表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
第三章 秘密のクロマル
35/96

第二話 小春日和

 次の日の朝。


 のそのそと起き上がってすぐに身長を測ってみた。


 昨夜寝る前と一ミリも変わっていない。これで二日間縮まなかったことになる。


 ようやく小さくなってしまう日々が終わったのだろうか?


 ゆうべは叫び出したいほどに嬉しかった筈のに。今朝の私の心には『これではまだ充分じゃない』という思いがある。


 私の身長は83センチ。


 全国平均でいうと、ようやく歩きはじめる赤ちゃん相当らしい。こんなに小さくなってしまって、まだ充分じゃないって、どういうことだろう?


 自分の気持ちがわからない。


 この大きさで外を歩き、誰かに見つかろうものなら、すぐさまシャッターを切られるだろう。


『発見! 地底人はいた!』『衝撃映像! 小人を追いかけてみた!』


 そんな見出しのついた自分の動画を、ネット上で見る羽目にはなりたくない。


 そして赤ちゃんのふりはさすがにキツイ。緑のトンガリ帽子かぶって、ハイホーな小人のコスプレでもした方がマシだ。

 どうせなら、あと六人仲間を集めたい。


 気を取り直して、朝ごはんの玉子焼きを作る。何があっても、きちんとおなかと心を満たすごはんを食べることは、私の譲れないポリシーだ。


 クロマルが足元に絡みついて来る。無理やり踏み台に乗って、長い尻尾を私の身体に沿うように、ふわりと巻きつける。


 狭いよクロマル! 降りて降りて!


 冷蔵庫から牛乳を出して、室温になじませてからクロマルの前に置く。

 水やミルクなんかの、飲み物は飲むんだよねぇ。


 もしかして、外で狩りでもしているのだろうか? 鳥やネズミを追うクロマルの凛々しい姿を想像して、ちょっと胸が踊る。

 でもすぐに、その後の生々しい捕食シーンを思い浮かべて頭を振った。

 野生を忘れて欲しいとは言いにくいけれど、生食は止めて欲しい。寄生虫やウイルス感染が心配だ。


 全くもう。心配ばかりかけて。


 ゆうべは奇妙な夢を見た。クロマルが思い悩んでいるゆめだ。

 呑気に幸せそうに見えるクロマルだけれど、もしかして色々あるのかもなぁ。


 窓から差し込む日差しが、瞼を閉じても眩しさを残す。

 窓際までクッションを引っ張ってきて、日向ぼっこをしているクロマルの隣を陣取る。

 時折り尻尾がパタリと動くので、眠ってはいないようだ。


 まだ午前中だけど、ちょっとだけうとうとしちゃおうかな。


「小春日和」というのは、暖かい冬の日ではなく、旧暦の十月を指す言葉だと聞いたことがある。なるほど今日はまさにそんな感じだ。


 クロマルの首に抱きついて、暖かい日差しに目を細める。ゴロゴロという規則正しいリズムを聴いていると、不安な気持ちが遠ざかってゆく。


 今日はまだ、パソコン開いてもいない。顔も洗っていないし、朝ごはんの食器すら片していない。


 こんな日は、なにもしないで過ごしてしまおう。生産的なことなんて、何ひとつ手をつけず怠惰に過ごす。

 何も考えないで、クロマルと日向でお昼寝しよう。


 きっともうじき、クロマルと二人だけの、この不思議と穏やかな生活は終わりを告げる。

 だから、あと少しだけのんびりしたい。



 そう。せめて、この穏やかな日差しが陰るまで……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ