2話 At the house
前回──少年フィン、迷う!
そこに現る謎の男!そして倒れてしまったフィンの行方は!?
第2話「At the house」
「さあ着いた着いた。起きろ少年」
フィンが青年の声に目を覚ますと、青年に背負われ、小さな家の前にいた。森の中に突如現れた霧の中を青年は難なく抜け、青年の住む家までたどり着いたようだ。
青年は細身で背は高い。髪色はこの辺りでは珍しい赤色で、燃えるように鮮やかな、というより、赤黒く深紅に近い色をしている。さらに、夏場だというのに長いコートを着ており、その色はちょうど木々に溶け込むような茶色をしていた。
目の前の家は小さなログハウスのようであり、釣り人が住む湖畔の住居のような雰囲気だった。
「……ここは?」
「俺ん家だ。とりあえず上がってくれ。部屋履きは俺の予備を貸すよ」
そう言うと青年はフィンを背中から降ろした。そしてドアの鍵を開け、靴を履き替え、コートラックにコートを掛けると、家の中に入っていった。
フィンは出された靴に履き替えると、おずおずと家の中に入って入って行った。また、部屋の端には麻でできた紙が数枚、ある程度整頓されて置かれていた。
「そこに座って待っててくれ。綺麗な金髪の少年、コーヒーは好きかな?それしかないんだけどさ」
フィンが青年の指す椅子に座り、部屋を見回していると、青年はコーヒーを2人分作り、持って来てフィンに渡した。
「飲んで暖まるといい。落ち着くぞ」
フィンは、わけもわからないまま出てきたコーヒーを眺めていると、青年はそれを見て
「名乗ってもない人間に不信感があるのは当然だったな。すまんすまん。」
と言うと、青年は一瞬何かを考えるように黙って、続けた。
「――ケイル・ロイランド。ケイルとでも呼んでくれ。」
ただ呆気に取られて押し黙っていただけだったのだが、目の前の青年が名前を言ったので、フィンもゆっくりと沈黙を破った。
「フィン・トレイシーです。」
「フィン君か、いい名前だ。さてフィン君、コーヒーはお好きかな?落ち着くから飲むといいよ」
その言葉に、フィンはおずおずとコーヒーを飲む。体が暖まり、思わず美味しいと短く呟くと、ケイルという男はぱっと明るい顔をした。
――自分を家まで運んでくれたこともあるし、悪い人ではなさそうだ。状況は全く理解出来ないけど……
少年がそう思っていると、男はフィンがコーヒーを飲んだのを見るや、話し始めた。
「まさかここまで人が入ってくるとはなあ。森にはよく遊びに来るの?」
フィンは無言で首を縦に振って肯定した。
「変な質問するけど、隅々まで知り尽くしているほど森は好き?」
「自信はありませんが」
ケイルの問いかけに、まだ状況に慣れないフィンは小さな声で沈黙を挟みながら答えた。ケイルは、何かに納得のいった調子で話した。
「なんとなく事情はわかってきた。それじゃ」
説明するとしよう。とケイルは前置きをして続けた。
「まず、君はここまでどうやってか迷い込んだ。俺がここを覆うように作った結界――鍵付きのドアみたいなもんだ。あの霧のことだ。それを恐らく君は、自分自身の意思とは関係なく開けて入ってきた。」
「鍵付きのドア……合言葉が必要、ですか?」
「そんな感じだな。飲み込みが早くて助かるよ。そして、俺はそこに野暮用で訪れ、君を見つけた、というわけだ。結論から言うと、帰る算段はある。恐らく君は帰れるだろう。……だけど」
だけど、と言うと、ケイルは声のトーンを少し落とす。
「これは俺にも全く初めての事態なんだ。ただの知識で結界が突破できるなんてことがあるわけが――」
と、部屋に誰もいないかのように独り言に入り始めたところで、ケイルはハッとして我に帰った。
「おっと、話がそれた。また変なことを言うが、鍵付きドアのおかげでこの家の周辺は誰にも入れないようになっている。ここに来られた原因に心当たりはあるか?何か不自然なモノを見た、とか」
帰れるとわかり、フィンは安心感を得たのか、先程より冷静になり、霧の中の風景を思い浮かべる。
「霧の中で迷ったときに、一つだけ」
フィンは、自分の見た景色を目の前に映すように思い浮かべ、ぽつぽつと言葉にした。
「人影ではない……何か、ぼやけてよくわからなかったんですが、丸いものが」
「ほう、大きさとか色とか、他にわかっている事はあるか?」
「黒い色をしていて、かなり大きいもので……」
ふむ。とケイルは相槌を打ち、顎に右手を当てて唸る。
「結界の不調か……術式に干渉があったのか……?」
またも独り言に移行するケイルに、フィンは気になっていたことを尋ねた。
「あの、ケッカイとかジュツシキとか、何のことなんですか?」
ケイルは、フィンの質問で独り言を打ち切り、答えた。
「あー、俺は学者みたいなもので、この森でいろいろと研究しててな。難しいことなんだけどな」
そこでケイルは、フィンが目を輝かせていることに気づいた。椅子からも身を乗り出しており、興味が隠しきれないほどに現れていた。
「森とあれば、なのか……ふふ、少し元気になったようだな少年?」
フィンは、自分が既に身を乗り出していたことに気がついてビクリと反応し、羞恥で顔が赤く染まり、固まってしまった。
「こんな訳の分からない状況でも興味が出るほど俺の研究が面白そうか。人生で初めて言われたな」
ケイルは、嬉しそうな声色で続けた。
「元気になったようだし、実際に見に行ってみるか。研究の話も、フィン君になら理解してもらえそうだ。どのみちここまで来てしまったんだ。付き合ってもらうとしよう」
フィンは徐々に羞恥の中から帰ってきた。そしてケイルが席を立ったのを見て自分もそうした。
「荷物はそのバスケットだけだったな。じゃあ早速出発だ。まだ今から帰れば夕方ぐらいには帰れるだろう。」
そう言うと、ケイルはフィンを連れて、コートを着て家を出た。
「俺の研究――魔術について、教えてやろう。講義の始まりだ。」
こんにちは。以前、夜中にトイレに行ったら、壁に映るは謎の影。寝ぼけていたので気にしませんでしたが、朝になってもまだいたのでその正体に気づきました。完全に大嫌いなクモ(無害な方)でした。
寝ぼけてよかった、みどりいろです。
第2話をお読み頂き、ありがとうございました。
ぶっ倒れたフィン君、現れた青年ケイルが恐らく善人らしいことが不幸中の幸いと言ったところ。
しかしケイルさん、どうもテンションの高い御仁ですね。しかし彼の言動にはどこか謎めいた部分がありますね。霧も彼の仕業のようです。一体、青年ケイルにはどのようなシークレットがあるのやら。不思議ですね。
それでは次回をお楽しみに。もしかしたら、ケイルの「研究」の正体が明らかになるかも......?




