後戻りは
「神妖精族の巫女の力は、魔族の力を高めることにも役立つ。だから君らは単にそれだけのことだと思ってたかもしれないけど、そうじゃない。巫女の力を精製して魔王に投与することで、抵抗力をつけたんだ。
それを知らない哀れな巫女は、ほら、その通り、無垢なる魔王を慰めるための玩具になっているよ」
「…な……!?」
カッセル……あなたって人は……!!
でも、その前に……
「今の話、本当なの? ドゥケ…?」
私たちと並んでカッセルの話を聞いてたドゥケに尋ねる。
すると彼は、頭を振って答えた。
「俺には、分からない…ただ、俺がポメリアから聞いてた話と違って、上手くいかなかったのは事実だ……
俺は、何か失敗をしてしまったのかと思った。だから、君たちの時には俺の失敗が活かせればと思ったんだ……」
そうだったのか…
「ドゥケ、とかいったかな? 君も本当に愚かな男だね。自分が失敗したのに、シェリスタたちまで無駄死にさせるためにこんなところまで導くとか。
それとも、『自分たちだけこんな目に遭うのは納得いかない。他の連中も同じ目に遭うべきだ』とでも思ったのかな?」
「……」
カッセルの言葉には、ドゥケは何も応えなかった。
「ふん」と鼻を鳴らしつつ、カッセルは私の方に向き直ってさらに続ける。
「でも、君たちはまだ間に合う。魔王と共にバーディナムを倒して、こんな悲劇はもう終わりにするんだ。魔王も結局は、バーディナムに操られてるに過ぎない。奴を倒せば、人間に牙を剥く理由もなくなる。
それとも君たちは、未来永劫、バーディナムの掌の上で踊らされ続けるつもりなのか? 羊のように飼われて、数が増えれば間引かれて、バーディナムに歯向かう可能性のある者は魔王に立ち向かって始末されて、そんな生き方を延々と続けるつもりなのか?」
カッセルの言葉には揺らぐものも感じながらも、私は言った。
「だけど、あなたの言ってることが本当に真実なのか、確かめる方法はない! だったら私は確かな方を選ぶ! 魔王を倒せばとにかくこの戦いは終わるんだ。いずれまた魔王が復活するとしても、少なくともその時までは平和になる。仲間たちの家族や大切な人は守られるんだ!」
それが、この時の私の結論だった。カッセルの言ってることがもし本当だとしても、バーディナムを倒す方法なんて私には分からない。だけど魔王なら倒す方法はある。それで私が命を落としたとしても、みんなが助かるなら……
けれど、カッセルはやっぱり冷たく言ったのだった。
「だからもう、その魔王を倒す手段がなくなったって言ってるんだよ。僕は。後戻りはできないのさ」




