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秘密のクロマル  作者: はなまる
第一章 小さくなる日々
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第十六話 篠突く雨 120センチ

 うーん。止まらないなぁ。まだ小さくなっちゃうんだ。


 毎朝の日課、身体測定を済ませて、データを折れ線グラフに書き込む。そろそろ自分が何者なのか、果たして本当に人類に類しているのか。ちょっと自信がなくなってくる。


 小さくなっていることに気づいてから約半年。今の私の身長は120センチ。もともと160センチだったので、実に40センチも小さくなってしまった。

 体重は18キロ。ずいぶんコンパクトになったものだ。


 服や靴は、ネット通販で子供用のものを買っている。最近の子供用品は、デザインもクオリティも、大人のものと遜色がない。細かいサイズも乗っていて、とても重宝している。

 下着にも困っていない。最近の小学生は紐パン履くんだね。びっくりだよマジで。


 ブラジャーだけは子供用は売っていないので、女児用のスポーツウェアで、上下が分かれているものを使っている。素晴らしく伸びる素材なので特に問題はない。


 問題ないところが成人女子としては、敗北感が否めない。


 そういえばうちの母さんは、服作りが得意だった。テレビや雑誌で見た可愛い服を、見事に再現して作ってくれたっけ。私はどうもミシンと相性が悪くて、全然言うことを聞いてくれない。


 昨日、晩ごはんの用意をしていて、ナイフで指を切ってしまった。当然ダバダバと血が出た。以前と変わらない赤い血だ。ペロリと舐めれば鉄臭く生臭く、それでいて少し懐かしい味がする。

 しばらくすると血は止まり、傷口はうっすらとカサブタになった。


 考えてみると、私は小さくなってはいるけれど、人間としての機能は少しも損なわれていない。脳も内臓も血液も、充分に働いてくれている。生きていく上でなんの支障もない。

 これは、細胞レベルで小さくなっているということなのだろうか?


 そうであって欲しいと思う。どうせ小さくなるのなら、私のままでそうなりたい。


 普通の大きさの成人女性の細胞と、顕微鏡で比べて見てみたい。病院のメガネ先生に頼んだら、調べてくれるだろうか?

 でも、研究とかされるのは、ちょっと遠慮したいんだよなぁ。


 私が小さくなっているのではなくて、私以外の全てのものが、大きくなっているのだとしたら? ふと、そんなことを考えて、ブワッと腕に鳥肌が立った。


「私だけが小さくなっている」

「私以外の全てのものが大きくなっている」


 私を置き去りにして、世界が変わってしまう方が恐ろしいと感じた。どちらも一人、はみ出すことに違いはないのだけれど。


 毎晩クロマルの心臓の音を聞きながら眠る。トクトクトクと、規則正しく脈を打つ。クロマルは私の大きさなんか気にしない。私が私であるだけで、肩口に顔を寄せて丸くなる。


 篠突く雨が降る。


 よりいっそう私とクロマルを閉じ込める雨が、屋根を打ち、窓を叩いて降り続く。




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