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あの花が咲く頃にまた逢いましょう その2

「じゃあ俺はここで。」


 そう言って俺は悟と別れた。

 一人帰りながら思った。確かに俺は中学生最後の夏休みに田舎に籠もらなくてはいけない。それが嫌である。でも、だからこそ出来る体験というのもあり、それは俺の人生の調味料となるだろう。砂糖なのか塩なのか香辛料なのかは分からないが、それは必ず自分に資することになるのではないか、そう思えてきた。そんなことを悟と話していたら思い始めた。

 今日、帰って昼食を済ましたら明後日の準備をしなくてはと思うとため息が出る。価値があると思っても面倒なのには変わりがない。

 家に到着した俺は台所にいる母に声をかけた。


「母さんただいま。」

「お帰り。お昼は炒飯ね。」

「わかった。先に着替えてくる。」

「はーい。」


 俺は2階の自室に向かった。階段を登っていると窓に新しいぬいぐるみが置いてあった。有名なゲームのキャラクターだ。独特なデザインだが、人気の高いやつだ。母が買ってきたのだろう。母はぬいぐるみが好きでよく買って来ては家に飾る。種類は色々で動物だったり、何かのキャラクターだったりとレパートリーは豊富である。最近はキャラクター物のが多いと思う。父はそういう母を見て小遣い減らされているのにとぼやいている。父親というのは中々苦労が報われないのかなと父に対して少々同情している。部屋に入るとベッドにスクールバッグを投げて、タンスから着替えを出した。今日はもう出かける予定はないので普段着を出して着た。半袖のTシャツとスウェットを着ることにした。制服はクローゼットにしまいYシャツは1階の洗濯する籠のところに持って行き入れておいた。そして、俺はリビングに行き昼食を食べることにした。炒飯はもう出来ており、俺はテレビの見やすいテレビの向かいに座った。母はもう食べたようで皿は俺の分しか置かれてなかった。テレビはニュース番組にしておいた。最先端の流行には興味がない。

 炒飯を食べていると母がやって来た。


「明後日の準備出来てる?」


 煩いなと思う。分かりきったこと言われるのは腹が立つ。勿論、母が良かれと思って言ってくれているのは重々承知である。でも、腹が立つ。まぁ、以前国語の資料集を読んでいて見かけたが、孔子も思うままに生きても道を外れなくなったのは70過ぎてかららしいからしょうがないか。


「食べ終わったらやるよ。心配しなくても大丈夫だよ。」

「でも、今年は一人で行くから心配にもなるわ。」

「俺はもう中3だよ。じいちゃんばあちゃんの家に行くくらい問題ないよ。」

「そうだけど。」


 まだ、心配そうにしている母を煩わしく思えてきたので。残り少しになった炒飯を口に詰めて食器を流し台に置いてさっさと2階の自室に籠もった。

 準備自体は大して時間は掛らなかった。着替えと勉強道具、その他歯ブラシ等の生活用品を詰めるくらいだからである。準備を終えた俺はベッドで横になり夕食で呼ばれるまで一眠りした。

 その日は夏休みに入りたてだったから、のんびり過ごそうと思いテレビを見たり、悟とスマホでメッセージのやり取りしたり、動画見たりしてすごした。

 2日後。

 俺は東京の中で最大の駅にいた。古風な作りの日本を代表する駅である。朝早くに家を出て電車を乗り継ぎ、田舎に行くためここまで来た。まだ、電車の時間には余裕があったので待合室でジュースでも飲みながら待つことにした。待合室に行くと結構人で混んでいた。俺は空いている席を見つけて荷物が人にぶつからないように慎重にその席に行った。夏休みだからか子連れが多かった。帰省でもするのだろうか。きっとのんびり過ごすのだろうなと思う。俺は半月特訓させられるのに羨ましい。去年は家族で行き、のんびりしようと思ったら親の帰省の挨拶回りに付き合わされてまったく気が抜けなかった。結局、ゆっくり出来たのは寝る頃だけだった。今年は去年と違いさらに祭りの神事があるから余計にゆっくり出来ない。緊張で寝る時も憂鬱だろう。はぁと溜め息が自然と漏れていた。

 電車が来る頃に俺はホームに来た。駅員が見廻りしていた。まだ、若くちょっと地味な感じが電車好きがこうじて就職したのかなと思わせる。あまり考えたことがないが、将来は好きな仕事をしたいなと漠然と思っている。ただまだ何がしたいかがはっきりしない。理系の?仕事をしたいと考えるとそう考える。大学はまだ先なのでまったく考えてない。高校はなるべくレベルの高いところに行こうと考え南多摩高校を受験する。あっちに着いたら昼間は夏休みの課題と受験勉強、夜は神事の特訓。大忙しだ。神事は面倒だが、何か自分の人生に資するものと信じたい。

 急に電車が到着するというアナウンスが入った。列車がホームに入り俺は乗車した。親のお金で行くのでちょっと奮発して指定席を買った。自由席はたぶん座れないし、何時間も立ちっぱなしはきつい。それにあっちに着いたら忙しくなるから乗車中くらいはのんびりしたい。自分の座席に座りゲーム機を取り出した。到着するまでぶっ通しでやることにした。到着時間まではゆったりとした時間が過ぎて行った。

 祖父母の家の最寄り駅には昼過ぎに到着した。駅には観光客を含めて人はほとんどいなかった。祭りの時期になれば観光客は増えるだろう。俺が参加する祭りである創社祭はそこそこ知られた祭りでテレビに取材されたこともある。京都や東北の著名な祭りには負けるが、この地域ではそれなりの地位ある祭りだと祖父母たち村人は思っている。俺はそんなんでもないだろうと思っている。自負心を持つほど恥ずかしいことはないと俺は思っているからだ。結局、自負心というのは自画自賛の延長なのだ。

 さて、寂しげな駅でポツンと一人いる俺はスマホをポケットから取り出し、祖父母の家に電話した。すぐに出た。


「もしもし。」

「おお高政か!」


 出たのはじいちゃんであった。


「着いたのか?」

「ああ、今着いたところ。」

「すぐに迎えに行くからな。昼はどうする?」

「まだ、食べてないから、何か作ってよ。」


 飲み物以外の食料を持って来てなかったので、お腹はペコペコである。久しぶりにばあちゃんの美味い料理を食べたいものだ。


「そうかわかった。ばあさんに言っておく。車出すからしばらく待っててくれ。」

「はあい。」


 電話を切った俺は駅前広場のベンチに腰を下ろした。しかし、日が当たって暑いので近くのコンビニに逃げ込んだ。中はクーラーがガンガンで涼しく地獄から脱出したような心地がした。幸いイートインコーナーがあったので冷えた炭酸飲料を買って、じいちゃんが来るのをコンビニ内で待つことにした。


「相変わらず人がいねえな。」


 車も人もほとんど歩いていない。たまに思い出したようにポツンとポツンと見かけるだけである。人よりも鳩の方が多いという印象である。ところが祭りになるとどこからこんなに湧いて来るのかと思うくらい人だかりとなる。観光客もいるのだろうが、それでも不思議に思ってしまう。中々な盛大な祭りということだろう。そんなことを考えながらぼんやりしているとじいちゃんが車で来た。駅前の駐車スペースに止まり、窓を開けてきょろきょろし始めた。俺は飲みかけの飲み物を片手に持ち、荷物をもう片手に持ちコンビニを出た。


「じいちゃん!こっちこっち!」


 俺が声を出して言うとじいちゃんは気づきこっちに手招きをしてきた。相変わらず元気そうな人だ。あの様子だと調子は良いだろう。俺はじいちゃんの車の許に向かった。


「よく来たな。荷物は後ろにな。」

「うんわかった。」


 俺は荷物を後ろの座席に置くと助手席に乗った。いつもの車酔いしそうな匂いがした。

 俺を乗せた車は出発し、山の方へと向かった。じいちゃんの家は山に入ったところにある。山はまるごとじいちゃんの土地で山を先祖代々少しずつ開墾し、農地にしていった。地元でも指折りの規模の農家である。昔聞いた話によるとじいちゃんの家は村が出来た初期からあり、古五家の一つに数えられているそうだ。

 乗車中は暇だったのでスマホをいじっていた。悟とメッセージのやり取りしているとじいちゃんが話しかけてきた。


「スマホ楽しいのか?」

「まぁ、便利ではあるし、それなりに楽しいよ。」


 正直スマホいじっている時に声をかけられるとうるさいと思ってしまう。本当に怒ったりはしないけど。そういえばじいちゃんはまだガラケーだったな。興味があるのかな。ちょっと聞いてみようと思い、スマホで悟にメッセージを送りながらという年長者に失礼な態度で聞いた。


「じいちゃんはガラケーだっけ。スマホに興味あるの?」

「そうだな。スマホも興味があるが、ガラケーも完璧には使いこなせてないし、スマホの機能はもっと多くて複雑だろ?宝の持ち腐れになる気がしてな、手が出せんのだ。」

「使いこなそうとすると確かに難しいし、リスクがある。でも、キャッシュレスとかそういうのは使えなくても大丈夫だよ。最低限の機能が使えれば損にはならないよ。」

「そうか、今の高政の話で買う方にだいぶ傾いたな。」

「まぁ、時間をかけて考えてみて。」

「うむ。」


 暫しの沈黙が訪れた。気まずいのではなく身内同士の気楽さから来るものだ。実際じいちゃんは機嫌良さげに鼻歌を奏で始めそうな様子だった。俺も心を落ち着かせて穏やかな気分であった。あっちに着いたら忙しくなるから今くらいは心地よく過ごさせてもらいたいものだ。悟からメッセージが届く。受験勉強中らしい。大変さをつらつらと述べている。俺からしたら楽で羨ましい。神事の主役をやらねばならない俺からしてみたらである。続いて悟から今どこら辺にいるのかというメッセージが来た。言ってもわからないだろと送ると検索すると来た。仕方ないので事細やかに説明するとしばらく間を置き、メッセージが送られてきた。ど田舎だなとお茶目な絵文字付で送られてきた。言い返そうとしたが、じいちゃんの家に到着しそうなので用ができたと話を切り上げた。

 古い広い家屋の前で車は止まった。

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