ちょっと休憩
「ポメリアは少し休んで。それから移動しよう」
私がそう言うと、彼女は大きな瞳で私を真っ直ぐに見詰めながら「うん」と頷いた。
葉の茂った木の枝を掃い、それを周囲の地面に敷き詰めて獣とかが近付いてきたら物音がするようにして、ポメリアには大きな木に体を預ける形で休んでもらった。私は周囲の音に意識を向けつつ彼女に寄り添う。
それにしても、不思議な子だな……
こんなに幼くてあどけなくて儚げにも見えるのに、こうやって無数の遺体に囲まれた場所でも平然と眠れるとか、並みの神経じゃないと思う。
『まるで、人間とは別の感性を持ってるみたいな……』
なんてことが頭をよぎって、私はそれをブンブンと追い払った。
『何考えてるの…! ポメリアはちゃんとした人間だったよ! お風呂でも見たでしょ! 普通の人間だった…!
ただ、ちょっとこういうことに鈍感なだけじゃないかな……』
そんな風に自分に言い聞かせる。正直、私の方は時間が経って落ち着いてくるほどに遺体に囲まれてるっていう状況に気持ちがざわざわしてきて、気持ちが休まらなかった。
風の音にもビクッと体が反応してしまう。
さっきまで割と平気だったのは、それまでの緊張感から感覚がマヒしてただけだったんだな。
怖い…ホント怖い……
ようやく夜が明けてきて周りが明るくなると、それこそ周囲は凄惨な状態ってのが分かってしまった。
遺体の状態もよく分かるようになって、ホントにみんな綺麗に白骨化してた。亡くなってから結構時間が経ってる気がする。ということは、今回の魔王軍による侵略の割と初期の頃に倒されてしまった部隊かもしれない。
お墓とか作ってあげたいけど少なく見積もっても百人以上いる感じだったから、私とポメリアの二人だけではどうしようもなくて、とにかく西を目指して移動を始めた。生きて帰れたらここのことを伝えて、いつか迎えに来てもらおう。きっと帰りを待ってる家族とかもいると思うし。
王国軍がいたということは、この辺りはまだ本来は我が国の領土だった場所の筈だ。だとすれば西に向かえば何らかの人がいた村や町があるはず。今はもう無人でも、そこまでいけば王都へ繋がる道もある。
だけど、しばらく歩いて遺体のないところまでくると、今度は急に体が重くなってきた。たぶん、ずっと緊張してたせいで精神的に疲れてしまったんだ。
「ごめん…ちょっと休憩……」
ポメリアにそう声を掛けて、私は大きな木の根元に座り込んでしまった。
するとポメリアは近くの下草に手を伸ばして、何かを集め始めた。そしてそれを私に差し出してくる。
「野苺あった…食べて……」
言われて見ると、ホントに彼女の両手いっぱいに野苺があったのだった。




