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7.いつかぜったいわかるもの

少し短いですが、きりのいいところまで



湖ボート沈没事件から、リーリウムとロジエがすっかり仲良くなった一件は、あっという間に学園内に広がっていった。

おりよく牡丹が編入してきたのもあり、神秘の国の皇女と巫女と金薔薇姫はカラーリングもあいまってとても目立つ。

一般教養とダンス、刺繍などの家庭を主にとっているロジエの授業は、三分の一くらいがリーリウムと、三分の一が牡丹と、残った三分の一が二人ともと重なる(ように、牡丹が調整して編入してくれた)ので、だれかが一人きりということはとても少なくなった。

リーリウムは魔力があるので魔術課の科目が多いけれど、そこは牡丹が巧くフォローしてくれている。

私にできることはロジエの記憶を頼りにしきたりや礼儀、作法を教えることだけど、メプルドの世界の基本的なことは頭に入っているいわゆるヘビーユーザ三人なので、残りは実践あるのみといったレベルになっていたのもよかった。

「ドレスを作らないと間に合いませんけれど、リーリウム様はどうされます?」

「うちは貧乏なので、母の昔のを手直ししようかと」

「あら、そうなの?」

って、母ってどっち。

視線に気が付いたあんずちゃんが、てへへと可愛く笑った。

「うちの母が、私くらいの年の頃にどっかの貴族様から頂いたものらしくって。今日、寮に届くはずなんです」

「あら素敵だわ。お母様の思い出の品ね。わたくしの母は早くに亡くなってしまったから、そういったものを引き付けなくて寂しかったものよ」

牡丹の言葉に、少しだけ空気がしんみりとなる。今日は授業がない時間ができたため、三人でお茶会だ。

小さなテーブルには、牡丹の国のお茶と茶菓子が置かれている。おせんべい、おいしい・・・!

と、リーリウムが嬉しそうに手を組んだ。

「あの、それでですね、よかったら私、お二人に、コサージュとか作ってお贈りしたくて」

「まあ、わたくしたちに?」

「ええ。よければ、おそろいで!なので、お二人のドレスの色を教えていただきたくて」

おおっとコサージュ事件のフラグを立てる時期だ!

ゲーム内では、仲が微妙なロジエと仲良くなりたいと、リーリウムは亡くなった母の遺品であるドレスを解体し、美しいコサージュを作り上げる。

それを自分で渡そうとするのだが、割り込んできた貴族たちに「私たちからお渡ししておくわ」と奪われてしまう。

盗んだのは、もちろんリーリウムに嫌がらせをしているメンバーの一人。さらにはロジエとの仲を引き裂いてしまえ。と、かれらはそのコサージュを、シヤンに渡すのだ。「リーリウムからの愛の贈り物です」と、偽って。

リーリウムは亡き母の遺品なのでそれを身に着けて会場に入るのだが、おそろいのそれをシヤンがつけていることに驚き声を喪う。

すっかりリーリウムに入れあげていたシヤンは、そのコサージュと共に吹き込まれたロジエのありもしない悪行をすっかり信じ込んでしまい、現れたロジエに向かって婚約破棄を言い渡す。というストーリーだ。

お茶会をしている庭の少し離れたところには、こちらの隙を伺おうとしているどこかの貴族の従僕がさっきからチラチラと見え隠れしている。

隠れるなら、もっとうまく隠れてほしい・・・うちのアルトゥールを見習ってほしい。今も同じ庭にいるはずなのに、姿も気配も感じないんだもの。

「わたくしは、国から衣装が届いていますわ。赤い花洛の礼服ですの」

というと、ちょっと和風と中華が混ざったオリエンタルな絹地のものかな。牡丹はスタイルがいいから、なにを着ても似合うだろう。

はぁぁぁ・・・おっぱい、ほしい。しみじみと胸をなでおろしていると、二人から生暖かい視線を向けられる。

シヤンがおっぱい大好きなことは、当然二人とも知っているからね・・・どうしたら大きくなるのかしら。

「揉んでいただくとよいらしいですわよ」

「ひぇっ?!!」

「あら、ロジエ様どうかされました?」

「縫物をしていると肩が痛いという話でしたのに・・・」

にやにや、にまにま。わかっていてからかってくる二人に、私は赤くなった頬を膨らませてみせる。



あの日からほぼ毎日、私たちはこの庭で昼食をとるようにしていた。そのままお茶会までして、午後の授業への英気を養う。

何日か続けていれば、シヤンかリオシャヴァージュ。もしくはその両方も一緒にお昼を食べるようになった。

昼食の席では、知識としてリーリウムが一番たどたどしくなってしまう。なのでその都度「フォークはこうもったらよろしいのよ」「ナイフはこちらに」「とてもお上手になられましたわ!」と指導しつつフォローを入れていけば、あんずちゃんの頑張りもあって本当にあっという間に上達していった。

最初は微笑ましく見守っていたリオシャヴァージュはもちろん、噂は耳にしていたのだろうシヤンの視線が、徐々に柔らかいものに変わっていくのを感じることができた。

天気が良くない日などはどうしても室内になってしまうけれど、ダンスの練習室を一つ開放してもらい、そこで昼食をとるようになったら、次からは両王子もそこに揃うようになった。

ついでとばかりに、二人に頼んでリーリウムと牡丹のダンスの練習をしてもらう。私も男性パートが踊れないわけじゃないし、二人のおっきなお胸に埋もれれるなら喜んで!なんだけど、なにぶん身長差がほとんどない私たちでは、相手というにはいささか不向きだったのだ。

教室の隅に置いてあるピアノ(のような楽器)を軽く弾きながら、シヤンと牡丹、リオシャヴァージュとリーリウムのダンスに視線を向ける。

ダンスパーティーと言ってはいるが、ようは夜会に舞踏会がセットになったものだから、最低限踊れないと壁に寄りそうしかない『壁の花』になるしかない。

あんずちゃんとしては絶対にリオシャヴァージュと踊り、ルートの確定をしたからとても必至だ。

寮に帰ってからも熱心にこなしているから、コサージュ造りとあいまってあまり寝れていないらしい。

「・・・今日はここまでにいたしましょう」

「ま、まってください、もう少し、もう少しだけ・・・!」

きゅっと私の手を握ってくるあんずちゃんに、私は小さく首を横に振った。

「いいえ、いけません」

「でも、もう少ししたらうまくいけそうな・・・!」

「リーリウム嬢もそういっているんだ。俺たちならばかまわない」

シヤンにそう言われれば、以前のロジエならば引き下がり、意見を飲んでいただろう。

「いいえ」

顔を上げ、私はシヤンにきっばりと言い返した。

「今日はここまでといたします」

「・・・俺の命でもか、ロジエ」

「シヤン様の命でも、ですわ」

顔を上げた私に、同じ青でも私とはまったく違う色の瞳がこちらを真正面から見つめてくる。

「・・・なにか、お考えがあるのでは?」

にらみ合いになりかかった私たちの間に割って入ってくれたのは、夜会用の扇子を持った牡丹だった。

「ロジエ様」

促され、私はゆっくりと息を吐きだした。リーリウムが絡むと、シヤンはなんだか意固地になる気がして、つい私もへんな気を張ってしまっていたらしい。

「・・・リーリウム様、もしかして、足が痛いのではありませんか?」

「えっどうしてそれを」

「先ほどから、同じステップの時だけ踏み込みが浅くなっておられるようで。ヒールにも慣れておられないとおっしゃられていましたし・・・」

手を引いて、私が座っていた椅子に座らせ、許可をもらってそっと足を持ち上げれば、やっぱり踵のところが赤くなり、皮がむけてしまっていた。

「これくらい大丈夫です、≪輝きの風」

癒しの言葉を唱えようとしたあんずちゃんの唇を、私はそっと、人差し指で押さえてさえぎる。

「いけませんわ、リーリウム様。それは傷を癒すのではなく、元の状態へと戻すもの・・・たしかに傷は無くなりますが、せったく覚えたステップを足の方も忘れてしまいますわ」

簡単な呪文だが、これを使える人間は、実はそう多くない。

傷を治すのではなく、元の状態・・・傷がなかった時に戻すこの呪文の大きな欠点は、その範囲の『すべて』を元に戻してしまうというもの。

あんずちゃんの魔力は大きくて強いけれど、まだ精密に施すということは難しい。たぶん筋肉痛とかもこれで治してたんじゃないかなぁ・・・。

「今日、明日。しっかりとお休みになって。顔色もよくありませんもの。夜更かし、してらっしゃるのでは?」

床に座って持っていたハンカチでくるくると踵を包みながら諭せば、あんずちゃんは顔が赤くなり、さらに赤くなった。

「やだロジエ様かっこいい」

「え?」

「えっ」

「へ?」

上から、シヤン、リオシャヴァージュ、私。

それぞれからの視線を受けて、あんずちゃんはばたばたとせわしなく手を振った。

「だって、なんかこうこんなにきれいな方にこう、手当とかされたらほら、どきどきしちゃうじゃありませんか!」

「・・・そう、かしら?」

「そうですよ!ロジエ様だって牡丹様だって、ときめいちゃうに決まってます!」

ふん、と胸を張って、あんずちゃんは少しだけにんまりと笑ったのだった・・・。


「いつか、絶対ロジエ様にもわかりますって!」


誤字脱字等ありましたら、ご連絡いただけるとうれしいです。

ブクマ、評価等あると、次回もがんばれます。

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