現場
わたしはスクープを狙うフリーのカメラマン。
今日も奇跡の1枚を撮るべく、勘を頼りに夜の街を巡っている。
この半年で空き巣に放火、はたまた殺人事件など数々の現場をレンズに収めることができた。これが仕事とはいえ、そういう場所に出向くのはあまり気乗りはしない。
ある日、取材でよく顔を合わせる刑事と店先で出くわした。
刑事は『またお前か』と言わんばかりの顔で立ち去ろうとしたが、ネタが欲しかったわたしは彼を追いかけた。
「先日の放火も、お前に話せるような情報はない。新聞に書いてある通りだ」
残念な反面、少しほっとした。
わたしだけの特別な仕事は、しばらく邪魔をされないということだ。
「犯人は現場に戻るって言うくらいだから、お前が撮ったやつにホシが写っているかもなぁ。それで事件が解決すれば、賞金がもらえるんじゃないか?」
彼はわたしをからかうようにこう言い残し車に乗り込んだ。
「写っているわけないじゃないですか」
わたしの台詞はエンジンの始動音でかき消された。
『犯人は現場に戻る』
刑事の指摘通り、確かに現場にはよく戻っている。
しかし、わたしは犯行記録こそカメラに残してはいるが、証拠になるような物は現場に残していない。
(すこし・ふしぎシリーズ『現場』 おわり)