第八話 夏祭り④ 打ち上げ花火
暗い空にパッと光の花が咲く。少し遅れてドーンという音が響く。
今年の花火大会は、コンテストを兼ねている。近隣の工房の、腕っこきの職人さんの作品が、解説のアナウンス付きで次々に上がる。
『水辺の蛍』とか『金平糖の恋』とか、花火に名前がついているのが楽しい。
「ナナちゃん、見える?」
最初の花火が上がった時から、言おうと思っていたことを、やっと口にする。人垣に囲まれた小さなお姉さんに、見えているはずがない。
でも、お姉さんに花火を見えるようにするって。肩車か抱っことかしか僕には思いつかないんだ! そんな申し出を……しちゃって良いのだろうか?
「う……ん」
歯切れの悪い返事が返ってきた。そうだよね、見えないよね。どうしよう。
「か、肩車する?」
フルフルと首を振る。ああ、良かった。浴衣のお姉さんを肩車とか、考えただけで爆発する。特に太腿とか、浴衣の裾とか。
「抱っこは?」
やましい気持ちはないからと、弁解したくてたまらない。僕はお姉さんに、花火を見せてあげたいだけだ。
……ホントだってば!
コテンと首を傾げて考える。お姉さんの子供ぶりっ子、板に付き過ぎじゃないかな? 本当に小さな子と話してるみたいだ。
お姉さんが両手をあげて、僕の方に向けて広げた。こ、これは!
”抱っこして”のポーズ……?
う、うろたえてはいけない! そうだ! お父さんの気持ちになろう!
ほうら、ナナ! 花火だぞう!
お姉さんを、僕の左手の上に座らせるみたいに抱き上げる。いわゆる子供抱っこだ。
耳からプシューッと湯気が出てきそう。お姉さんは頼りないくらい軽くて、ふわっと柔らかかった。
その時、どこかの花火工房の、なんとかさんが作った十号割物とやらが、一層大きく開いてから一瞬おいてドーンと響いた。夜空に大きな花束が広がっていく。
お姉さんの僕のシャツを掴む手に、力がこもった。
「キレイだね」と僕が言う。
「うん、キレイ」とお姉さんが言う。
お姉さんの口元が、いつも通りへにょっと緩むのを見て、僕は花火職人のなんとかさんを、拍手で讃えたくなった。
今、あなたの作った花火玉が、僕の好きな人を笑顔にしています。僕の大好きな笑顔です。ありがとう!
周りを見渡せば、誰も彼もが笑っていた。みんなが優しい気持ちで、同じように夜空を見上げている。
なんてすごい事だろう。
僕もそんな大人になりたい。こんなにたくさんの人じゃなくてもいい。
誰かを……。大好きな人の口元を、柔らかく微笑ませるような、そんなことができる人になりたい。
最後の花火は大迫力の音と共に、盛大に、一斉に、鮮やかに、夜空を彩ってゆく。見応えのあるフィナーレに拍手と歓声が湧きあがった。
僕とお姉さんの夏祭りは、こうして幕を閉じた。
夏祭り、終わってしまいましたね。お話はまた、カナリの小さくなる日常へと戻ります。投稿は夜22時になります。