表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーストライト  作者: 綿貫ソウ
第三章
50/51

閉幕

「杉崎」

 そこには彼女が息を切らして立っていた。どうやら、舞台の裏から客席を通ってきたらしい。制服を着た彼女の目元には、涙のあとが残っていた。

「金賞、おめでとう」

「うん、ありがと」

「音楽のことはよく分かんないけど、すごく良かった」

「そっか、それはよかったよ」

 杉崎はそう言うと、思い出したように、くすくすと笑い始めた。

「ていうか、なんでパジャマなの?」

「急いでたから」 

「演奏中吹き出しそうになったからやめてよ。笑ったら演奏が台無しだったんだから」

 杉崎が微笑んでいたように見えたのは、どうやらこの服装のせいらしかった。彼女はひとしきり笑ったあと、僕を見ていった。

「ありがと」

「……」

「今日来てくれて」

 杉崎は微笑んだ。

 だけど僕は、何も返すことが、出来なかった。

 客席から席を立つ人たちが、僕たちの横を通り過ぎる。何も言えない僕を置いて、時間だけが進んでいく。

 臆病な自分が『逃げよう』と僕に言う。

 杉崎は本当は怒っているのかも知れない。学校に行かないことに、メールに返信しないことに、演奏の途中に来たことに。怒りや嫌悪を隠して、僕に微笑みを向けているのかもしれない。彼女の言動の中には、僕に対する皮肉が込められているのかもしれない。

『お前は、人と関わることに向いていない。だから、逃げよう。そして人と関わることは避けて、できる限り一人でいよう。その方が楽だし、傷つかない。人を傷つけることもない』

 杉崎が、動かない僕に、不思議そうな目を向けた。

「智也くん?」

 閉幕作業をする人が、僕たちをみている。気付くと客席に人はいなかった。僕と杉崎だけが、ただそこにいた。

 僕の足は、出口に向こうとしていた。もうここにいるのも迷惑だし、「それじゃあ」と言って帰ればいい。不自然なことはどこにもない。

「杉崎ちゃん!」

 そのとき、舞台袖から同じ高校の制服を着た子が杉崎を呼んだ。

「集まりがあるから早くもどってきて!」

「うん、今いく!」

 杉崎の足が舞台の方に向く。「それじゃあ」と、彼女の口が動く。僕もそのまま──


『だから、きっと、君も変われるよ』


 そのとき。

 志穂の声が聞こえた、気がした。

 そうだ。

 僕はずっと──

「杉崎!」

「え?」

 少し離れた所で、彼女は振り向く。

 僕は、臆病な自分を殺して、口を開く。

「ごめん。今日は初めから来れなくて。もう関わらないなんて、冷たいことを言って」

 嫌われたら、仕方ない。そのとき、僕は傷つくのかもしれない。

 でも。

 それでも。

 僕は、杉崎と関わりたかった。

「虫が良い話かもしれないけど──」

 一度だけ、息を吸った。

 緊張で、足が震える。

 恐怖と不安が、同時にやってくる。

 僕は、顔を上げて杉崎を見る。

「もう一度、僕と友だちになってほしい」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ