10 吸血鬼、受付嬢に爆死させられる
「ご主人様、朝ですよ」
クララは、閉ざされた窓の前に立っていた。
「ちょっと待ちなさい!」
彼女は窓を開けた。
すると太陽の光が入ってきた。
だから私は火だるまになる。
「きゃあああ!」
「いやああ! ご主人様!」
「早く窓を閉めなさい!」
バタンと音を立て、部屋は暗くなった。
クララは土下座をする。
「申し訳ございません! 大変な無礼を働いてしまいました! どうぞ罰をお与えください」
「……別にいいわ。気にしてないから」
ドタドタドタ、バタン!
受付嬢のメガネ、シャルロットが入ってきた。
「ちょっと何よ今の音!」
「実はご主人様が――」
「何でもないわよ」
「しかしわたしが悪いので――」
「気にするなと言ったはずよ」
「まあいいか。さ、朝だぞ」
「だから何?」
「子どもは外へ元気に出かける」
「嫌よ。夜まで寝ているわ」
「こーら。引きこもりはダメだぞ」
あろうことか、この女は窓を開けてしまった。
「ぎゃああああああああああああああ!」
◆
「ご主人様、ご主人様、ご主人様」
意識が戻ると、クララに膝枕をされていた。
彼女の大粒の涙が顔に落ちてくる。
「あれ? 私、死んだんじゃなかったの?」
「……はい。……お亡くなりになりました。……でも、夕方になった途端、ご主人様の身体が元に戻ったんです」
「……そう」
「あっ? まだ安静に」
「平気よ」
恐る恐る、窓を少しだけ開ける。遠くの空は赤くなっていた。家々は灯りがともされている。
「ところであなた。目を怪我でもしたの?」
「え?」
「ずいぶん泣いていたから」
窓の額縁に座って、彼女を見る。
さっきまで悲しそうだったのに、今は嬉しそうにしている。
「だって生き返ってくれて、本当に良かったと思っていますから」
魔界と違い人間界では再生しないと思っていた。しかし結果は再び生きることができて嬉しい。まあ次はないかもしれないけど。
「逆じゃないの? 吸血鬼が死んで希望を抱いていたら、復活して絶望へと叩き落とされたってね。フフフ」
「そんなことありません! ご主人様がいなくなって本当に悲しかったのですから! またひとりぼっちになってしまうのかと思うと。だから――だから」
走ってきた彼女に抱きつかれた。
首輪が邪魔だ。
「危ないわね! 落ちたらどうしてくれるのよ――あら?」
街を歩いている人間たち――そしてクララも、同じ黒色の服を着ていた。そのことを尋ねると。
「はい。先ほどまで葬儀をしておりました」
「誰の?」
「ご主人様です」
「バカじゃないの」
「だって炎に包まれたと思ったら、爆発してしまいましたから」
「あっ! そうだわ、そうだったわ! あのメガネ!」
窓から飛び降りた。
そしてドアを開ける。
「お、おい! 嬢ちゃん?」
「ひいい! 幽霊?」
「お、お助けー!」
男たちが嬉しい悲鳴を上げてくれたけど、今はそれどころではない。
魔法使いのメアリーが声をかけられた。
「え、嘘でしょ? いや、ちょっと本当に君なの? ああでもどうしよう。いや、とにかく良かった」
「シャルロットはどこ?」
「はいはいここに――え? どういうこと?」
「さっきはよくも殺ってくれたわね」
「あはは……ごめんね」
ウインクして舌を出された。ふざけているとしか思えない。
殴ろうとすると、背後から誰かに抱きつかれた。
「誰よ! って何よ、クララ」
「いけません。やめてください」
苦しそうにしている。
泣くのを必死に我慢している印象だ。
ため息をして、目を細めた。
「……興がさめたわ。あなたは次の機会に殺してあげるから」
「物騒だね君」
私はクララの首輪を手で壊した。
「ご、ご主人様? 何を?」
「目障りよ。それとも死ぬまでつけていたかったかしら?」
「い、いえ。……あ、あの。ありが――」
「ここにいましたか。クララ・アプフェルさん」
入り口に中年の男が立っていた。
ギルドの中は急に静かになる。
私より背は低く太っていた。
縦長の帽子をかぶり、杖を持っている。それをクルクル回しながら近づいて来た。
「さ、帰りましょうか」
「……はい」
クララは、私をチラッと見た。目がうるんでいる。
そして男の方へ歩き出した。
彼女の肩を掴んだ。
「待ちなさい。あなたが来るべきはこっちよ」
周りがざわめ出した。
クララは振り向かずに言った。
「申し訳ございません、ご主人様。これでお別れです」
「ゆるさないわ。逃げるなら死んでもらうわよ」
「貴女ね、もう少し言い方があるでしょ」
「待って。彼女なりの優しさだよ」
そんなわけない、この私に慈愛があるなど。
男の声が荒くなる。
「何ですか、貴女は? 名乗りなさい!」
「言う必要はないわ」
「少し痛い目を見る必要があるようですね。アレックス!」
「はっ!」
小太りの後ろから、大男が現れた。
指をポキポキ鳴らしている。
受付嬢と魔法使いは言った。
「あの人に逆らってはマズイわよ。この街の市長なんだから」
「ウラじゃ奴隷商人だけどね」
「知ったことじゃないわ」
大男は目の前までやって来た。
小太りは、ピンと伸びたヒゲを触っている。
「クララは私どもの商品です。ただ、返していただきたいだけなのです」
「え? どういうことですか?」
受付嬢が聞いた。
男はにやついた。
「あのSランク冒険者、代金は後払いだったのです。元勇者だというから特別にしましたが、まさか死んでしまったとは。ですから回収させていただくのです」
男はヒゲを触るのをやめると怒鳴り出した。
「首輪はどうしたんです! この私の許可なく外すとは奴隷風情が! いい度胸ですね!」
天井を見上げてため息をした。
そして小太りをにらむ。
「クララは私の従者なの。欲しかったら力ずくで奪うのね」
読んで頂いて、誠にありがとうございました。
「面白い」
「続きが気になる」
「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」
と思いましたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。
面白かったら☆5を、つまらなかったら☆1でも構いませんので、つけて頂けると大変嬉しいです。
ブックマークも出来たらで構いませんので、つけて頂けると大変助かります。
身勝手なお願いですけど、どうぞ何とぞよろしくお願いします。