07 吸血鬼になってしまった、女の子の冒険者
「もう一回聞くよ。あたしの子分になりな」
外へ出ると、中年女は巨大な斧をブンブン振り回していた。残りの二人の姿はない。
野次馬が集まっている。
愚かな人間どもだ。
あの女を片づけたら、次は自分たちの番だというのに。
消えた二人みたいに、今のうちに逃げるかまたは隠れるかすれば生き延びる可能性は上がるもの。
助かったと確信した直後に絶望を与えるのは、食事の前のマナーだ。
まあいいさ。
女を惨たらしく殺せば、みな恐怖するだろう、ふふ。
「さっきも言ったはずよ。私がご主人様であなたが家来、それならいいわ」
「すぐに泣かしてやるよ!」
突っこんで来た。
すると、足下に影が現れた。
影だと?
吸血鬼にそんな物は存在しないはず。
そこから黒い二本の手が伸びてきて、足を掴まれた。
「ちっ」
「死にな!」
スパアアアアアン!
別に身体を切断されているのは慣れている。
魔王城で散々やられたから。
もっとも人間界では、それで死んでしまうのかもしれない。
しかし怖くはなかった。
太陽よりはマシだ。
「な、なにぃ!」
「あらあら、これは」
切断されたのは、私ではなく斧のほうだった。
むこうからわざわざ来てくれたのだ。お礼をしよう。
拳を構えて殴る。これで終わりだ。
ドガアアアァァァァァァン!
今度は真横から炎の玉を当てられた。辺りは煙におおわれる。
正面に中年女、左右に残りの二人か。
「ちょっと卑怯じゃない!」
メアリーの声が聞こえる。中で待っていろと言ったのに。全く最近の若者は。
さらに周りの人間も非難に加わる。
「はっ、いつから決闘って言った? 勝ちゃいいんだよ勝ちゃ」
その通りだ。
勝者こそ邪悪。
敗者は死した悪。
何て面白い世界だ。追放されて正解だったな。
……あの王子とメイドはゆるさないけど。
煙が晴れると、みんなから驚かれた。
「良かった。無事だったんだね」
「馬鹿な!」
「そんなー、直撃なのに」
「ひっ、ば、化け物」
よし、ひとりがおびえ出した。
炎の当てたのは彼女だな。
足下の拘束を解くには、呼吸を止めてほどこう。
「うそ?」
「なっ! 消えたぁ!?」
「上じゃない? あれ、いない」
「ひぃぃ、どこどこ。もうやだよー帰りたいよー!」
息をしないと姿が見えなくなるのか?
育て親からはそんなこと聞かされていないけど。
「霧よ! 暗くて分かりづらいけど。あの子、霧になったわ!」
受付嬢のシャルロットの声がした。
あなたも言いつけを守れないのね。楽には死ねないわよ。
おびえる少女の肩を掴み、呼吸を再開する。
「ひぃぃぃ!」
「ウフ、かわいいわよあなた。その顔」
首筋に噛みついた。
「きゃあああっ!」
暖かい血が喉をうるおす。
「あっあっ、き、気持ちいい」
そう痛いのは最初だけ。
あとは快楽に溺れて死になさい。
ピカッ! ゴロゴロ、ズゥドォォォォーン!
私に雷が落ちた。
もう一人の少女の魔法か。
私は無事だけど、彼女は吹き飛んだ。
「……まずいわ」
彼女は起き上がった。
目は赤く光、耳は尖り牙を生やして。
「アアアア、殺シテヤル」
吸血鬼に噛みつかれた人間は、体内に血が残っていると吸血鬼になってしまう。
ああなると、近くの人間を襲いだす。
それはダメだ。私の食料を奪うな。
しかし彼女は全く別の行動を取る。
素早い動きで中年女に近づいた。
「今マデ、サンザンコキ使ッテクレタワネ」
「血迷ったか、アンタ!」
噛みつこうとする彼女に必死で抗う。
吸血鬼になると、補食よりも優先されるのが恨みを晴らすことだ。
「あなたって、相当嫌われているみたいね」
「アンタまさか吸血鬼だったのかい!?」
「フフ、今ごろ気づいたの?」
「何がエルフだい、チクショー!」
「あなたにゆるされた自由とは、その娘に殺されるか私に殺されるかの、どちらかよ」
「どっちもゴメンだね」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
突然、少女は溶けてしまった。
よく見ると水筒を持っている。
「まさか! 聖水かしら!?」
「そうだよ。吸血鬼って不便だね。弱点が多くてさ!」
また黒い手に掴まってしまった。
さっきより本数が増えており、よりキツくなった。
「アンタを誘ったあたしが馬鹿だったよ。こんな最弱魔族なんざ願い下げだね」
「何ですって?」
「なーに怒ってんだい? 弱い奴を弱いって言って何が悪いんだい」
「そうね。負けるのが悪いわ」
力をこめると手が消滅した。
「何っ!? ぎゃあ!」
ドガガガガッガチャアアァァァァン!
吹っ飛ばされた女は建物を破壊した。
さてと今のうちに。
「きゃあ!?」
「安心なさい。あの娘みたいに吸い残したりはしないわ」
「いや、お母さん」
フフ、おびえた人間はいつ見てもたまらないわ。
ところが、彼女の首に口を着けようとした瞬間だった。
ドガアアン!
振り向くと瓦礫が飛び散っていた。
女が出てくる。
「あたしを本気にさせやがったね!」
「嬉しいわ。さっきまでのが全力だったらSランクなんて大したことないし、面白くもないわ」
――あら?
あの娘が消えてしまった。
まあいいか。
次に会ったときに吸えばいいだけだ。
読んで頂いて、誠にありがとうございました。
「面白い」
「続きが気になる」
「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」
と思いましたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。
面白かったら☆5を、つまらない場合でも☆1でも出来たらで構いませんので、つけて頂けると大変助かります。
ブックマークも出来たらで構いませんので、つけて頂けると大変助かります。
身勝手なお願いですけど、どうぞ何とぞよろしくお願いします。