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秘密のクロマル  作者: はなまる
第一章 小さくなる日々
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第十五話 六月初旬 125センチ

 朝から雲ひとつないピカピカの快晴だ。


 毎日もりもり勢いを増してゆくお日様、汗ばんだ額に心地よい初夏の風。

 ああ、空はなぜ青いのだろう。それは見上げる僕のため、君の涙を止めるため。


 いいや! 布団をふかふかにするためだ!


 布団! お布団干したい!


 二週間に一度くらいは、布団乾燥機を使っている。布団大の付属マットに、ブォーっと温風を吹き込むアレだ。


 アレはアレで非常に好きだ。掛け布団と敷布団の間に入れて、掛け布団がぽっこりと膨らんでゆく様子を見るのが好きだ。ぽっこりの上に飛び乗りたくて堪らなくなる。

 クロマルがぽっこり布団の上を、ポフポフと楽しそうに歩くのを見るのも大好きだ。


 けれど天気の良い朝の、布団を干したい欲求にも抗いがたいものがある。


 今の私は身長125センチくらい。小学校一年生相当の私に、大人用の布団は途方もなく大きく、そして重い。


 まずは、ベランダまでの障害物を片付けるべきだろう。テーブルを端に寄せて――。

 あっ、ちょっ、おもっ! 動かない! コレ無理かも。うぬぬ。


 仕方ない、こっちに通路を確保しよう。二人掛けのソファを――。っっんんん!

 ぐががぁー! んあっ! よし! 動いた!


 これは大変だ。そろそろ家具の移動は限界らしい。適度に狭くて、居心地の良かった部屋を見渡してため息をつく。


 だが今は布団を干そう。布団は午前中に干してこそだ。


 ベッドの上によじ登り、掛け布団を四つ折りにする。安売りの羽毛布団だが、なかなかのボリュームだ。ベッドから降りて、布団を抱える。せっかく苦労して四つ折りにしたのに、私では両手でも抱えきれない。


 結局、ズルズルと引き摺るようにしてベランダに出ると、そこには壁のように(そび)える、見上げるばかりの手摺があった。私は思わず膝をつき、無力感に打ちひしがれる。


 届 か な  い!


 いいや! 私には脚立がある。こんなところで諦めてなるものか! お気に入りの脚立を持ってベランダに出る。非常に軽くそれでいて安定感バツグン、高さの調節も三段階のステキ仕様だ。


 今日は何としても布団を干す! 三時間干したにのち裏返して両面。できれば敷布団も干したい。


 敷布団の移動には更に苦労した。何しろ三つ折り以上に小さくならないのだ。重さも掛け布団の比ではない。


 近頃は快適に暮らしたい私と、小さくなる私の、イタチごっこのような毎日だ。先回りして考えて、工夫を凝らさなければ回らない。立ち止まっていたら、あっという間に詰んでしまう。


 汗だくになり、ようやく布団を干し終わったらお腹がぐぅと鳴った。夢中になって、朝ごはんを忘れていた。

 日が暮れる前に、布団を取り込むのは干した時より大変だろう。その労力を想うと気が遠くなりそうだ。


 きっと明日は筋肉痛だなぁ。


 今夜は早々に、ふかふかの布団にクロマルと一緒に潜り込もう。喉をグルグルと鳴らしながら、布団をモミモミするクロマルは、それはそれは可愛い。ご褒美はそれで充分だ。


 六月の最初の晴れた木曜は、布団にはじまり布団で終わる。


 もうじき、雨の季節がやってくる。




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