必ず
神妖精の巫女を取り戻すことは、魔王を倒すのには絶対に必要なことだった。何故なら、魔王を倒せるのは神妖精の巫女だけだから。勇者はあくまで、その時まで彼女達を守ることが役目だった。命を投げ出してでも。
国王陛下や軍の上層部はそのことを知っていたから、ポメリアとリリナの奪還作戦についてはすぐさま承認が下りた。そうするしかないから。
でもそれは……
「でもこれは、それこそ敵の懐に飛び込むのと同じだ。恐らく生きて帰れる保証はそれこそない。だから今回も、希望者だけを募る。抜けたい者は申し出てくれ。ここで抜けても恥ではない。もし我々が倒れた時には、次を担ってくれる者として生き延びて欲しい!」
ライアーネ様が台の上に立ち、そう告げた。だけど今回は、誰一人辞退しなかった。前回の遊撃隊としての任を与えられた時に、皆、覚悟は決めてたらしかった。
もちろん私も、引き下がるつもりなんて毛頭ない。
しかも、アリスリスまでがそこに加わっていた。本当はこんなことに巻き込みたくなかったけど、彼女の決意の強さは私も感じてる。それを曲げることは無理だって分かる。
「アリスリス…! 必ずリリナとポメリアを助けようね」
私が声を掛けると、彼女は「ふん!」と鼻を鳴らしながら、
「当たり前だ! 私はそのためにここにいるんだ…!」
と、鋼のような意思を溢れさせていた。
なんだか、彼女がたった十一歳でも勇者に選ばれた理由が分かった気がした。この胆力は、歴戦の騎士でもそうそう到達できない境地という気がする。
彼女には青菫騎士団団員用の鎧の中で最も小さいものが支給された。それでもやっぱりぶかぶかだけど、そのぶかぶかな鎧でも覆いきれないほどの力が溢れてるようにも見えた。
それぞれが身支度を済ませ、遺書をしたためてた者も多く、私もその一人だった。私を送り出してくれた母や祖父母に対する感謝と、務めを果たしたことで命を落としたなら何一つ悔やむことはないと伝えるためのものだった。
そしていよいよ、ポメリアとリリナの奪還へと向かう。
整列した団員達は皆、鋼の意志を固めた面持ちをしてた。たぶん私もそうだったんだろうな。
ライアーネ様もキッと眉を引き締めて、
「では、行くぞ!」
不安や恐怖がないと言ったら嘘になる。だけどそれ以上に私は、確かめたいこともあった。カッセルのことだ。彼がどうして人間を裏切ったのか。彼が言っていたことの意味が何なのか、もしかしたらそれも確かめられるかもしれないという想いも、私にはあった。
だけどもちろん、カッセルが私達の前に立ち塞がるなら、容赦をしないという覚悟も持ちつつだけど。




