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善なる神

今はとにかく魔王と距離を取るしかないということで、みんな、必死に走った。


城砦に攻め込んだ時に倒れた青菫あおすみれ騎士団の団員達は、私の施した<加護>の効果で、一命をとりとめてて、ヒールが使える団員達にある程度回復させてもらってたみたい。


私はようやく下ろしてもらって、でもまだ動けないアリスリスを抱いてみんなの後ろを走る。ドゥケは代わりに、まだ走れるほどは回復してない団員を、一人背負って、一人抱きかかえて走ってた。


魔王の城砦がある渓谷をようやく抜けると、さすがにここまでくればという気分になって、立ち止まって後ろを振り返ってしまう。


すると、これだけ離れたのにそれでも魔王の姿は大きく見えて、誰もが青ざめた顔でそれを見詰めた。


本当にこれからどうなってしまうのか、誰にも分からない。私達の知らない伝説が始まってしまったんだと思った。


私達が呆然と見詰める先で、魔王は渓谷まで破壊し始めてた。崩れ落ちてくる、自分とほとんど変わらない巨大な岩の塊さえものともしない魔王に、背筋が凍る。


だけど、それだけじゃなかった。渓谷の奥、魔王の姿のその向こうに、さらに巨大な影が。


「善神バーディナム!」


「バーディナム様が降臨なされた!」


神妖精しんようせい族の巫女たちが口々にそう叫んでその場に膝をつき、手を組み、頭を垂れた。


「あれが…バーディナム……? あれのどこが<善なる神>だって言うの……?」


それが、私の嘘偽りない印象。


だってそこにいたのは、魔王とほとんど変わらない、禍々しい真っ黒な巨人だったから。


と言うか、似てる…? 魔王に……?


それに気付いた瞬間、私は察してしまった。あまりに恐ろしくておぞましい考えなのに、そうとしか思えない。


『まさか、魔王って、バーディナムの子……?』


その時また、聞き覚えのある声が届いてくる。


「あれが、バーディナムの正体だ。あのおぞましい怪物を、お前たちは神と崇めてたんだ。そして見ろ、あの化け物に跪くこいつらの姿を。それでもお前たちは、あれを<神>と崇めるのか?」


カッセルだった。いつの間にか私たちの背後に立って、忌々し気にそう言った。


「いったい、どういうことなの? 知ってるなら全部教えて、カッセル…!」


問い掛ける私に、彼は告げる。


「どういうことも何も、見た通りだ。魔王はバーディナムの子で、奴は我が子を使って僕たち人間を家畜のように支配し続けてきたんだ。


だがもう、魔王はバーディナムの言いなりにはならない。子はいつか親を凌駕する。今がまさにその時だ。


バーディナムは、大きさこそは立派だが、もはや朽ちかけの老木と同じ。若い魔王の苗床になるのがお似合いだ…!」



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