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01 最弱の吸血鬼、魔界を追放される

 

「オプトゼチ。貴女を魔界から追放します」


 声が響いた。

 私はうつ伏せになっていた。起き上がると、壇上に少女が立っている。

 メイド服を着ている。

 光るメガネがまぶしい。


「嫌よ」


 私ははっきりと答えてあげた。


 ところでここはどこだ?

 自宅ではないのは確かだ。なぜならこんなに広くないからだ。


 彼女の二本の角がぐらりと動いたように見えた。


「何ですか、その態度は」


 ――バシュルルルルルッ。


「熱い熱い熱い熱い熱い――あついあつい……あ……つ」


 突然、身体が燃えた。

 服が腕が灰になって崩れていき、そして意識を失う。


「起きなさい」


 メイドの声で気がついた。

 うつ伏せの身体を両手で上げた。


 あれ?

 確か灰になったはずなのに。


「理由は分かるでしょ? アイスクリームを食べましたね?」


「何よそれ、知らな――熱っ!」


 また意識を失い、目が覚めた。


 彼女は呆れた表情で腕組みをしている。一歩近づいて口を開く。


「いやしいだけでなく、嘘までつくのですか」


 手のひらから光の玉を出した。

 その輝きを見ていると熱く感じる。

 何だか焦げ臭いと思ったら、私の身体から煙が出ていた。


 あれか?

 灰にしたのは。

 もしかして――太陽と同じ効果があるのか?


 メイドが手を閉じると光は消えた。熱さもそれに続く。


 ホッと安心した瞬間、彼女が上下逆さまになった。さらに細かく分解されてしまう。

 だんだん暗くなっていき、何も見えなくなった。


 私はバラバラにされたんだと理解した。


「……っう」


 今度は仰向けになっていた。

 起き上がると、彼女はメガネをくいっと上げた。


「すごい再生能力ですね。私にも欲しいものです」


「あなた! 何回殺せば気がすむの?」


「貴女が完全に死に絶えるまでです」


「私にいったい何の恨みがあるってのよ!」


「口の聞き方ができていませんね」


「きゃあ!」


 また燃えた。

 しかし先ほどに比べると熱くない。


「ふう、こちらの効果は薄いですか」


 メイドの手には十字架が握られている。

 嫌っ、そんな物見せないで。


「質問に答えてあげましょう。存在自体が恨みです」


「滅茶苦茶だわ。あなたとは初対面のはずよ」


「ふう、どうしようもない馬鹿ですね。もしかして私を知らないんですか?」


「知るわけないでしょ! ――って臭い!」


 ブクウウウウウズバン!


 口の中にニンニクを放り込まれた。

 身体が風船のようにふくらみ爆散した。


「あなたね! いい加減にしなさいよ!」


「それはこちらのセリフです」


 ゆっくりと歩いてくる。


「魔界では、アイスクリームが高級食材だということはご存じですよね?」


「ええ知ってるわ」


「ではここが魔王城だということも分かりますよね?」


「え?」


 嘘でしょ。

 辺りを見渡した。

 山羊の肖像画や彫刻がいたるところに飾られている。


 ――魔王様だ。


 ということはここは魔界の中心?

 私は田舎の家でゴロゴロしていたのに。


「昨日、アイスクリームが何者かに食べられました。魔王様のおやつをです」


「それは恐ろしいわね。犯人は楽には死ねないわ」


「お出かけ中で助かりました。明るみになれば一大事です」


「ああ、そういうこと。だから私に罪をなすりつけるために、ここにワープさせたのね」


 魔王軍で働く人たちは、高度な魔法を使えると聞いたことがある。

 私も下級魔法でもいいから使いたいな。


 目の前まで来た彼女は言った。


「被害者ぶらないでください。貴女がやったんです」


「やってないわ――」


 メイドの身体が縦にスライドして分裂をする。

 私が真っ二つにされたと理解すると死んだみたいだ。


 意識が戻ると、頭を踏まれていた。ハイヒールが痛い。


「……しぶといですね。ですがそれだけです。吸血鬼というのは弱点があまりにも多い」


「くっ」


 その通りだ。

 魔界には様々な魔族がいる。

 彼女のような角が生えているタイプは魔王様と同じ王族であり、魔界での地位が高い。


 それに比べ、吸血鬼というのは最下層に位置する。

 彼女の言う通り弱点が多すぎるためだ。

 太陽の光。

 十字架。

 ニンニク。

 他にも、聖水や銀を使った刃物などがある。


 もしかして、さっきから切り裂いてくる攻撃は銀属性でもあるのだろうか?


 ギュルルルルルル!


 お腹が空いた。

 短時間の間に、死と再生の繰り返したせいで体力が無くなったのだろう。


 メイドはクスクス笑っている。

 足を退けてくれたおかげで、立ち上がることができた。


 背丈は同じくらいか。

 ――しかし。

 ちっ、彼女の方がスタイルが良い。


 両手を広げてきた。

 目を細め、白い歯を見せてくる。


「やられっぱなしでは悔しいでしょう? ほら攻撃してみなさい」


「なっ?」


 バカにするな!

 だから思いっきりぶん殴った。


 ボキッ!


「痛っ!」


 骨が折れたみたいだ、私の拳が。


「どうしたんですか? 今は無防備ですよ。本気を出しなさい。まさか今のが全力ではないでしょうね……クスクス」


「くっ、あなた!」


 何度も何度も、殴ったり蹴ったりしたけどまるで効いていない。逆に私の身体がボロボロになった。


「本当に貴女って最弱ですね」


 ドスリッ。


 彼女の手刀が、胸を貫いた。引き抜くと内臓も出てしまった。


「くっ……あ……ああ……つ」


 激痛に耐えていると、内蔵はゆげが出て消えてしまった。身体の傷も治る。


 相手の方が格上なのは分かっている。

 それでも反撃だ。

 もしかしたら角が弱点かもしれない。


 スパン!


 きれいに切断された。

 私の手首が。


「きゃあ」


「最弱の……吸血鬼の分際で……よくも私の角を汚してくれたわね!」


「ぎゃあああ!」


 角が、右目に突き刺さる。そのまま持ち上げらてしまう。さらにブンブン振り回され、壁に投げつけられた。


「……ハァハァ」


 ギュルルルルル!


 傷の再生と同時に、またお腹も鳴った。



 吸血鬼には最も深刻な弱点がある。


 それは、生きた人間の血でしか『美味しい』と感じることができないことだ。


 残念なことに、魔界に人間はほとんどいない。人間界から連れ去った者が市場で売られているけど、高すぎて私には買えない。


 だから盗もうとしたけど、半殺しにされた。

 空腹でなければ絶対勝てるはずなのに。


 たまに、死んだ安いのが手に入るから、それで飢えをしのぐしかない。

 でも新鮮じゃないから美味しくない。


 他の種族は、はっきり言って不味い。空腹は最高の調味料だけど限界がある。


 だから体力を使わないよう、家に引きこもっていたのだ。

 最後に口にしたのは、いつだっただろう?


 育て親がいなくなって生活が苦しい。



「どうしたんだい? さっきからうるさいよ」


 甲高い声が響いた。

 少年が姿を現す。頭から角が生えていた。

 メイドは直立不動になった。


「は。申し訳ございません。王子様」


 親と全然似てない。

 メガネをくいっと動かし、私を指差した。


「あれが、アイスクリームを盗み食いしたと自白しました」


 ふざけないで。

 だめだ、お腹が空いて喋る力が出ない。


「じゃあ死刑にしよう。死刑だ死刑だ」


「それがあのゴミは生命力だけは高いのです。何度も痛めつけましたが、すぐに再生をしてしまいます」


「ふーん」


 つまらなそうに私を見る。


 あれ?


 彼の口元に白いクリームがついている。


 まさかまさかまさか。


「早く始末しちゃおうよ。父上が帰ってくるよ。バレたらおしりペンペンじゃすまないんだよ」


「ご心配なく。これより追放処分にいたしますので」


 ふざけるな。

 声が出ないから、思いっきり睨みつけた。


「何ですか、まさか不満だと言いたいのですか? 王子様が汚した輝かしい経歴を貴女が拭き取るのです。こんな名誉なことはありません。感謝なさい」


 メガネをくいっと動かした。


「私も日々の業務でストレスがたまっているのです。ですから発散させていただきました。ゴミはゴミなりに楽しめましたよ」


 絶対ゆるさないわ!

 あなたたち、いつか私が偉くなったら家来にしてこき使ってあげるから!


「ねーねー。これ見て。街で買って来たんだよー」


 部屋の奥からコウモリが飛んできた。足でひもを掴み、それをたどっていくと、首輪をされた女性が現れる。


 あれってもしかして人間?

 銀髪で幼い印象だ。


「王女様だって。下等生物のくせに生意気だよね」


「全くです」


 その人はひどくおびえていた。

 涙を流している。


 ゴクリッ。


 その表情は食欲をそそる。


「ねーねー。キミこれから死んじゃうんだけど、気分はどう? どう?」


「い……嫌。私まだ死にたくない。お……お願いします。殺さないでください。な、何でもするから!」


「うんうん。そうだよね。怖いよね。いいよ」


 王子は首輪を外してあげた。

 彼女に笑みが現れる。


「だーめ」


 彼女は木っ端微塵になった。


 もったいない。


 私の所まで血が流れてきた。

 床に顔をつけ、なめ回す。


「おいおい、何だいあれ」


「下品なヤツですね」


 メイドに蹴られたけど全然痛くない。神経が麻痺してしまったのだろう。


 この血は美味しくない。

 人間は生きていないと味が落ちるからだ。


 でも、なめるのをやめない。

 渇いた喉をうるおしてくれるから。

 空っぽだった胃袋を満たしてくれるから。


 ――だから。

 あなたの死は無駄じゃない。

 あなたの死は意味があった。

 あなたの命をいただいたのは私だ。

 あなたに感謝をする。


 ありがとう。


「やばいよ! 父上が帰ってきた! どうしようどうしよう!」


「お任せください」


 メイドが手を叩くと、私を中心に魔法陣が現れた。


「魔界では不死身でしたけど、むこうの世界ではどうでしょうね。何せ吸血鬼を確実に殺す太陽の光が降り注いでいますから」


 ――え?

 ――それってまさか?


 辺りが真っ白になった。



 ――人間界?


読んで頂いて、誠にありがとうございました。

「面白い」

「続きが気になる」

「主人公オプトゼチはこれから何をするの?」


と思いましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


面白かったら☆5を、つまらなかったら☆1でも構いませんので、つけて頂けると大変助かります。


ブックマークも出来たらで構いませんので、頂けると大変嬉しいです。


身勝手なお願いですけど、どうぞ何とぞよろしくお願いします。

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