貴女を殺しに来ました。
「君を殺させて欲しい」
夏も近い爽やかなそんな朝、いやちょっと寝過ぎたのでお昼くらいかな?まぁともかくオフトォンの誘惑に抗いようやく起き始めたそんな時だ、いきなり目の前に執事が着るような燕尾服?を着た中年おじさんが土下座していた。
それはもう素晴らしい土下座だった。
人生で見てきた中でも上位に入るくらいの土下座…いや生まれてから17年、土下座なんてテレビのドラマで視たことがあるかな?ってくらいなのですがね。
ともかくそれはそれは綺麗な土下座でした。
いや待て
あまりに綺麗な土下座と寝起きの頭で呆けてしまったがこの謎の燕尾服おっさんなんて言った?
私を、殺すとか
「どうだろうか?」
土下座姿勢を解除した燕尾服おっさんが地面につけていた顔を上げこちらを見上げる。
おお…
めっちゃイケおじ
しかもあれだ、所謂「ちょいワル系イケおじ」だ。
黒の髪に白髪が少し混じってるが灰色辺りで綺麗に染めていて汚ならしさは感じず、顔は眉間に少し皺がよっているのと若干厳ついが若い頃はさぞかしモテただろう的なオーラが出ている。
目の色が見たことない色をしているな…黄色…いや、なんか色々混じってるぽいけど宝石みたいにキラキラしてみえた。
そして顔は厳ついのに服は燕尾服というアンバランスな装い、だが何故か似合う!!
「?おーい聞こえているかい?」
イケおじをガン見してたら再度声をかけられた。
おおっといけない、見惚れている場合ではなかった。
いまはこの怪しすぎる侵入者をなんとかせねば
「お、おっさん誰ですか!?なんで私の部屋にいるの!?土下座してるの!?不法侵入!!」
「不法侵入は間違いないが落ち着いてくれ!!私は君に危害を加えるつもりはない!ただ君を殺させてほしいだけなんだ!!」
「めっちゃ危害加える気満々じゃないか!!」
聞き間違えじゃなかった!
こいつは私を【殺す】といい放った。
一気に今現在の状況を理解して冷や汗が吹き出す。に、逃げなきゃ…
部屋のドアまで走り、ドアノブに手を掛けた所でおっさんが
「ともかく話を聞いて欲しい!!大事な事なのだ」
と右手でなにか文字のようなものを書く動作をすると
ガチャ…ガチャガチャガチャガチャ…
あ、開かない!?
ドアノブは動くのに扉はびくともしない。どんなマジックだ!?閉じ込められた?嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ冗談じゃない!
「いや、た、たすけて、おかさぁん!!いやあああああああ!!誰か助けて!!殺される!!誰か、誰かぁ…死にたくないよ!!」
扉はいくら叩いても体当たりしてもびくともしない。まるで壁のように固まっていた。なんなのこれ!?意味がわからない、誰か、誰か助けて!!
「頼むから落ち着いて話を聞いて欲しい…イデ、物投げないで…フグブ!?」
こちらに近いてきたおっさんに向かって机に置いてあった物をとにかく手当たり次第投げまくった。その一つのお気に入りの小豚の目覚ましが見事におっさんの顔面に当たった。
扉から出られないとなると後は窓からしかない。
幸いここは2階だし、そこまで高さもないから飛び降りてもケガ位で済む確率が高い。なによりここに残っていたらこいつに確実に殺される!
当たった顔面を痛そうに押さえてる隙に窓まで一気に走り鍵に手をかけると
「開く!」
どうやったのか分からないが扉の時みたいに固まってはいない、チャンスだ。
窓を全開に開けて身体を乗り出す。
下を見ると庭がみえた。いくら低めとはいえそれなりの高さがあるので一瞬身体が後ろに下がりそうになるのを必死で堪えて私はー
「~イッタ、おもいっきり角入っってええ!?ちょ、何してるの!!まって危ない…もう時間が…まさかこれが原因とかにならないよね?まちなさー」
「とぅえい!」
おっさんの制止なんて勿論聞く必要はないので高さへの恐怖を押し込めて私は勢いよく窓から飛び出した。なんか変な掛け声出てしまったなと頭の隅で思っていると後ろから
「…~~ああ、もう!しょうがない!」
苛立ちと困惑が混じった声と共に
パチン
と指を鳴らす音が響いた瞬間
意識が一瞬暗転したと思ったら
私は遥か彼方のどこかの上空でおっさんにお姫様抱っこされていた。