02 招かれていないから、家に入る事が出来ない
私は原っぱで仰向けになっていた。
魔界の空は赤かったけど、ここは黒い。
星が輝いている。今は夜か。それならしばらくは太陽は出てこないだろう。
辺りを見渡す。
森の中のようだ。
「……何もないわね――あら?」
一匹の犬が現れた。
魔王城の門にいるケルベロスとは違って、首は三本ではなく一本、それに身体も私より小さい。
首輪をしている。
つまり飼い主がいるということだ。
人間だといいな。
ゴブリンやエルフは嫌だ。美味しくないから。
ギュルルルルッ!
お腹に手を当て、口元は緩む。
「……そこでいつまでも私を軽蔑なさい。名も知らない王女様、フフ」
犬の後を追うと村が見えた。
「あらあら、これは」
死体がたくさんあった。老若男女様々だ。
「もったいない」
腐敗が進んでいる。もう食べられない。
死んでいるのは人間だけのようだ。
犬をはじめ牛や豚などの家畜は無事だ。まあいずれエサがなくなって餓死するか、強い生き物に捕食されるでしょう。
私には関係ない。
「誰が殺ったのかは知らないけれど、下手ね」
一回ため息をした。
腕を組んで夜空を見上げる。さっきより明るくなっていた。
「……どうせなら私を呼んでほしかったわ。もっと上手に殺せたのに……」
もしかしたら、家の中に隠れているのかもしれない。
期待に胸をふくらませて入ろうとする。
ゴツン!
「いったいわね!」
遮る物は何もないはずなのに、中に入れない。
気のせいだ。
ゴツン!
「くっ」
こしゃくな。
結界魔法か?
砂をすくい中へ投げる。それは普通に入っていった。音を立てて床に散らばった。
「効果時間が切れたみたいね。覚悟なさい」
ゴツン!
打ちどころが悪かったらしく、すごく痛い。
「出てきなさい! いるのは分かっているのよ!」
ひざまずいて、おでこをさする。涙が流れていた。
「聞こえないの? ふふ、安心していいのよ。痛いのは最初だけ。すぐに気持ちよくなるわ」
返事はない。
動物たちの鳴き声がするだけだ。
「出できなさいと言っているでしょうが! 私は機嫌が悪いのよ! 散々痛めつけられたんだから!」
余計にお腹が空いてきた。
「……もういいわ。家はあなただけじゃない。あなたの代わりなんていくらでもいるもの」
数歩進んで振り返る。
「覚えていなさい。頭を掴んで背骨ごと引き抜いてやるから」
しかし、残りの家々でも同様に中に入ることはできなかった。
「どうなっているのよ!」
ギュルルルルッ!
「あ、焦ってはだめよ。私はただ、生きた人間の血が吸いたいだけなんだから」
仕方ないから、死体を触る。
そして手についた血をなめる。
とても不味い。
「――あっ」
思い出した。
吸血鬼というのは、その家の者から招かれなければ入れないんだった。
「くっ。しょ、食料のくせに、私の弱点をちゃんと知っているとはね。フッフフフ……ほ、ほめてあげるわ」
もう一度、最初の家に行く。
もしかしたら入れるんじゃないかと思ったからだ。
ゴツン!
まあ期待はしていないさ。
「あら?」
他の家にはなかった物が見えた。
「本?」
テーブルに置いてある。
魔界では高価だが、人間界では誰でも持っているのだろうか?
「美味しい血以外に用はないわ」
村を出ることにした。
「まあいいわ。森で旅人でも襲いましょう」
そうだ。
もうすぐ食事にありつけるはずだ。
大丈夫、私は運がいい。
身体が熱くなっていく。
期待に胸をふくらませているからだ。
焦げ臭い。
美味しい血が吸える証拠だろう。
煙が立ちこめた。
「へ?」
炎に包まれた。
「きゃあっ! やだっ! 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!」
振り返ると、光が襲ってきた。
山のむこうから巨大な球体が出てくる。
――あれが太陽?
実物を見るのは初めてだ。
メイドの言葉が頭を駆け巡った。
『吸血鬼を確実に殺す太陽の光が降り注いでいますから』
「――ハァハァ」
森の中へ全力で走る。
「――こんな所で」
指が灰になって崩れてしまった。
「――死んでたまるか!」
転びそうになった。
足もダメになっていた。
「私は!」
突っ込めー。
「何が何でも生きてやるわよ!」
派手に転んでしまった。
「ひっ」
目をつぶり、手首を失った腕をかざす。
「いや! 殺さないで!」
これ以上進むことはできない。
「死にたくない! あ、あれ?」
身体が全然熱くないことに気づいた。
目を開けると、失ったはずの手首がゆげを出しながら再生している。
足も同様だ。
私のいる所は。
影になっている。
真上には、葉でおおわれた枝が何本もある。太陽から守ってくれたんだ。
「……助かった」
大の字になる。
「良かった。本当に良かった」
泣いてしまっていた。指で拭うも、涙が次から次にあふれ出てくる。
冷たい空気を体内に取りこむ。
「ふ、あはははは」
思わず笑ってしまった。思った通り。やはり私は運がいい。
「見てなさい。人間の血をたくさん吸って私は強くなるわ。そして魔王になって、あなたを家来にしてあげるわよ」
まあ冗談だけどな。実力差は歴然だ。
……でも一発ぐらいは殴らないと気がすまない。
立ち上がって、軽く体操をした。
さて、ここを縄張りにしよう。
早く旅人が来ないものか。
待ち遠しい。
「そこの娘。たずねたいことがある」
低い声がした。
「いらっしゃい。待っていたわ」
振り返ると、ひとりの騎士が立っていた。
背は私より高い。長い金髪をうなじ辺りで一本にまとめている。
「やだ……すごいイケメン。美味しそう……」
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