(読み切り版) 戦国乱世にダークドラゴンがやってきた!? - 我がホントの独眼竜なのじゃ!
とある、剣と魔法のファンタジー世界。
一人の勇者と一匹の暗黒龍ダークドラゴンの長く続いた戦いは、遂に終わりを迎えようとしていた。
「グオォォォォォォォォ・・・!! やるな、勇者よ・・・」
「暗黒龍ヴォルテンヴァルンよ! この術さえ発動してしまえば、貴様もこれで終わりだ!」
勇者の持つ聖剣ジークムントが光を放つ。
「いくぞ、必殺! セイントスラッシュ!!」
振り抜かれた聖剣から一閃の閃光が放たれた。
音速を超える速度で迫るソレを暗黒龍は避けることが出来ない。
「グォォ!?」
閃撃は暗黒龍の右目を捉え、その傷口からは鮮血が噴出した。流石の暗黒龍も傷口を抑え、隙を見せた。
「今だ! "永遠の時よ無限の空間よ、彼の者を縛る牢獄と成せ。『無限牢獄』"」
勇者は切り札である術式を展開する。勇者の両手に、無数の魔法陣が浮かび上がった。
「無駄じゃ!我は不滅、殺すことは出来ぬと・・・、なんじゃ、この術は!?」
「これは時空間魔術! 殺すことが出来ない貴様を、無限空間へ飛ばす術だ!」
巨大な転移陣が、暗黒龍の巨大な体を包み込む。魔法陣に完全に捕らえられたが最後、もう逃れる術は無かった。
「おのれェ!! この我がァァァァァァァァァ!!!!!」
暗黒龍の絶叫が響き渡り、巨体が少しずつ消えていく。
そして、遂に暗黒龍・ヴォルテンヴァルンは完全に消失した。
聖剣ジークムントに選ばれた勇者の手によって、300年に渡る暗黒龍の恐怖から、人類は解放された瞬間だった。
◇◇◇
「・・・うっ、眩しい・・・?」
暗黒龍・ヴォルテンはうっすらと眼を開ける。
「森の中・・・? どうなっておる?」
キョロキョロと辺りを見回すが、そこは一面が見覚えのない森の中。勇者の作り出す無限牢獄は、永遠の時間と無限の空間が作り出す、究極に無の領域。そこに取り込まれたが最期、精神が壊れても死ぬことすら許されないはずであった。
だが、目の前に広がる世界は、永遠の世界とは程遠い世界であった。
状況が掴めないままであるが、なんにせよ一先ずは自身の置かれた状況を確認しよう。暗黒龍はそう思い、まずは自身の体を眺めた。
「腕・・・よし、翼・・・よし、尻尾・・・よし、右目は・・・ダメじゃな」
体躯が全体的に縮んだが、暗黒龍の体は魔力体なので膨らんだり縮んだりは魔力の状態によって変わるものなので問題はない。
暗黒龍が居た世界には輪廻転生の概念があった。自身はその概念に乗っ取り生まれ変わったのかとも考えたが、右目の傷がそのままなことから、自分は転生の類ではなく、そのままの体で時空転移したのだろうと推測することにした。
「次は、"闇よ、我が姿を偽と成せ。『人化』"・・・うむ、問題なく発動するのじゃ」
続いて暗黒龍は人の姿になる闇属性の魔法、『人化』を使い、人の姿をとる。人里に紛れたりするのに便利で、高位の魔物なら『鑑定』すら欺ける。魔物界隈では大人気の魔術であり、人類はまさか魔物が人間に化けて紛れ込んでいるとは思いもしないだろう。
「"水よ、我が身を映す鏡と成せ。『水鏡』"」
人の姿を取った暗黒龍は、魔法で作り出した水の鏡に自身の体を写す。漆黒の髪は背中まで伸び、右目は大きな傷で潰れていた。頭部には二本の角が見え、背中には竜鱗で覆われた一対の漆黒の翼、そして太い尻尾。胸部は控えめに膨らんだ・・・見た目は竜人族の少女の姿が写っていた。
「ふむ・・・目は相変わらずだが、問題あるまい。角も翼も尻尾もしまえるようじゃの」
ニュッニュッと各部位を出したり仕舞ったりする。不滅の暗黒龍に性別は存在しない。不滅ゆえに繁殖の必要が無いからだ。故に男の姿になるのも女の姿になるのも抵抗は無いのだが、彼・・・彼女?は女性の姿を取ることが多い。人族ウケがいいのだ。
ちなみに、龍フォルムの時の姿は一般的な西洋龍型である。リザ〇ドンみたいなカンジだ。以前は体長五メートル程の巨大な体躯を誇ったのだが、現在は魔力の消費故かわからないが、1/3くらいのサイズに縮んでしまったようである。
「"元素よ、我が想像を形と成せ。『創造』"」
ついでに服も作る。周囲の状況が読めないので、当たり障りのなさそうな、竜人族の一般的な平民衣装を創造魔法で作製して着込んだ。
非生命体の簡単なものなら魔力を使って合成できるという、創造魔法は便利なものである。
「さて、一通りいいかのう。・・・それにしても、どうしたものか・・・」
ヴォルテンは首を傾げる。それなりに知識はあるつもりだが、周囲に生い茂る草木は見たことが無い。それに、満ち溢れる魔力は穢れを知らない程実に清らかだ。これは本格的に、己の知る世界とは違う世界なのだろう。
「ま、何にしても動かぬことには始まらぬか」
くうっと両腕を挙げて伸びをして翼を出し、いざ飛び立とうとした、その時だった。
「〇◇▽×!?」
「んぁ?」
何か人が叫ぶような声が聞こえてふと振り向くと、そこには大層な着物で着飾り、脚の少ないスネイプニルのような魔物に跨った一人の少年が、ヴォルテンに指を向けながら、なにやら喚いているようだった。
「ふむ、東国の"キモノ"とかいう服に似ておるのぅ。何を言ってるのかはさっぱりわからぬが・・・」
どうやらこちらの言っていることも向こうは理解出来ない様子である。
「・・・ああ、そうじゃった。"言霊よ、意思を交わせ。『言語変換』"」
そういえば世界が違うんじゃった。と思い出し、言語を異なるものに変換する魔法を使う。
「お主! 何者だ! その翼に奇怪な容姿、物の怪の類か!」
と、恐れるような声で言っているではないか。ヴォルテンにはモノノケと呼ばれるモノが何かはわからなかったが、彼が自分を恐れているということは大体理解できた。
「落ち着け、小僧よ。我はただの迷い人じゃ。怪しい者ではない」
「だ、誰が小僧か! 無礼であるぞ! それにその角、その翼、その服! 怪しい点しかないではないか!」
と、少年はとても慌てた様子で声を荒げている。
「成程・・・。この世界には、我が想像するような竜人族は居らんのだな・・・。さて、どうしたものか・・・」
相変わらずぎゃあぎゃあと喚き散らしている少年の言い様を聞く限り、どうやらこの異世界には元居た世界にいたような竜人族は存在していないようであり、竜人族を模したこの姿は異形の姿に映っていたらしい。
どうしたものか・・・。とヴォルテンは悩む。話をしようにも、混乱した少年は話を全く聞いてくれそうにない。このまま下手に出た状態では埒が明かないのぅ・・・。そう思ったヴォルテンは、あれこれ考えるのが面倒になり、いっそ正体を明かしてしまえと結論を出した。
「"闇よ、我が真の姿を示せ。『人化解除』"」
ヴォルテンの体が闇に包まれ、数秒した後に、体長二メートル程の漆黒の灼眼龍が姿を現す。少年はヴォルテンの変化した姿を見て固まってしまっていた。
「我は暗黒龍。貴様ら人間とは異なる存在じゃ。だか貴様らに危害を加えようとも思っておらん。だからまずは話を聞け」
少年をギロっと睨む。少年は青い顔をして魔物の背から転げ落ち、ガタガタと体を震わせている。平和的な会話とはいかないが、人間に対してはやはりこうやって強弱の関係をわからせるのが一番手っ取り早いのだ。
「す、すまなかった・・・。龍神様よ・・・。す、少し落ち着く時間をくれ」
「龍神などではないのだが・・・まぁよい」
少年はスーハーと深呼吸をし、心を落ち着かせたようだ。これでやっとまともに会話が出来るな。ヴォルテンもため息をつく。
「儂は奥州を支配する伊達家の当主・伊達藤次郎政宗という。政宗と呼んでくれ」
少年はマサムネと名乗った。マサムネは話してみれば意外と利口な少年で、ヴォルテンが別の世界から来たことをそれなりに理解し、この世界のことを細かく親身に教えてくれた。
彼が言うには、ここはニホンという世界で、68もの国々に分かれて戦争をしているらしい。今いるのはムツという国で、このマサムネが国王として君臨・統治しているようだ。つまりマサムネはムツ王国の国王ということだな。意外と大物だったので驚きだ。
人類は人族しか存在せず、亜人族や魔族は存在しないらしい。また魔物も存在せず、マサムネが乗っていたスネイプニルのような生き物は『ウマ』という動物らしい。この世界ではウマなどの動物を育てて戦いや生活に役立てる文化があるそうだ。
「ふむ・・・、本当に全く知らない世界に来てしまったのじゃな」
再び姿を人間型に戻し、ヴォルテンはハァーっとため息をついた。服装はマサムネから聞いたこの世界の服装に変えておいた。
「ところで、其方の名はなんというのだ?」
すっかり打ち解けたマサムネは、目をキラキラさせて名前を聞いてきた。何故か懐かれたようだ・・・。
「我の名はヴォルテン。暗黒龍・ヴォルテンヴァルンじゃ」
「ぼ、ぼん・・・ぼぉんてんばるん・・・ ぼんてんまる! 梵天丸というのか!」
「・・・なんか微妙に違う気がするが、まぁよいか・・・。好きに呼ぶがよい」
「儂の幼名と同じ名とはな! それによく見れば右眼までソックリではないか! この出会いは運命だったのだな! よし、梵天丸! どうせいくアテも無いのだろう。儂の元に来るのだ! それがいい!」
「えぇ~・・・」
言われてみれば、マサムネもヴォルテンと同じ隻眼であった。それが運命的なのかどうかはヴォルテンの知ったことではない。
確かに知り合いも行くあても無いのだが、そもそも人間の下に付くなどということは、最強の生物たる暗黒龍のプライドが許せるものでは無かった。
「別に我は今まで通り、勝手気ままに生きていければ良いのだがの・・・」
「でも、その勝手な生き様が原因で封印されたのだろう?」
「うっ・・・、むぅ・・・」
図星である。好き勝手に暴れまわった結果がこの現状であることに間違いはないので、ヴォルテンは何も言い返すことが出来ない。
「何もお主を家来として使おうなどと思っている訳ではない。ただ友としてお主と居たいだけなのだ」
「・・・まぁ、それなら良いかのぅ」
大まかな状況は把握できたとはいえ、まだまだこの世界についてはわからないことが多い。
これまでの常識が通用しない世界では何が起こるかもわからない。ならば少しくらいならマサムネの下で世話になり、異世界生活の準備を整える時間を作ってもいいだろうと考えた。
こう見えて、暗黒龍は慎重なのだ。
・・・孤高の暗黒龍ボッチ龍・ヴォルテンはずっと一人で生きてきたので、実は友人というものに若干憧れていたのは秘密だ。
「ならば、暫くはお主の所に厄介になるとしようか。よろしく頼むぞ、マサムネよ」
「うむ! よろしく、梵天丸!」
こうして、未知の世界・ニホンにやってきた暗黒龍・ヴォル梵テン天ヴァルン丸は、ムツの国の王・マサムネと出会い、暫くは行動を共にすることにしたのであった。
伊達政宗と暗黒龍ダークドラゴン。二人の"独眼竜"の、天下統一へのハチャメチャな物語は、この出会いから始まるのであった・・・。
「・・・続くのじゃ!?」