第二話 描けない天才少女〈中〉
それから、一週間が経った。
まだ、太陽は姿を見せないまま、じめじめした日が続いている。
廊下には、コンクールで大賞を獲った私の絵が飾られていた。
絵の前には、人だかりが出来ている。「すごい」「さすが」そんな言葉が聞こえるたび、耳を塞ぎたくなった。言わないで。褒めないで。そんな絵のどこが良いの。
ぎゅっと拳を握り締め、廊下を立ち去ろうとする。すると、人だかりの中からひときわ大きな声が響いてきた。
「なにこれ、下手」
次の瞬間、廊下に静寂が訪れた。思わず足を止め、振り返って声の主を探す。
「こんなののどこが良いの」
そう言ったのは、見覚えのない男の子だった。
「なに言ってるの!吉野さんの絵はね、とても綺麗だよ!」
私の近くにいた美術部員の子が、私を指差しながらまくし立てる。
「へぇ、あんたが作者なんだ」
男の子が、私を舐め回すように見た後、言い放った。
「俺、あんたの絵、嫌い」
ぽろり、と目から涙がこぼれた。
「あーっ、廣山が女の子泣かせたーっ!」
誰かが、そう叫んだ。
それを皮切りに、廣山君というらしい子に非難の声が飛ぶ。「謝れ」「ひどい」「最低」。それはすべて、私を擁護して廣山君を貶す声。
違う。
その言葉は、声にならなかった。
違う。違うの。
彼は間違っていない。私の絵が下手なのも、嫌われるような絵なのも事実。彼はただ、正しいことを言っただけなのに。
この涙は悲しいんじゃない。
嬉しいの。
私の絵を、本当に見てくれる人がいた。
嫌いだと、そう切り捨ててくれる人がいた。
そうだよ、私の絵は絵じゃない。
彼が正しいの。
だから、嬉しいの。
涙を拭くと、私は廊下から走り去った。