妖精達は異世界人が抱くイメージに困惑しています
とある街の酒場。
ここに種族の違う二人がテーブルについていた。
ひとりは15cm程の身長であるフェアリー族のオフェリア。
もうひとりはずんぐりむっくりで1m程の身長であるドワーフ族のザザ。
「なぁ、聞いてくれよザザ。本当、最近の人間共ってあり得ないんだよ」
蒸留酒のミルク割をちびちび飲みながらオフェリアが愚痴る。
「俺らフェアリー族の鱗粉ってさ確かに特殊な効果があるよ?ちょっとした傷の回復だって出来るしさ。だから俺だって種族的な強みを生かして病院で働いてるわけじゃん」
「うんうん」
「それがさ、最近俺の鱗粉に『飛ぶ効果』があると勘違いして俺の体持ってぶんぶん振る連中が少しずつ増えて来たんだよ」
「マジか。お前の鱗粉って吸ったら『飛べる』のかよ」
「待て待て待て待て。それ違うからね。違う意味で飛んでるからね。『飛行』の方だよ?『非行』じゃないからそこ間違うなよ!?」
すまん、とザザは笑いながら謝る。
「全くよ~、もう少しで警備兵にしょっ引かれる話題になる所だったぜ。まあ、ともかくだ。何か知らねぇけどフェアリーの鱗粉にそんな効果は無いんだよ。ていうか人間だって魔力高ければ飛べるだろ?」
「そう言えばこの前、あれ人間の一種だと思うが変な格好して『シュワッチ』とか飛んでる奴見たぞ?」
「マジかよ。人間って半端ねぇな…………まあ、後よ。女の子が『伝説の戦士になれる力』くださいって言ってくるんだよ。何の話だよ!って思って聞いてみたらそいつ異世界転生者だったわ」
異世界転生者という言葉にザザが顔を曇らせる。
「あーそれかぁ。あっちの文化基準で俺達に過度な期待してるってパティーンか」
「まあな。てか何だよ『パティーン』って。パターンじゃねぇのかよ…………何かあっちの世界の妖精は鱗粉で飛行能力を付与したり、契約したらすっごい力を持った戦士になれるってイメージがあるらしいぜ。俺に出来るのはせいぜい連帯保証人になってやるくらいだよ」
「お前いい奴だなぁ……でも、それって保証人になってやった奴が消えて借金背負うパティーンじゃねぇのか?」
「1回あったけどよ……まあ、それでも、あいつにはあいつなりに葛藤があったって俺は信じてるぜ」
「いい奴だなぁ……しかしまあ、異世界転生者か。あいつら困るんだよなぁ」
ザザはため息をつき梅ジュースを流し込む。
「ほら、俺工房で働いてるじゃん」
「ああ。そういやそうだよな」
「最近さ、やたら俺に武器を作ってくれって頼んでくる奴らが居るんだよな。俺、木彫り細工の製作者だぞ!?何だよ武器を作れって!専門は男の裸像彫なんだよ!!」
「マジかよ。それじゃあまさかそいつらってのも……」
ああ、とザザは肩を落とす。
「異世界転生者だった。あいつら、ドワーフが作った武器は一級品だとか勘違いしてるんだよ。だから金属の塊とかモンスターの素材持ってくるんだけどよ。止めてくれよ!鱗なんて見たくないんだよ。ドラゴンなんてあれ、デカい爬虫類じゃん。俺、ダメなんだよ!!」
「辛いなぁ……」
「後、仲良くなったと思ったらドワーフは酒豪だって勘違いしてるみたいで俺に無茶苦茶酒を進めるんんだけどよ。俺、下戸だからね?今だってジュースだからね?マスターには悪いけどアルコールダメなんだよ。もうこの間無茶苦茶飲まされた時はこのままお持ち帰りされるかと思ったよ!!」
「異世界転生者ってアルハラ率高いよなぁ……」
「後な。武器作成なら人間の方が上手じゃねぇか。俺の知り合いの娘なんか『創造錬成』とか言って魔力で武器作って戦ってたぞ?何だよあれ!?」
「ああ、それな。俺が働いてる病院の婦長居るじゃん?あの人の姪じゃね?何か父親が転生者らしいぜ」
「あー、そういうパティーンもあるのかよ」
そう言えば、とオフェリアは思い出す。
「ドラゴンで思い出したけどよ……何か転生者で『ドラゴン退治、一緒にしてくれ』とか言ってきた奴いたぞ?いや、冷静に考えろよ。この身体で何が出来る?一瞬でぷちっだよ?だけど『ドラゴン技はフェアリーには効かないから』とかわけのわからない事言いだすんだよ……聞いた事ねぇよそんなフェアリー……絶対やべぇクスリやってるよ」
二人はそろってため息をつき呟いた。
「「人間って怖ぇなぁ……」」
こうして夜は更けていく………
ちなみにふたりの会話の中に出てくる『シュワッチ』と『創造錬金』は異世界ニルヴァーナシリーズに出てくるレム家の子ども達の事です。
二人とも転生者が父親な影響か変なスキル持ちです。