幕前
夢を見た。
私はすっかり小さくなっていて、クロマルの背中に跨って、見渡す限りのススキ野原をどこまでも駆けてゆく夢だ。
時折りススキの穂が私の頭をピシリと叩く。
穂を避けてクロマルの背中の毛に埋めていた顔を上げると、背の高い植物をかき分けて進むスピード感に、目が眩んでしまいそうになった。
凄い凄い! クロマルはこんなに早く走れるんだ! なんて素敵!
クロマルの上等の天鵞絨のような毛並みから、オレンジ色の光の粒がいくつも、いくつも立ち昇る。
光の粒は私の耳元で、パチパチと音を立て弾けて散る。弾けた粒で、私の髪の毛が静電気を帯びたように、フワリと立ち上がる。
「ふふふ、クロマルったら!」
猫じゃなくて、まるで物語の中の不思議な生きものみたい。
首の後ろに抱きついて、いつも通りのお日様の匂いをスンスンと鼻を鳴らして吸い込んだ。
そうか、私はこのために小さくなるのか。クロマルの背中に乗って、一緒に走るために。
クロマルは、私をどこに連れて行ってくれるんだろう。
怖くないよ、クロマルと一緒だもん。
うん、行こう! 風の歌を聴きながら、草の海をかき分けて、どこまでも……どこまでも、一緒に走って行こう。
そんな夢だった。