信じられない光景
「カッセル…どうして……?」
信じられなかった。信じたくなかった。カッセルの行動の意味が腑に落ちなくて、私の頭は酷く混乱する。
「カッセル! 貴様ぁっ!!」
アリスリスは私と違ってすぐに状況を理解したみたいだった。彼が…カッセルが<裏切った>んだって……
「シェリスタ! しっかりしろ!!」
私の手から剣を奪い取って、アリスリスは爆発するみたいに地面を蹴ってカッセルに迫った。だけどカッセルの方も、ポメリアを抱えたままで剣をふるい、アリスリスの突進を受け止める。
これは、どちらも<勇者>だったからなんだろうな。同じ勇者だからこそ、大人と子供の差が出たんだ。
並の人間相手ならまるで勝負にならないほどのアリスリスの強さも、カッセルには通じなかった。子供だから。
片腕で受け止められた上に振り払われて、アリスリスの体が地面に転がる。それに向けてカッセルが冷たい視線を向けるのが分かった。
「や、やめ……!」
私が『やめて!』って叫ぶより早く、アリスリスに向けて切っ先が奔った。
でも、体の小さな彼女を捉えるのは簡単じゃなかったらしい。アリスリスは獣みたいに四つん這いになったまま地面を走って切っ先を躱し、剣を拾って、彼女に襲い掛かってきたスケルトン兵を剥ぎ掃う。
私も、ようやく少し頭が働くようになって、やっぱり襲い掛かってきたスケルトン兵の腕をへし折って剣を奪い、それで他のも迎え討った。だけど、善神バーディナムの祝福も、ポメリアのそれも受けてないただの剣だと、一撃では完全には倒せない。だから動きを止めるためにも上半身と下半身とを切り離すように攻撃する。こうすれば完全には倒せなくても無力化できる。
『カッセル…どうして……!?』
スケルトン兵を迎え討ちながらも、またそんなことを考えてしまう。
分かってる。彼が裏切ったんだってことは分かってる。でも、どうしてなの?
「がああーっ!!」
獣みたいな咆哮を上げながらアリスリスがものすごい勢いでスケルトン兵を倒していく。その最中にもカッセルに挑みかかるけど、それは受けとめられてしまう。だけど、スケルトン兵については片付けられた。
なのに、集落の方からさらにスケルトン兵やゾンビ兵がこちらに向かってくるのが見えた。
「カッセル…!!」
私が声を上げると、彼は冷たく笑いながら言った。
「…僕はね、知ってしまったんだ。バーディナムの<目的>を、善神だなんてとんでもない。やつこそが僕達人間を苦しめる悪神だよ。そして魔王こそが、バーディナムを止めるために立ち上がった救世主なんだ。
シェリスタ。君も早く目を覚ますんだね。でないと君もバーディナムの生贄にされるよ……」
…なにを言ってるの? カッセル……




