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砂糖をほんの一匙 これはそんな物語  作者: ミミックもどき
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桜と新学期

今日は月曜日。ほかの日よりも少し憂鬱な朝の光を受けながら登校するものが一人。寝ぐせの治っていない髪を気にも留めず、いつも通りに昇ってしまった太陽を恨めしく思いながら歩く男の名前は魚天楓(うおぞらかえで)。高校二年生である。

眠いのかどこかボーとした様子の楓は定期券を駅の改札にかざしてホームに入る。昨日まで春休みといういくらでも惰眠をむさぼることができる環境だったのにそんな夢のような時間は桜よりも儚く脆く散ってしまった。実に無念でならない。そんなことを考えていたらゆっくりとホームに電車がやってきて止まった。楓はその電車に乗り込む。電車の中は登校中の生徒と通勤中のサラリーマンでそこそこに混んでいた。楓は吊革につかまり窓の外に広がる風景でもみようかとしたところとても聞き覚えのあるさわやかな声が聞こえてきた。


「春休み明け初めての学校なんだからもうちょいわくわくしたりシャキッとしたほうが良いんじゃないか?」

「それは俺にたいしてのジョークとして受けっとていいか?」


声だけでイケメンであるのがわかるその男の名前は藍沢(あいざわ)(ゆう)(うま)。楓の同級生である。バリバリのインドア派である楓とは反対でイケイケのアウトドア派でサッカー部のレギュラーでもある。最近彼女ができたとかではしゃいでいた。


「流石は楓。他のやつはクラス替えでそわそわしてるのにお前のその態度。将来大物になるぜ」

「それは僕がどのクラスになっても何も問題がないからだよ」

「お前友達少ないし、そもそもいなくても一人で生きていけるやつだもんな」

「お前は愛しの彼女さんと同じクラスになれるといいな」

「そこが心配なんだよなぁ。香織と一緒のクラスになればいいんだけど...」

「お前にしては随分と弱気な発言だな。」

「そりゃ香織と同じクラスになれないのは死活問題だからな。心配で心配で昨日は六時間しか眠れなかったぜ」

「そりゃ大変だ。君たちが一緒のクラスになれるよう祈っておくよ」


なんてくだらない会話を三十分ほど話していたら電車は目的地である塩原駅に着いた。楓たちと同じ制服を着た生徒たちがたくさん電車から降りる。降りた駅のホームからはいくつもの桜の木が満開に咲いているのが見えた。

駅の改札を抜け桜並木の坂を上るとそこには楓たちの学び舎であり楓が惰眠を思いのまま貪ることができなかった原因でもある新鶴高校が鎮座していた。


悠馬とっしょに下駄箱に行くと沢山の生徒が張り出されている紙を見ていた。その紙を見て一喜一憂する生徒たちはどこか滑稽にも見るが当人たちにはそれほどの価値があるのだろう。現に楓の隣にいるさわやか男は真っ先に紙のもとに向かっていった。


暫くすると悠馬がにこやかな顔をしながら帰ってくる。


「その様子をみるに愛しの彼女さんとは同じクラスになれたらしいな」

「おう!そしておまえにもグッドニュースだ!」


どこか興奮した様子で言う


「どうしたんだ?今日は空から秋刀魚でも降ってくるのか?」

「もしほんとにそうなったら今日の夕飯はどこの家庭も秋刀魚尽くしだな。グッドニュースってのは俺とお前が同じクラスってことだよ!」

「それのどこがグッドニュースなのかが分からないのだが」

「お前友達片手で数えるほどしかいないだろ?そんな中この俺がお前に救いの手を与えてやろうってことじゃないか」

「余計なお世話どーも。それで俺のクラスはどこだ?」

「俺たち(・・・)のクラスは三組だ。そろそろ行こうぜ」


教室に入るともうすでに生徒が何人もいた。クラスのお友達といち早く交流を図りたいのだろうか?悠馬は教室につくとすぐさま愛しの彼女のところに行ってしまった。


一人だとやることもないのでひとまず自分の席を確認し一息ついた楓はぼんやりと周りを見渡した。すると教室の端、窓側の席に女子が一人空を見ながらぼーっとしているのを見つけた。


「よう。そこの一人空を見て黄昏れてるお嬢さんや。お友達とお話ししなくていいのかい?」

「魚天...私にはお友達なんて呼べる存在はいないのを分かってそれを言っているのかい?」

「だからこそ学年が変わってクラスの人間関係がまだ確立していない今行動しろよ。というかお前の友達はここに一人いるだろ?」

「魚天とは友達じゃなくて腐れ縁っていうんだよ…」


楓の目の前にいるポニーテイルで眼鏡をかけた女子は白浜奈津(しらはまなつ)。小柄だが出るとかはかなり出ていて制服のブレザー越しにもその大きなものが感じ取れる。


「魚天、目がいやらしいよ」

「そりゃ失礼。久しぶりにお前にあったからどれほど育ったか確認しようと思って」

「それ以上セクハラ発言するようなら魚天のことをぶん殴る」


流石にこれ以上からかうのはまずい。楓は話を変えることにした。


「それでなんで友達を作る絶好のチャンスなのにそれをみすみす手放すような真似を?」

「露骨に話題をそらしたことは突っ込まないで上げる。私には友達なんて要らないんだよ。分かりきったことでしょ?それにそれを言うなら今私としゃべって無為に時間を浪費している魚天のほうこそお友達を作らなくていいの?」

「それこそ分かりきったことだろ。俺はもう友達といえる存在は十分にいるの。これ以上増やしても俺が疲れるだけだしそもそも俺は少ない人数と深く付き合うほうが性に合ってるんだよ。増やすとしても俺とよほど気の合うやつじゃないとな」

「それなら私がこうして魚空と楽しくおじゃべりで来てることは奇跡みたいなものだね」

「そうだな。白浜の唯一楽しくおしゃべりできる相手である俺には感謝しろよ」

「皮肉で言った楽しくおしゃべりの部分をそんなに強調されてもねぇ。もうちょっと会話力と理解力を鍛えましょう」

「んなもん分かっててあえて無視したに決まってんだろ。おあいにく様本はよく読むもんでね。そこらへんには自信があるんだよ。それに白浜だって俺との会話つまらないわけではないだろ?」

「ノーコメントで」

「そのコメントしてる時点でほとんど回答してるようなもんだけどな。可愛げのないやつめ」


なんていつもの調子で白浜とだべっていると担任の教師である藤田先生がやってきた。


「今日はお前らが知っての通り始業式が終わったらすぐ解散だからな。ほかに伝える連絡事項はこれといってなし。そんじゃ始業式いくぞー」


◇◇◇◇◇


校長の長い話を聞きようやく始業式も終わった。途中であくびをしている生徒も多く見受けられたしきちんとすべての話を真面目に聞いている生徒はそう多くないと思う。もちろん楓もそのうちの一人だった。始業式も終わり図書室で本でも借りようかなんて考えながら帰り支度をしていた楓に悠馬が話しかけてきた。


「今日は一緒に帰ろうぜ」

「残念なことに俺は今から図書室によるんで他をあたってくれ。それにどうせなら彼女さんと帰ればいいじゃないか」

「それが香織今日は部活があるから一緒にはかえれないんだとよ」

「そいつはご愁傷様」

「まっ、それなら仕方ねえや。俺は一人寂しくかえるとするよ」

「おう、気を付けて帰れよ」


悠馬を見送った後、楓は下駄箱がある方向とは逆にある図書室の方向に向かった。


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