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ゴーストライト  作者: 綿貫ソウ
第三章
31/51

独り身

 九月はクラスの団結力が試される。

 山本と浅野をこっぴどく叱った後、担任の吉岡真奈美がいった。

「そろそろ文化祭の準備を始めるんで、なにするか決めてね」

 ざわざわと教室は、たちまちうるさくなる。

 その騒がしさを、吉岡先生は鬼のような目で眺めている。

 先生は、三十代独身。綺麗な顔立ちをしているのに、性格がきついせいで結婚できないと言われている、というかさっき山本が言った。

「あんなに怒ることねーのに。だから結婚できねーんだよ」

 確かに怒ると怖い。

 みんなもそう思っているのか、何も発していないのに、鬼の形相一つでクラスが静まり返った。

「はいじゃあ、ホームルーム長出てきて。まあ、決め方はあんたたちに任せるから、好きにしていいよ。でもふざけたのは認めないから。やるからには真剣にやれよ。じゃあ三十分したら、また戻ってくるから」

 ホームルーム長の背中を叩き、先生は教室から出ていった。

 放り出された僕らのクラスは、騒がしくなるとまた鬼が戻ってくるので、静粛に慎重に、会議をすることになった。

 後ろの山本が僕にだけ聞こえる声でいう。

「どうせまた、マッチングアプリだろ。生徒ほっといてなにやってんだか」

 先生は生徒に仕事を任せて、よく教室を抜け出す。噂によると、その時間にマッチングアプリで出会いを探しているらしい。

「どうせ結婚できなねーのにな。なあ、智也」

 僕は曖昧に笑う。

 先生はそれでも、クラスからは好かれていた。たとえ抜け出しても、不満が上がるのは後ろの怒られて、ふてくされた山本ぐらいだ。それ以外の生徒は、特に先生の愚痴を言っている者はいない。むしろ、自分たちだけで出し物を決められることを楽しんでいるようにも見えた。

 良い意味で放任というか適当というか、生徒の気持ちを分かった上で投げ出している。たとえその時間に将来のお婿さんを探していたとしても、なんとなく許してしまうような先生だった。

 後ろに一人、例外はいるけど。

「給料どろぼーだ、あれは。教育委員会にうったえてやるから」

「そんなこといってないで、早く終わらせたら?」

「うっせー」

 宿題が終わっていない浅野と山本を尻目に、ホームルーム長は文化祭の出し物を決めていく。

 挙手制で、ちらほらと意見が上がる。文化祭の出し物案が、黒板に書かれていく。お化け屋敷、メイド喫茶、映画撮影……。どれもどこかで一度見たことがあるような無難なものだった。まあ、文化祭で奇抜なものを狙っても、仕方ないけれど。

「ちょっと待った」

 案が出尽くし、これから投票というところで後ろから声が上がった。

「みんないいのか、そんな無難な文化祭で? 高校生最後なんだぞ。もっと派手なことしよーぜ」

 それは今まで宿題をしていた山本の声だった。

「なにか案はあるの?」

 ホームルーム長がいう。

 山本は立ち上がり、演説する議員みたいに、みんなに言った。

「吉岡の今までの悪事を記録して、それを動画にしよう。告発動画だ。吉岡には映画をやるといっておけばいい。文化祭でそれを見せれば、宿題してない生徒を怒りすぎることも、裏でマッチングアプリをやってることも明るみになる。だいたいあの顔で独身っていうのが───」

 そのとき、勢いよくドアが開いた。

 鬼の目をした先生が、演説をしていた山本を見る。

「それでなに? 決まったの? なんか独身ってワードが聞こえてきたんだけど」

 九月は、クラスの団結力が試される。

「え、おれ言ってないっすよ。なあ、みんな……?」

 山本が縋るように、クラスメイトたちをみる。

「う、うん。言ってなかった」

「き、き、聞き間違えですよ」

「や、や、や、山本くんは言ってない」

 先生は「へえー」と山本を静かに睨み、腕を組んだ。

「まあ、いいけど。次やったら許さないからね」

 山本はみんなを睨み、ため息をついた。

 あと、結局、出し物はお化け屋敷に決まった。 

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