モンスターのカッシー、私を見つける
「ねえ、レインちゃん。ちょっと聞いてもいいかしら?」
「なんですか? あ、さっきから私たちの後ろをついて来ているモンスターについては知りませんよ」
「あら、そうなの? さっきからレインちゃんに熱い視線を向けているから、ついレインちゃんの知り合いモンスターなのかしらって思ったんだけど」
リーの言う通り、さっきから私に熱い視線を送ってくるモンスター。そのモンスターは木の後ろで姿を隠している……つもりなんだろう。頭とお尻が見えている。何ともお間抜けなモンスターである。
私を見ているモンスターの名は、カッシー。倒すと経験値が多くもらえるお菓子作りが大好きなモンスターだ。姿形性格共に可愛らしいので、私は一度も倒したことがない。勇者も私のそういう気持ちを汲んでくれていたのだろう。見て見ぬふりを何度かして、通り過ぎた経験がある。
「カッシー」
可愛らしい高めの声が聞こえてくる。そしてきらきらと輝く星のようなものが頭に刺さる。いや、刺さったような感覚に陥る。
ちらり、振り向くと……。
「カッシー!」
嬉しそうにぶんぶんと手を振ってくるカッシー。
くっ……。かっわいいなあ。何なんだ。あの可愛さは。
私は口元を左手で隠し、にやけそうになるのを必死に堪える。
「可愛いわねえ」
「ええ、とても……!」
「ねえ、レインちゃん。あの子何かいそいそと準備してるわよ」
目線を上げると、リーの言う通りいそいそと何か準備しているカッシーの姿があった。しばらく見ていると、カッシーは美味しそうなマフィンをどこから出したのか持って近づいてきた。
「カ、カッシー!」
カッシーは、テーブルと椅子も準備してそこにマフィンを置いた。そして満足気に頷くと、ぽむぽむと足音を立てながら先程まで隠れるのに使っていた木の後ろへと行った。
うん。あのね、やっぱり頭とお尻が見えてるよ。隠れきれてないよ。バレバレだからね、そこにいるの。でも可愛い。本当に可愛い。
私は小さく息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
それにしても、あのマフィンはどういう意味で置かれたのだろうか。たぶん食べてってことなんだろうけど。……うーん。一応カッシーもモンスターだからなぁ。まあ、毒とかには耐性あるし問題はないな。うん。それに何より、あのマフィン美味しそう。
「リー。私、あのマフィンを食べてきます」
「食べても大丈夫かしら?」
「たぶん、大丈夫だと思います。それに私、毒とかの耐性があるので問題ないです」
私はマフィンを食べるためテーブルに近づく。そしていい香りのするマフィンを一つ持ち上げ、一口食べてみる。
「うっ……!」
「レインちゃん! 大丈夫!?」
膝から崩れ落ちた私に駆け寄ってきてくれるリー。彼女は私の肩に手を添えて、顔を覗き込む。そして私はそんなリーの瞳を真っ直ぐ見つめて、一言。
「美味しいです……」
「美味しいだけ? 毒とかは大丈夫なの? レインちゃん無事?」
「大丈夫です。本当に美味しい。今までで食べた中で一番美味しいマフィンかもしれません」
私の感想を聞いたリーは、マフィンを一つ手に取り口へと持っていく。そして一口食べると、幸せそうに顔を綻ばせた。
「本当だわ。とっても美味しいわね。ほっぺが落ちてしまいそう」
「何個でも食べられる美味しさです。お菓子作りが好きなカッシーだからこその味ですね」
私たちはカッシーの作ってくれたマフィンを次々と食べていき、そして最後の一つになった。リーと顔を見合わせ、マフィンを半分にする。冷えても優しく香る甘い匂い。それに自然と顔が緩む。
「カッシー」
最後の一口を飲み込んで「ご馳走さまでした」とリーと一緒に言うと、木に隠れて私たちを見ていたカッシーが嬉しそうな声を出した。
「リー。ちょっとカッシーのところへ行ってきますね」
「ええ。行ってらっしゃい」
私は、ゆっくりカッシーに向かって歩いていく。そしてカッシーの隠れている木の前に立った。
「カッシー。ありがとう。とても美味しかった」
「カッ……カッシー!」
ぶわっと大粒の涙を次々と零していくカッシー。そんなカッシーの姿を見て私は、とても動揺した。それはもう両手を彷徨わせ、おろおろと身体を動かすくらいには。
「え!? ど、どうしたの? カッシー! 私何か酷いこと言った?! え、えうあ……うおっとええどうしようリー!!」
「落ち着いて、レインちゃん」
私たちの異変に気付いたリーが駆け寄ってきてくれて、私の背中を擦ってくれる。
「カッ、カッシー! カッシー!」
少し落ち着きを取り戻した私に向かってカッシーが勢いよく向かってくる。そして、思いっきり私を抱きしめた。
えっ、これどういう状況だ。




