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秘密のクロマル  作者: はなまる
第三章 秘密のクロマル
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第一話 十一月下旬 90センチ

 クロマルが昨日から、ごはんを食べない。


 カリカリも缶詰もチュールも、あんなに好きだった鳥のササミ団子も一切口にしない。


 体調が悪い様子はなく、鼻もいつも通り湿っている。けれどごはんのお皿に近づきもしないし、目の前に置いてもフンフンと匂いを嗅ぐだけで、プイッとどいてしまう。


 クロマルを捕まえて口の中の様子を見る。嫌がって顔をテシテシ猫キックされだけれど、両足で胴体を押さえて無理やり口を開いた。


 私はずいぶん小さくなってしまったけれど、まだまだクロマルには負けやしないんだから!


 上下の牙や前歯を軽く押す。特に痛がる様子はなく、舌や口の中の異常も見当たらない。


 毛艶も良いしなあ。どこかで食べ物をもらっているのだろうか?


 猫じゃらしのおもちゃを取り出して、目の前で振ってみる。

 途端にヒゲをピンと立ち上がらせて低く構え、お尻をフリフリしはじめた。緩急をつけて動かすと、タシッと両手で押さえに来る。

 捕まらないようにパパッと逃げたり、高さを変えたりして攻防戦を仕掛ける。クロマルが飽きたら私の負けだ。


 ふう……! 息切れするくらいエキサイティングに遊んでしまった。小さくなるにつれて、クロマルとの遊びは、私にとっても良い運動になる。


 うーん、元気いっぱいに見える。


 やっぱり外で何か食べているのだろうか? 悪い物を食べたり、盗み食いをしていたらと考えると気が気ではない。


 大きな黒い甘えん坊は、いつまでも私に心配ばかりかける。


 クロマルが戦線離脱して顔を洗いはじめたので、私も一休みしてから身長を測ることにした。昨日はクロマルの心配をしていて、日課の身長測定を忘れてしまっていた。


 あれ? あれれ? ええっ……! まさか! ち、小さくなってない?


 震える手で折れ線グラフの日付を確認する。昨日測り忘れたのだから、四ミリ小さくなっているはずだ。


 メジャーの目盛りは、2ミリ減って90センチと六ミリ。

 一昨日の夜、又は昨日の夜は縮まなかったってこと?


 いやいや! 喜び過ぎてはいけない。今まで確かに毎日小さくなっていたけれど、一日休みがあっても不思議ではない。違う、そもそも小さくなることが不思議なんだって。


「と、とりあえず今日は早寝しよう。そして明日の朝、また身長を測ろう!」


 私は落ち着かない気分で一日を過ごし、三倍速でごはんとお風呂を済ませ、夕方の散歩から帰ったクロマルを布団に引き摺り込んで、早々に眠りについた。




 そうしてその晩……。また夢を見た。


 クロマルが夜空を駆ける。駆けるように飛んでいる。私はすっかり小さくなっていて、クロマルの背中にしがみ付いていた。


 以前はクロマルに乗って草原を駆け抜ける夢だった。


 今度は空を飛んでいる。


 黄色い大きな、見た事もないほど大きな月に向かって飛んでいる。月がこの大きさという事は。もしかして、振り返れば地球が見えるのだろうか? ちょっと怖い。


 小さく頼りなく、歌が聞こえる。聞いたことのない歌なのに、なぜか懐かしさで胸が熱くなる。


『飛びたい。もっと高く、もっと遠くへ!』


『イヤだイヤだ。飛ぶ力なんていらない! カナちゃんと一緒にいる方がいい!』


 クロマルの気持ちが伝わって来る。何か深刻な悩みがあるみたいだ。私で力になれるだろうか?


 クロマル落ち着いて。飛びたいなら、飛んでいいよ! 私と一緒にいたいなら、私も飛ぶよ!

 あの歌の聞こえる方に行ってみようよ。ほら、クロマルを呼んでいるよ!


 夢から覚めると、マラソン大会の後のように、妙に爽やかな倦怠感に包まれていた。


 クロマルが私の枕元で「うにゃーん、うみゃおーん」と寝言を言っている。手足が時折りピクンと動く。


 ふふふ。猫も寝言いうんだ! もしかして私と同じ夢を見ているの?


 大丈夫。大丈夫だよ、クロマル。怖くなーい、怖くない。夢だから、大丈夫だよ!



 私はクロマルを抱き締めて、また眠りに落ちて行った。



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