11 市長からのクエスト
「はっはっは、これはおかしい。……あまり礼儀を知らないお嬢さんですね」
「おい! もう夜だぞ! 子どもは寝る時間だぜ」
「あらいやだわ。私が最年長よ、ぼうや」
腕組みをして、大男を見上げて言った。
全員クララに感謝してほしい。
もしいなかったら、皆殺しにしていたところだ。
なにせ今日は機嫌が悪いのだから、受付嬢のせいで。
「けっ! かわいい顔してりゃ、何でもゆるされると思いこんでるバカみてぇだが、世の中そんなに甘くないぜ」
「フフフ。身体が大きければ、何してもゆるされていると錯覚している愚かな者みたいだけど、魔界はそんなに甘くないわよ」
パンパン!
市長が手を叩くと、大男は一歩下がった。
「さすがに幼い子どもに暴力など振るっては、我々の評判に傷がつくというもの。しかしここまで侮辱されたとあっては面目が立ちません」
ふたりは、空いたテーブルへ行った。
「ひとつ彼と腕相撲をして頂きたい。どうですかな、お嬢さん?」
「構わないわ」
魔法使いに声をかけられた。
「ちょっと止めなさいよ、君。私あいつ知ってるわ。元Sランク冒険者よ。パワーだけなら、昨日のやつより上なんだから」
無視して彼らのところへ向かう。
クララを彼女に預けて。
お互い手を握った。
「へっへっへ。降参すんなら今のうちだぜ」
「……ごたくはいらないわ。かかってらっしゃい」
「準備は良いですね? 恨みっこなし一発勝負です。――では始め!」
「ご主人様! 頑張ってください!」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……うう……うぐ」
「……」
「何を遊んでいるのです! 私は忙しいのですよ!」
「そ、それが……全然動かねーんです」
「馬鹿な!」
「何なら、両手を使ってもいいのよ」
「な、なめるな!」
「うひょー! すげーぞ嬢ちゃん!」
「フレーフレー、お嬢ちゃん!」
「負けるな負けるな、お嬢ちゃん!」
「――うるさい!」
大男は汗をだらだら流している。
「く、クソー!」
「ふぅ、そろそろ力を入れてもいいかしら?」
「はひぇ?」
ガシャアアアアァァァァァァァァン!!
大男は派手にひっくり返り、テーブルは壊れてしまった。
「痛てー! 痛てーよー!」
「加減を間違えたようだわ。ごめんなさいね」
おかしな方向に曲がった腕をペロリとなめた。
たちまち元に戻る。
「フフ、さすがは男の子ね。泣かなかったのは偉いわ。よしよし」
周りの騒ぎ出す。
「さっすが嬢ちゃんだ!」
「俺は信じてたぜ!」
「よーし! 負ける方に賭けた奴は金置いてきな」
受付嬢と魔法使いに胸で挟まれる。
「相変わらずすごいですね」
「もう冒険者になっちゃいなよ」
殺意が強くなりかけると、クララも声をかけてくれた。
「お、おめでとうございます」
「相手が弱いだけよ。……だけど、まあ……ありがとう」
小太りは大きな口を開けていた。
「馬鹿な、あのアレックスを倒すとは。お嬢さん、貴女はいったい何者ですか?」
「ただの最弱な生き物よ」
小太りは、イスを引き寄せて座った。
「貴女ですか。あの問題パーティーを倒したというのは?」
「だったら何? 敵討ちでもするのかしら」
「とんでもない。金のない連中に用はありません。……さてどうでしょう。貴女様がクララを買うというのは」
また周りが騒ぎ出した。
受付嬢が叫ぶ。
「勝ったんですから、これでクララさんは自由ですね!?」
「そのような約束は、した覚えはありませんよ」
「あんまりです! オプトゼチさんがあんなに頑張ったっていうのに!」
「ほらほら市長さん。ここいらで情けかけといたほうが、名前も売れますぜ」
「では代わりに貴女がたが払ってくれますか?」
「い、いくらですか?」
「高くたって、せいぜい三、四百万ぐらいでしょ?」
「二千五百万モベロン」
ふたりは喋らなくなった。
「人狼は魔族退治に需要がありますからね。あのパーティーは使い方を分かっていなかったようだ」
「おいおいあんまりじゃねーか! ひでぇぜおっさん!」
「こちとら大負けしてんだ! どうしてくれるんだい!」
「酒代のツケ、代わりに払ってくれよ!」
「黙りなさい! 口答えするなら働けなくしますよ!」
静かになった。
市長は私に向き直る。
「貴女は能力がおありだ。そこで提案です。魔物退治をしていただきたい。クララの代金はそれということでどうです?」
「人間退治だったら、喜んで引き受けたのだけれど」
「え?」
青ざめていく。
少しからかってみるか。
「ここって王国なんでしょ? あなた、将来玉座に座ってみたい、とは思わない?」
「な、何をおっしゃるのです!」
「あなたの出世の邪魔になる人間たち……私が片づけてあげましょうか?」
汗が噴き出していた。
さらに目はグルグル回り出す。
しかしピタッと止まる。
「お戯れを。私はこの街を治めさせていただくだけで、満足なのです。みなさまの平和が何よりの財産です」
「つまらない男。もっと欲望に忠実になりなさい」
「滅相もない」
「人生なんてある日突然終わるの。だから今を精一杯楽しむことが大切よ。――先のことなんてその時に考えればいい」
それが私たち吸血鬼、魔族の基本的な思考だ。
クララにガーターベルトを引っ張られた。
「ご主人様、ご迷惑でしたらわたし市長のところへ戻ります」
「あなたは私のそばにいなさい。――で、魔物ってどんなやつ?」
「ここから北西の山を越えた辺りで、不穏な状況になっているようです。どうやら魔王軍が動いているとの噂も」
「え?」
周りはどよめいた。怖がっているようだ。
しかし私は嬉しい。
受付嬢が、さらに面白いことを言ってくれた。
「大変です。そこへはフランツさんが、ゴブリン退治に向かったんですよ」
「そういえば、ずいぶん帰りが遅いよね。――大丈夫だって。あいつがそう簡単にやられるわけないんだから」
魔法使いは、受付嬢の肩をさすった。
震えているクララを撫でて、市長を見た。
「引き受けたわ。でももし約束を破ったら……一滴の血も残さずに吸わせてもらうから、そのつもりでね。フフ」
私は運がいい。
メイドと王子に復讐できる機会が、こんなに早くやって来るとは。
それに、あの女とまた殺し合いができるなんて。
たぶん、今の私はものすごく邪悪な笑みを浮かべているのだろう。
読んで頂いて、誠にありがとうございました。
「面白い」
「続きが気になる」
「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」
と思いましたら
下にある、作品への応援をお願いします。
面白かったら☆5を、つまらなかったら☆1でも構いませんのでつけて頂けると大変嬉しいです。
ブックマークも出来たらで構いませんのでつけて頂けると大変助かります。
身勝手なお願いですけど、どうぞ何とぞよろしくお願いします。




