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秘密のクロマル  作者: はなまる
第一章 小さくなる日々
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第十話 厄介な僕の初恋

シュウ視点。

 隣のお姉さんから、三色団子が届いた。緑とピンクと白の三色。よく絵本や漫画に出てくるやつだ。本物は初めて見た。



 たくさん作ってしまったので、おすそ分けです。良かったら召し上がって下さい。

                203号室 佐伯佳奈莉



 ピンク色の団子は苺味。緑色は抹茶、白いのはナッツが入っていた。ほんのり甘くて柔らかい。

 クラスの女子が、時々クッキーを焼いて学校に持って来たりしている。バレンタインに小さな丸いコロコロしたチョコをもらったこともある。


 だけど、お団子を作るなんて聞いたこともない。お姉さん、ちょっと年寄りくさいんじゃない?


 でも小さくて柔らかいお団子は、お姉さんにとても似合っている気がした。


「あら、おいしい! 若いのにお上手ねぇ。でもお隣さん、最近見かけないわね」


 お母さんがそんなことを言いながら、お団子を三本も食べてしまった。僕は二本しか食べていないのに!


「何かお礼をしないといけないわねぇ」


 お母さんとお姉さんを会わせたらダメだ。お姉さんの秘密は、誰にも知られるわけにはいかない。


「何か持って行くなら、僕が行くよ!」


 つい、ガタンと椅子から立ち上がってしまった。ムキになって言った僕にお母さんが「あらあら」という顔をした。


 違う! 違わないかも知れないけど違う! そういうんじゃないってば!



 お姉さんの名前を初めて知った。『カナリ』という読み方でいいのだろうか? こっそりと口の中で呟くと、なぜか身もだえしたくなるほど恥ずかしかった。


 自分の部屋で一人の時、ノートに僕の名前と並べて書いたり、僕の苗字のあとに、お姉さんの名前を書いたりしてしまった。


 こんなノートを誰かに見られたら、僕は世界を壊してしまいたくなるだろう。透明人間がいたらどうしようかと、少し真面目に考えてしまった。


 僕のお姉さんへの気持ちは、少し方向性を間違えているだろうか?


 ことあるごとに、あの日のことを思い出す。


 あの日。


 春休みの朝、僕がお姉さんの後を電車でついて行った、あの日。お姉さんは知らない男の人と会っていた。


 河川敷は見通しが良くて、隠れる場所がなかったから、僕は土手の上でストレッチをするふりをしながら様子を伺った。部活に行く途中だった僕はジャージを着ていたので、なんの不自然さもない。


 しばらくすると男の人が立ち上がって、お姉さんがビックリした様子で後ずさる。


 遠くても、明らかにお姉さんが動揺しているのがわかった。


 お姉さんが危ない!


 僕は後の事も先の事も考えられなくなって、土手を駆け下りた。


 ところが。


 お姉さんは男の人に、何か押し付けるように手渡すと、きびすを返して走り出した。僕とは逆の方向に、一目散に走って行く。


 僕は今更止まるわけにもいかなくて、仕方ないのでそのまま河川敷のグラウンドを二周した。

 男の人はしばらく立ち尽くしてお姉さんを見送った後、ストレッチをしてから帰って行った。


 僕も同じようにストレッチをして、電車に乗って家に帰った。


 なんだかやけに疲れた一日だった。


 僕はあの日のことを考える。お姉さんは男の人に何を渡していたんだろう。なんであんなに驚いて、どうして逃げたりしたんだろう。


 お姉さんが未来人や宇宙人や異世界人だとしたら、あの男の人はエージェントの人で、データや提出物の受け渡しをしていたんだろうか。


 それとも敵か悪人で、脅されたりしているんだろうか。


 それとも。


 あの男の人は、お姉さんの恋人なんだろうか。


 ずいぶんと年下だっていうだけで、僕はとても不利だと思う。唯一の接点は僕がお姉さんの秘密を知っていること。そして、僕はお姉さんの味方だということだ。


 お姉さんはそんなことは、少しも気づいていないんだけどね。


 どうやら僕の初恋は、とても厄介で、なおかつ一筋縄ではいかないらしい。








読んで頂きありがとうございます。続きは22時です!

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