心の準備が
『勇者に、なってもいいよ』
そう言った時、私の頭の中には本当にいろんなことが渦巻いていたと思う。
バーディナムに対する不信感。
こんなとんでもないことを平然とできる神妖精族への嫌悪感。
神妖精族を嫌悪しながらもポメリアへの変わらない気持ち。
魔族を寄せ付けない力への渇望。
ドゥケやポメリアを助けに行きたいという願い。
それらが混然一体となって私の中でどろどろとかき回されていたのが分かる。
そのどれもが私の正直な気持ちで、そのどれをとっても嘘はなかった。
そして、そのすべてに対して何かの答えを出してくれそうなのが、『勇者になる』っていう選択だった。
ティアンカの言葉が本当かどうか自体、自分がまず勇者になってみないと確かめようもないと思うし、
私達が束になっても敵わない、アリスリスの強さを上回れるかもしれないというのは、騎士たるものとしてたまらなく魅力的だし、
勇者になればきっとドゥケとポメリアを助けに行くうえで計り知れない戦力になるはずだから。
魔王と戦えば死ぬかもしれないというのは、騎士を目指した時に『国王陛下と臣民を守って死ねるなら本望』と覚悟したことと矛盾しないから問題ない。
だから私は、勇者になる。
「本当ですか!? 嬉しい!」
やっぱりポメリアとはだいぶ違うティアンカの様子に、私は少し戸惑いながらも、彼女をまっすぐに見詰めた。そう決めたのだから、もうためらわない。
「でも、勇者になるって、具体的にどうするの?」
と問い掛ける私にティアンカは頬を染めて、
「私の魂と、シェリスタ様の魂とを重ねるんです。唇と唇を、肌と肌を触れ合わせて…!」
ええ!? それって……!
「ちょ、待って、じゃあ今すぐってわけにはいかないよ。ソーニャがすぐに戻ってくると思うし」
慌てる私にティアンカは、
「それも問題ありません。結界を張れば済むことです」
とか言いながら服を脱ぎ始めた。
なんなの、これ?
勇者になるとは決めたものの、まさかそんな形の儀式とは思ってなかったから、せっかくの覚悟が揺らぎそうになる。こんな、知り合ったばかりの相手と唇や肌を重ねるだなんて。
と言うか、つまりドゥケやアリスリスも同じようにしたってことだよね? ドゥケはともかく、アリスリスも……!?
女性同士でもそれができるということは、男女の営みとは違うんだろうけど、それにしたって……!
見る間に服を脱いでしまい、一糸まとわぬ姿になったティアンカが、今度は私の服を脱がしにかかる。
待って、待って、心の準備が……!




