13 クララを助けろ!
「ウウウウ」
「やあ!」
「やめなさいクララ。いちいち相手にしなくていいの」
普段はおとなしいのに、急に積極的になった。
しかしゾンビを全て倒す必要はない、ここでは。
「まずは狭い所へ誘き寄せて一網打尽」
「はい! ――前です!」
「……仕方ない。我慢しよう」
一体、木から飛び降りてきた。
避けたらクララに攻撃を受ける。
そう判断して、拳でつらぬく。
「ウワアアアア」
崩れていく身体を掴み、首筋に噛みついた。
血、というか変な液体を吸いとる。
ゾンビは痩せ細り、霧のように消えた。
「不っ味!」
吐きそうなのを必死にこらえた。
「ご主人様!」
「知ってる」
回し蹴りで背後にいたのを吹っ飛ばす。その後に続いていた連中も巻き込んだ。
「空腹なのは分かりますが、今はご自重ください」
「そうじゃないわ……」
彼女をお姫様抱っこして走り出す。
「育て親からの言い付けなの。殺したら食べろってね。こればっかりは死ぬまで続けないといけないわ」
「はあ」
「まあ、ゾンビはすでに死んでるから変な話よね。面倒くさい女って軽蔑してくれていいのよ、フフ」
「いえ、とんでもございません。立派なことだと思います」
褒める要素はどこにもないのに。
背中がむずがゆい。この子の言葉に調子を狂わされっぱなしだ。
でも、嫌じゃないのは確かだ。
森を抜けると、崖に来た。
壁の側面を歩いていく。下は川だ。
「ご主人様?」
「動かないで」
彼女にギュッと抱き締められた。
このまま崖を登って、川沿いに進む。そうすれば街に着く。
クララには待っていてもらおう。私ひとりの方が楽だ。
「――!?」
突然カラスの群れに襲われた。
身体が腐敗してあった。ゾンビ化しているのか。
「邪魔よ!」
片手で払うと、一羽が三つに切断された。
――爪の切れ味が増している?
理由はどうあれ食さねばならない。
目に求まらぬ早さで、頭部が付いている箇所の中身を飲み干した。
「げぇ」
人間ではなく、おまけに動く死体だから腹を壊しそうだ。
すると今度は、崖の上からゾンビたちが落ちてきた。
「ああ!」
「クララ!」
彼女は噛みつかれた。
反対側の壁へジャンプする。
するとまたカラスに邪魔をされた。
「虫ケラ風情が!」
両手で切り裂いた。肉片は細かくそして蒸発した。もう食べられない。
「――しまった!」
クララは、投げ出された川へと真っ逆さまだった。
そこへ、一際大きな鳥が、彼女目掛けて飛んできた。
やはり狙いは、生きているクララか。
私は体勢を変え、急降下した。
鳥よりも先にクララを掴み、大口を開けている鳥を蹴りで真っ二つにする。
そういえばなぜ、空中で体勢を変えることができたのだろう?
その疑問は水に入ると同時に消えた。
「があ! あ、ああ! ぐっ!」
完全に忘れていた。
吸血鬼は流水に無力だということに。
私から離れたクララの姿は、どんどん遠退いていく。
(ちっ、逃がさないわよ!)
彼女は――私の獲物だ。
しかし情けないことに、力は全く出せない。
このまま流されれば、やがてどこかに打ち上げられるだろう。
しかし私はともかく、クララの息は持つのか?
死から時間が経ちすぎると、生き返らせることはできなくなる。
(根性見せなさい! 私!)
急に魚みたいに動け、彼女を掴む。その勢いで水から出て地面に転がりこんだ。
「クララ!」
起きてくれない。
脈はあるものの、呼吸をしていない。
心臓マッサージをする。
「まだ死ぬのは早いわよ。どうしても死にたいなら、私に殺されなさい」
ぽかんと開いた口に、唇を着ける。
息とともに唾液も流しこんだ。
「だけどまだ殺さないわ。今はあの小太りの所有物でしょ。あの脂っこそうな味がしてそうだわ」
何度も、何度も、動作を繰り返した。
「束縛から解放されなさい。自由になりなさい。そうすれば血が美味しくなるのよ」
強く抱き締めた。
「私に殺されるまで生きなさい」
クララは、激しく咳をした。
水を吐き出す。
「ハァハァ……!? ご、ご主人様!」
「フフ、中々体力があるわね、あなた。案外、才能あるかもね」
「大丈夫ですか?」
「平気よ」
「で、でも、泣いておられますよ」
「え?」
指で触れると、涙が流れていた。
原因は分からない、この私がなぜだ?
「何でもない、ただのかすり傷よ」
私は先に立ち上がった。そしてクララを助け起こしてあげる。
「ありがとうございます――あっ!」
よろけた彼女を受け止める。
かなり身体を冷やしたみたいだ。
優しくさすってやる。
「すみません」
「気にしないで……ふぅ、あなたたち、少しは空気読みなさい!」
ゾンビに囲まれた。
「ご主人様」
「あなたは休んでなさい」
手に力をこめると、爪が刃物のように伸びた。
「遊びは終わりよ! 皆殺しにしてあげるわ!」
「ウウウウ!? ギョワアアアアアア!」
突然、火だるまになって灰になった。
太陽の光だ。
ゾンビは太陽に弱かったのか。
ひとつ新たなことを知る。
そして――私の命も終わることも知った。
炎に包まれた。
「ご主人様!」
口を必死につぐむ。
クララに、悲鳴を聞かれたくないからだ。理由は分からないけど。
今まで感じた物より、一番熱く感じた。
目をつぶる。
指先が灰になって崩れていた。これ以上は何も見たくない。
今度という今度は、もう再生しないのかもしれない。
まあ別に構わないさ。
その程度の女だったというだけだ。
「ご主人様!」
熱くなくなった。
クララに押し倒されたおかげで、影になっていたのだ。
炎も消え、指も元に戻っている。
「全力でお守りします。たとえ、もうじきお暇をいただくとしてもです」
「あなた!」
「ですが、今はわたしは、ご主人様の従者ですから!」
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