさんもらった。

 僕の自転車のカゴに、手紙と一緒に入っていた。先日クロマルを一緒に探して猫集会を巡ったお礼らしい。


 カップケーキは、甘くてしょっぱくて、ものすごく美味しかった。大きな紙袋に百個くらい入っていたけど、部活に持って行ったら、あっという間になくなってしまった。


 あまりの勢いにびっくりして、途中でなんとか取り上げて、僕の分を五個だけ確保した。


 あとで少しずつ大切に食べようと思ったのに、ひとつ食べたら止まらなくなって、つい全部いっぺんに食べてしまった。


 こんなことなら誰にもあげないで、全部一人で食べれば良かった。


 手紙の封筒の中に、猫の肉球の形のキーホルダーが入っていた。『Kuromaru』という小さなロゴが入っているので、これもお姉さんのお手製なんじゃないかな!


 めちゃくちゃ嬉しい。明るい茶色の革製で、パッと見るとカッコイイのに、よく見ると可愛い。

 ポケットに入れてあるのを、しょっちゅう触ってしまう。取り出して眺めて、ニヤニヤしてしまう。


 お姉さんに会ったら、カップケーキがものすごく美味しかったことと、キーホルダーをめちゃくちゃ気に入っていることを伝えたい。


 なんて言えば、僕の嬉しさが伝わるだろう!


 僕はお姉さんに会える日を、本当に楽しみにしていたんだ。


 それなのに。


 お姉さんは九月の終わりくらいから、パッタリと外に出て来なくなった。

 替わりにお姉さんの猫――、クロマルを外で見かけるようになった。


 なぜクロマルだとわかったかというと、首輪に僕とお揃いの、肉球の飾りをつけていたからだ。


 僕のは明るい茶色、クロマルのはもう少し濃い茶色。


 キーホルダーの肉球が、僕だけのものじゃなくて少しがっかりしたけれど、クロマルにはその飾りがとてもよく似合っていた。


 クロマルは毎朝、僕がランニングを終えてストレッチをしている時か、体幹トレーニングをしている頃に戻って来る。


 僕の事なんてまるっきり興味のない様子で、悠々と歩いて来る。普通の猫より少し手足が太くて尻尾が長い。なんて種類の猫だろう?


 塀の上に飛び上がり、木の枝を伝ってお姉さんの部屋のベランダへと飛び移る。


 しばらくすると、ベランダのサッシがカラカラと開く音がして、また閉じる。その音を聞いて僕は少しホッとする。


 良かった。お姉さんは今日も無事らしい。




 ある日の夕方。


 西の空に、夕焼けの名残りがほんの少し残っていて、近所の家から晩ごはんを作る良い匂いがする……そんな時間帯だったと思う。


 マンションの塀の上にいるクロマルを見かけた。長い尻尾をピンと立てて、のんびりと歩いている。

 これからお姉さんの待つ部屋へと帰って行くクロマルが、正直羨ましい。


 お姉さんと一緒のごはん、お姉さんと一緒にソファーでのんびり、お姉さんと一緒にベッドに……!


 いや、僕には少し刺激が強すぎるな。鼻血出そう……。


 僕がちょっとやましい妄想に耽っていたら、クロマルの少し後ろを、小さな影が横切った。


 僕の手のひらと、ちょうど同じくらいの大きさの影だ。


 辺りはもうすっかり暗くなっていたから、見間違いかも知れない。でも僕には、その影が人の形をしているように見えた。


 急いで塀まで走って辺りを探したけれど、それっぽいものは何も見つからなかった。


 けれど、たぶん。


 例えば僕の周りで、なにか不思議なことが起きたとしたら。それは、全てお姉さんが関係している。そう思って間違いない。


 お姉さんは僕が守る。僕はただの中学生だけれど、あの雨の日にそう決めた。



 僕は何か、戦う手段を手に入れなければいけない。







読んで頂きありがとうございます。続きは22時。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ