第一話 僕に出来ること
お姉さんは、だんだん小さくなることを隠している。
子供のふりをしているし、人気のない夜中や朝にしか外に出て来ない。自分が普通でないことをわかっていて、隠れるように暮らしている。
お姉さんが隠れているのは普通の人たちからなのだろうか。それとも僕には太刀打ちできないような、敵や追っ手がいるのだろうか?
お姉さんにまつわる疑問はたくさんある。
「なぜ小さくなるのか」
「そもそも何者なのか」
「小さくなるのは想定内のことなのか」
「どのくらいまで小さくなるのか」
僕は全ての疑問を、一旦忘れようと思う。知りたくないと言えば嘘になるけれど、秘密を突きとめたって仕方ないんだって気がついた。
お姉さんが僕に打ち明けてくれなければ、意味なんてない。僕は、今の僕の出来ることを、探さなくてはならない。
ボールペンをくるくると回しながら、思いついた事をメモしていく。
『未来人・宇宙人・異世界人の場合』
・できる限り力になる
・帰る方法を一緒に探す(でも帰ってしまうのは嫌かも)
・敵がいるなら僕も一緒に戦う(出来るのか?)
・現地人(地球人)にしか出来ないことを協力する。
『特異体質や病気の場合』
・小さくなる病気について調べる
・治療方法を探す(命の危険は?)
『小さくなって困っている事を手助けする』
・話し相手になる
・悩みの相談にのる
・行きたい所に連れて行ってあげる
・重いものや大きい物を運んであげる
・高いところの物を取ってあげる
最後の方……なんか普通の親切な人みたいだな。年配の人向けのボランティアする時の注意事項みたい。
僕はただの中学生だ。特に選ばれた存在でも、何かに目覚めた訳でもない。僕にできることなんて、たかが知れている。
おまけに、いくら小さいからと言って、お姉さんは大人だ。大人が中学生に相談ごとなんて普通はしない。そして力になるには、困っている事を打ち明けてもらわないと話にならない。
せめて僕がお姉さんと、同じくらいの年齢だったら良かったのに。
無力感に圧し潰されそうになって、机に突っ伏してため息をつく。でもこのまま何もしないでいるのは嫌だ。
具体的に考えてみよう。
一、お姉さんの秘密を知らないふりして、影ながら見守ったり、力になったり、守ったりする
二、お姉さんの秘密を知っていることを明かして、全面的に協力する
これは一番だ。お姉さんは全力で隠れている。僕が秘密を知っていることに気づいたら、どこか遠くに行ってしまうかも知れない。
一、隣の部屋に住む、中学生として協力する
二、雨の日に会ったお兄さんとして協力する
これは二番かな。子供のふりをしているお姉さんなら、僕を少しは頼ってくれるかも知れない。
隣の部屋の中学生としては、関わり合いにならないにようにしよう。僕の方が混乱してボロを出してしまうかも知れないし、お母さんに秘密を知られてしまうのも困る。
もうすぐ夏休みがはじまる。そうすれば部活は毎日あるけれど、宿題もきっとたっぷり出るけれど、僕がお姉さんのために使える時間は、少なくはないはずだ。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、直接ゴクゴクと飲み干す。夏バテなんかしてる場合じゃない。
エクスカリバーやレベルアップポーションを持っているのは、ゲームの中の僕だけだ。今の僕が手にする事が出来るのは、牛乳が関の山だ。
お姉さんの圧倒的に不思議な事情に怖気づきそうになる。
けれど、後に引く気はない。
僕はお姉さんと、ほんの少しでも関わり合いになっていたい。
欲しいものはクリスマスの朝、枕元の靴下に入っていた。困ったことは、大人がどうにかしてくれた。
そんな子供みたいな僕は、あの雨の日に置いて来た。
僕はほんの少しでも、今より強くならなくてはいけない。