39 騎士との決着
「いくぞ、吸血鬼!」
――速い。
フランツに一瞬で懐に入られ、一撃を受けた。
辛うじて防御は間に合ったが、吹っ飛ばされた。
ガシャシャシャアアアン!
そのまま家をの壁に打ちつけられた。
招かれていないので、外側で身体は止まり、地面に落ちる。
ユーリアが叫ぶ。
「オプトゼチさん! しっかりなさい!」
「他人の心配とは余裕だな」
フランツの剣が、彼女の腕を切断する。
「いったいですわね!」
「やはりあの女の仲間だったか」
「いいえ。妹ですわ。おーほっほっほ!」
すぐに再生し斬られるを繰り返している。
パンパン。
自分の顔を叩いて、私も騎士に立ち向かう。
「違うっていったでしょうがああ!」
「お元気で何よりですわ」
フランツは涼しい顔のままだった。
突然、姿を消した。
「――!? きゃあ!」
私たちは同じ悲鳴を上げて、前のめりに飛ばされる。
地面をえぐり続けるも、ピョンと跳ねて着地した。
お互い後頭部をさすりながら笑みを浮かべる。
「全く。女性に対する礼儀がなっていませんわね。せっかくの美男子が台無しですわ」
「アイツ、女よ」
「んま。そうでしたの? 危うく告白するところでしたわ」
私は髪を払い、ユーリアはお札を整える。
対して、フランツは鎧をはたいて冷めた目で見る。
「ふたりがかりで、この程度とは。オリビアにはここを任せた方が良かったな」
私はできるだけ邪悪な表情で、腹を叩きながら言った。
「フフフ、あなたの失敗よ、でも安心なさい、すぐに再会させてあげるわ。地獄でね」
「嫌な女性ですわね」
「褒めないでよ。照れるじゃない」
フランツはマントを脱ぎ捨てた。
「ふん。まあいいさ。貴様らのうち、どちらかを使い魔にしてやろうか?」
「嫌よ」
「他を当たってくださいまし」
「クク、じゃあ死ね――」
スパアァァァン!
私は宙にいた。
いや正確には頭部だけが。
くるくる回る背景の中から、自分の身体を見つけ出し、にらみつけた。
「何!?」
首なしの私がフランツに抱きつく。
「今よ、ユーリア!」
「アウスレーゼ流拳法を盗みましたわね!」
身動きの取れないフランツを、彼女は殴りまくる。
ゴツン。
「クララ!」
私は容器の上に落ちた。
中に入っている彼女は、体操座りをして眠ったままだった。
「今出してやるわよ」
噛みついたけど、ビクともしない。
その場で何度も跳ねて、おでこを叩きつけた。
しかし効果はない。
すると、私の切断部分から身体が生えてきた。
「痛い! 痛いですわ!」
ユーリアはのたうち回っていた。
フランツの手には心臓が握られている。
彼女の顔に笑みが浮かんだ。
「勝ったぞ」
フランツは、私に向かって来た。
目の前まで迫ったとき、ようやく身体も元に戻る。
「させないわ!」
「邪魔だ!」
バシゴオオォォォン!
剣は粉々になり、私の右腕も同じようになった。
残った片腕で殴りかかる。
するとフランツは、短刀を投げた。
私ではなくクララに向かって。
「――ぐっ」
彼女をかばうも、背中から貫かれる。
刃はそのままクララへ一直線だった。
私は左手で掴む。
「熱っ」
短刀はまだ止まらない。
右腕の再生はまだ途中だった。
だから噛みつく。
短刀は、太陽のような感じだった。
しかし、あれと比べるとずっと小さいから耐えられる。
歯が溶けている。
唇も手も、同様だった。
――銀か。
一旦、口を放し、血を吐いて浴びせた。
プシュウウウウゥゥゥゥ。
今度は短刀が溶けてしまった。
安心すると同時に背後を警戒した。
「フランツ!」
振り向くと姿を消していた。
しかし彼女の殺気は近くにある。
「家の中――」
ドガーン!
真横にあった建物は木っ端微塵になった。
土ぼこりに人影がある。
「ふははは! ついにやったぞ」
フランツが手にしているのは、あれが女神の聖書なのか?
彼女からオーラが立ち上る。それはヘビのような感じだった。
「オリビア……死に損ないね全く」
再生が完了したところで、突っ走る。
ガシッ!
オーラに私の攻撃を防がれた。
そこへ腹に一撃、さらに背中にも叩かれる。
よろけたところを足を掴まれる。
「くっ、放しなさい!」
振り回されて、地面に何度も叩きつけられた。
深いクレーターができても、まだ止めてくれない。
身体を分離しようとしたけど、小さなオーラに絞められてしまい自由に動かせない。
上半身は原型をとどめていなかった。
今度は大岩に叩きつけられそうになる。
「ふうううううう!」
息を吹きかけた、思いっ切り。
「うわあ!」
まるで竜巻のような風で、フランツは奥にあった家に叩きつけられた。
「ざまあみなさい。あら?」
私はようやく解放される。しかし気づくと、空高く投げ飛ばされていた。
遠くの方は明るくなっている。
そして。
太陽が現れる。
「ぎゃああああああ!」
炎に包まれる。
――死んでたまるか!
声は出せなかった。
――やらなきゃいけないことがあるんだ!
喉をはじめ色々な箇所が焼けていく。
「――クララと楽しいことしたいんだから!」
?
出せたのは声だけではなかった。
太陽の光から守ってくれていたのだ。
翼が。
巨大な四枚は羽ばたかせ、フランツに急降下する。
「これで終わりよ!」
「こざかしい!」
ズドガアアァァァァン!
羽はボロボロになってしまった。
私は慌てて建物の影に入る。
フランツは宙に浮いていた。
太陽を背にして楽しそうだ。
「ふははは。効かぬ効かぬよ、たかが吸血鬼の攻撃など。今や聖なる力を手に入れた私を、止められる魔族などいない!」
神々しいオーラが増していった。
「滅びよ!」
辛うじて残っていた一枚の羽をむしり取った。
それを武器のように構える。
「フフ、楽しませてくれるわね!」
一歩踏みこんだ、その時だった。
「アオオオオオオォォォォォォン!」
「な、これは!?」
「もらったわ!」
よろけたフランツに、翼を剣代わりにして振り下ろす。
「――ば、馬鹿な! こ、こんな馬鹿な! ぐはっ!」
左肩から右腰に向かって真っ二つになった。
おびただしい血が心地いい。
その場に立ち尽くした。
焼かれ続けているのも忘れて。
身体は先端から失っていく。
しかし、すぐに収まった。
マントをかけられたからだ。
振り替えると、思わず泣いてしまった。
「――クララ」
「……ご主人様」
彼女は、優しく涙を拭いてくれた。
私はお返しに、ゆっくりと抱き締めてあげた。
お互いを見つめ合う。
唇がほんのり紅い。
ゴクリ。
徐々に近づけていった。
彼女は目を閉じる。だから私もつぶる。
「――こほん」
ユーリアの声で止めた。
真横で、瓦礫に座っている。
「お楽しみ中、申し訳ありませんが、慎んでほしいですわね」
「何よ、焼いてるの?」
「ええ、もちろんですわ! オプトゼチさん、貴女はわたくしと営みをするべきです」
「へ? こっちなの? 何よ気持ち悪い」
「し、仕方ないでしょう。あ、貴女は素敵な女性なんですから」
「待ってください。ご主人様はわたしと色々なことをするんです!」
「おっほほほ。それでは、どちらが彼女の相棒に相応しいか勝負ですわ!」
「負けませんよ」
パンパン!
「はいはい。遊ぶのは後よ。あいつどうにかしないと」
フランツは、上半身だけで浮いていた。
オーラは弱々しくなっている。
「くっ、まだだ」
手にした聖書を振りかざす。
「この私に力をー!」
火だるまになった。
彼女は笑ったまま――灰になって消えた。
「あーあ。何てことですの。せっかくの聖書が」
「フランツさんは死んでしまったのでしょうか?」
私は、彼女がいた所まで行った。
地に落ちている灰を触り、口に入れた。
「死んだのは間違いないけど、生き返るかもしれないわ」
「ええ、嫌ですわね」
「良かったです。え、いえ、その酷いことされたのは確かなんですけど。その何だか、最期は可哀想だったなって」
「フフ、嫌いじゃないわよ。そういう態度」
私は、黒々とした灰もなめてみた。
そしてできるだけ不気味に笑う。
「どうやら女神の聖書じゃなかったみたいよ」
「ほんとですの?」
「どうしてそう言えるんですか?」
その場を離れ、日陰になっている壁にもたれた。
「だって消滅しないもの。私って邪悪な存在だから。あれが本物だったら、今ごろ私は消滅してたでしょう」
クララが飛びついてきた。
「やめてください! そんな危ないことはやめてください!」
「わ、悪かったわ」
彼女の頭を撫でてやる。
「ありがとう、遠吠えをしてくれて。あなたのおかげで勝てたわ」
激しく横に振る。
「そんなことありません! わたしがもたもたしたせいでご主人様はこんなに傷ついてしまって」
「大丈夫よ。それにあなたに会えたらすぐに治ったわ。味方で本当に良かった」
「あ、ありがとうございます」
私は彼女を強く抱き締める。
ユーリアの、呆れながらの微笑みを見ながら、優しく声をかけてあげた。
「フフ、良くやったわクララ」
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