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執念

「我々はついていけない。だからいったん、王都に戻らせてもらう」


完全に<蚊帳の外>って感じで困惑しきりの他の部隊の勇者二人は、そう言って随伴してた魔法使いの転移魔法により、王都へと戻っていった。青菫あおすみれ騎士団のみんなと神妖精しんようせい族の巫女たちも一緒に連れて。


「私は残るわ。仮にも魔法使いだからね」


リデムがそう言いながら私の肩に手を置く。本当は彼女にも戻ってもらいたかったけど、少なくとも騎士団のみんなよりはまだ対処できそうだから、彼女がそれを望むのなら無理にとは言えなかった。


その間も、ドゥケとカッセルは戦っていた。私たちのことなんか眼中にないって感じで。


だから私も、敢えて二人のことは放っておこうと思った。それよりも、バーディナムと魔王の様子が気になる。


ずっと、地響きと言うかもう完全に地面が揺れてるのが分かる。私は経験ないけど、こういうのを<地震>って言うのかなと思った。


改めて見ると、本当に<善神>なんて気がしない。ただの黒い巨大な怪物だとしか思えない。


「私たちはあれに守られてきたっていうの……?」


ほとんど無意識に呟いてしまう。


「そういうことになるんでしょうね……」


リデムも何とも言えない複雑な表情を浮かべながら言った。


「それでも、私たちはずっと、バーディナムの加護を受けて生きてきた。それで上手くいってた。


…と思う。だからたぶん、バーディナムと共に魔王を倒すのが正解なんじゃないかな」


こんな自信なさげなリデムを見るのは初めてだった。いつも悠然と構えた<大人の女性>って感じだったのに。


彼女にとってもまったく予測のつかない事態ってことなんだろうな。


そして私たちは、ただ、ドゥケとカッセルの戦いを見守るしかなかった。


優勢なのは明らかにドゥケだけど、カッセルもまったく引き下がる様子がない。


彼の信念と言うか執念のようなものが見える気がした。


『そこまでしてバーディナムを倒したいの……?』


そうだね。彼にとってはそうなんだろうな。私も、ポメリアとティアンカの命を奪った魔王のことは許せないよ。たとえあなたの言うとおり、すぐに生まれ変われるんだとしても。


「だから、カッセル…私は魔王を倒すよ」


まさか私がそう呟いたからって訳じゃないんだろうけど、突然、カッセルの体から力が失せて地面へと膝をついた。もう、さすがに限界だったんだろうな。


それでも彼は、ドゥケの体にしがみついて立ち上がろうとした。だけど足がガクガクと震えて言うことを聞かないみたいだ。


そして、彼は泣いていた。泣きながら絞り出すように言った。


「僕は…いやだ……あんな怪物の言いなりになって家畜みたいに扱われるのは……!」


……カッセル……



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