頭がいっぱい
陛下の命を受けて、私たちは魔王討伐の為の準備に入った。今も僅かに残る勇者のいる部隊に対しても念話による招集が掛けられ、一気呵成に決戦を挑むこととなった。
それは、正直、これ以上ばらばらに戦っていて各個撃破されるのを防ぐという意味もあったみたいだ。
でも、私にとってはそれこそ望むところだった。
バーディナムのことについては、とにかく魔王を倒してから考えよう。
と思ってた。この時は。
魔王を倒すということは、私はそこで命を落とす可能性が高いのに、なぜかそのことについては頭が回らなかった。とにかく魔王を倒せば何とかなるという風にしか考えてなかった。
ティアンカは、そんな私の腕を取り、体を寄せてくる。
しかも、
「シェリスタ様、愛してます♡」
って。
それに対しても、特に奇異に感じてなかった。自然と受け入れてた。
『あれ? 何かおかしくないかな?』
という感覚は、どこかに押し流されてしまってた。
それよりも、
「さあ、行くぞ! 魔王を倒して、ドゥケとポメリアを助けるんだ!!」
ってみんなの前で声を上げてた。みんなも、
「お~っ!!」
って私に続いて。
そんな私を、リデムが心配そうに見詰めてたことにも、気付かなかった。
リデムは、ティアンカたちを助け出した時の戦いで無理をしてしまって、実はつい最近まで体を起こすことさえできない状態になってたらしい。
『らしい』というのは、彼女が療養してる間、私たちは面会することさえできなかったからだ。そこまで疲弊した魔法使いの回復はすごく繊細で慎重さが必要だから、余計なことはできないんだって。
それでリデムが私たちと合流したのも、昨日やっとだった。
リデムクラスの魔法使いがそういうものだっていうのも私は知らなかった。
思えば、勇者のことについても私は何も知らなかった。なにしろ最初は、勇者はドゥケ一人だと思ってたくらいだから。
どうしてそういうことが伝わってなかったんだろう。
何故誰もそれを疑問に思わなかったんだろう。
戦いが進む中で他にも勇者がいるということを知って、でもそれに驚くこともなくそういうものだと受け入れて。
考えてみたらおかしなことはいくつもあった筈なのに、私はそれを不思議にも思わなかった。
もしかしたらそれらすべてが、バーディナムの掌の上ってことだったのかもしれない。
人間も魔族も、結局はバーディナムに全てを握られてるってことなのかも。
なのにこの時の私はまた、そういうことすべてに思いが至ることがなかった。
ただ魔王を倒しドゥケとポメリアを助けるんだということだけで頭がいっぱいだったんだ。




