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秘密のクロマル  作者: はなまる
第二章 僕とお姉さんの夏休み
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第十一話 九月 105センチ

 いよいよ、ドアノブに手が届かなくなった。私の手の大きさだと、そろそろ握りこむことも難しい。

 レバーハンドルタイプのものと、交換しなくてはならない。


 家中のドアノブを交換するとなると、けっこう大変だ。玄関、トイレ、納戸、キッチン、寝室の四つ。


 ネットで検索したDIY関係の記事を読んだ限りでは、ドライバーさえ使えればそう難しい作業ではなさそう。


 この『頑張ればなんとかなる感じ』というのが厄介だ。業者に頼むより格段に安上がりなのだけれど、素人仕事はあとでガタがきたりする。


「ネジが早々に緩んでしまう」「ネジのアタマの『+』部分が潰れてしまう」

 これは握力の弱い女性によくあることだ。今の私に握力は期待出来ない。


 という訳で、コンパクトで軽い電動ドライバーを買った。そして『作業服メーカーが本気で作りました!』というキャッチコピーに惹かれ、お値段も本格的な幼児用作業ツナギも買ってしまった。


 お揃いの生地で作った帽子とセット。ポケットがたくさん付いていて、使い勝手も良さそう。時にはカタチから入るのも悪くない。だって楽しいもの!


 よーし、作業開始だ!


 九月とはいえヒッコリーデニムの長袖ではまだ暑いので、ツナギの上半身を脱ぎ、袖部分を腰で結ぶ。

 帽子のつばを後ろ向きに被り、軍手をはめる。あとは鼻か頰に絆創膏を貼り、チューインガムを噛めば完璧だ。さすがにやらないけど。


 よーし、ヤル気が漲ってきた!


 もともと、こういった作業は嫌いじゃない。ギューンという電動ドライバーの音が、工事感増し増しでテンションが上がる。


 電動ドライバーで、ネジが吸い込まれるように短くなっていくのが、めちゃくちゃ楽しい。


 しばらくすると、音に驚いて隠れていたクロマルがこっそり覗きに来た。耳をへたりと倒して、顔の半分だけを柱の向こう側から覗かせている。


 ふふふ。怖がりなくせに、好奇心だけは強いんだから!


 ネジをコロコロと転がして遊ぶクロマルを、片手間でいなしながら作業を続ける。全く! いたずらっ子なんだから!


 けっきょく作業は夕方までかかった。もう電動ドライバーが持ち上がらない。カクカクと震えてしまう腕を騙しながら後片付けをしていたら、クロマルがドアに向かってお尻をフリフリしはじめた。


 視線は取り付けたばかりのドアレバー。跳ぶの? 開けるの?


 何度かジャンプを繰り返し、カチャリとドアが開いた。クロマルは私の方を振り向いて、得意そうな顔で鼻をフンと鳴らした。


「すごい、すごい! 出来たねクロマル!」 


 走り寄ってクロマルをぎゅうと抱きしめたら、ゴロゴロと喉を鳴らして目を細めた。


 私の『作業完了の達成感』とクロマルの『ジャンプ成功して嬉しい気持ち』が重なり合ってシンクロする。


「えへへ! カナちゃんに褒められちゃった!」



 クロマルのそんな嬉しそうな声が、聞こえた気がした。




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