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秘密のクロマル  作者: はなまる
第一章 小さくなる日々
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第十七話 七月初旬 115センチ

 クロマルが、毎日もりもり大きくなる。


 私が毎日少しずつ小さくなっているので、体感速度が三割増しだ。


 今のクロマルは、ティッシュの箱よりひとまわり小さいくらい。私にしてみると中型犬くらいの大きさだ。

 短く、パタパタと不器用に振り回していた尻尾も、ずいぶん長くなった。生意気にもしなやかに身体に沿わせて、ゆっくりと漂うように揺らしている。


 ポヨポヨとタンポポの綿毛のようだったうぶ毛に混じって、少し濃い色の毛が生えてきた。きっともうすぐ、ツヤツヤの立派な短毛に生え変わる。


 いつまでも私の手の中に入れておきたい。けれど、目の前で徐々に大きく強くなってゆくその成長が誇らしい。相反するようで、実はそうでもないのが親心だ。


「クロマル!」と呼ぶと、白いヒゲを傘の骨の部分のように広げ、翡翠色の美しい瞳を見開いて私の言葉を待つ。

 私に焦点を合わせた瞳孔がキューっと細くなり、アーモンド型の目に精悍さと幼さが危ういバランスで滲む。


「おいで」


 目を細め耳を伏せ、小走りで走り寄って来る。私の太ももに頭をすり寄せ、見上げた顔でみゃあと鳴く。お互いにお互いしか映さない瞳で見つめ合うのは、不健康であるが故の甘美さを伴う。


 もー! なんて可愛い子なんでしょ!!


 抱きしめて、ぶっちゅーと音をさせて頰にキスをすると、若干迷惑そうに前足で私の顔を押し退ける。肉球がぷにぷにと心地よい。


 そんな釣れないクロマルさんも素敵!


 まだ柔らかさを残した毛並みに、指を入れてそのまま滑らせると、ごっそりと抜ける。


 夏を目前に控えて、クロマル抜け毛が激しい。毎朝ブラッシングをしていても、ベッドの下や部屋の隅にクロマルの抜け毛の塊が、ダンブルウィードのように転がっている。


 小さくなって目線が低くなったせいか、床のホコリやゴミがやけに目に入る。近眼が治ってしまったせいかも知れない。仕方なしにこまめに掃除機をかけている。


 小さくなった私には色々なモノが、大きく重く使いにくい。世の中は私サイズの人間用には出来ていないのだ。そろそろ掃除機も買い換えないとキツイ。


 とはいえ、私にはネットショッピングと、ある程度の経済力がある。引きこもりに優しい時代で本当に良かった。

 軽くてコンパクトな掃除機を探して「カートに入れる」をポチッとする。あとは届くのを待つばかりだ。なんて便利な世の中だろう。置き配って素晴らしい。


 これが江戸時代だったら、お腹が空いてふらふらと外に出た途端に、見世物小屋あたりに売られてしまいそうだ。考えただけでゾッとする。配達のお兄さん、いつも本当にありがとう!


 世間はそろそろ梅雨が明ける。私が小さくなりはじめて、三つ目の季節。


 影が色を濃くして、日差しが音をたてて降り注ぐ。


 夏がやってくる。




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