死んだはずの君と
死んだはずの幼なじみからメッセージが届いたのは、高校三年の四月のことだった。
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その日、家族が花見に出かけるのを見送ってから、僕は自室でキーボードを打っていた。
カーテンを閉め電気を消した部屋は暗く、パソコンの液晶画面だけが唯一、光を放っていた。
外から聞こえているはずの賑やかな声は、ヘッドホンで遮断され、僕の耳には届かなかった。だから、目の前のことに集中することができた。
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……を進めた。手紙に書いてあった通り、校舎裏には花宮佳奈がいた。
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僕は、ライトノベルを書いていた。
ハーレムもの。
大人しいクラスメイトが、訳あって美少女たちに好かれる話だ。その日は頭が冴えていて、物語に入り込むようにキーボードを叩いた。
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「よかったぁ。来てくれて」
校内でもトップクラスの美少女である彼女は、どうしてか少し緊張しているように笑った。
「花宮さんどうしたの。なんで僕をここに呼び出したりなんか」
疑問に思っていたことを僕はいった。
「それはね」
彼女は頬を染めて、ゆっくりと口を開いた。
「私は君のことがずっと」
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そこまで書いたところで、液晶画面に異変が起きた。
「好きだったから。」
そう、打とうと思っていた。
でも、そうはならなかった。
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「なに、してるの?」
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そのときは、まだそれ程驚きはなかった。
打ち間違いをして、予測変換が過剰に予測しただけだと思った。
でも、deleteキーに手を置いたところで、文字はさらに追加された。
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「ねぇ、智也くん?」
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背筋が凍った。
智也は僕の名前だった。
deleteキー以外に、僕の手はどこにも触れていない。それなのに、どうして。
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「ねぇ、花宮って誰? この子? 君はこの子のことが好きなの?」
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一瞬、息が詰まった。
心の奥で、懐かしい声が聞こえた。
「ねぇ、智也くん──」
僕はゆっくりと、文字を打った。
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「君はだれ?」
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心臓がドクンと脈を打った。
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「覚えてないの? 私は──」
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ねぇ、智也くん。
今日一緒に帰りたいから、校舎裏で待っててよ。
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「古沢志穂だよ──」
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死んだはずの幼なじみの名前が、そこにあった。