↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ましゅこん~願いを叶えるキノコの娘~  作者: ちょっと様子見
キヌガサタケ~クイーン・シルキー~
PR
9/11

   3

 俺の考えは合っていた。

 やはり、クイーンも自身の願いを叶えるためにこの人間の住まうこの世界までわざわざやって来たのだ。

 そう、この子は言わば俺のライバルと言っても過言ではない。そんなやつに教えてやるほど、俺は甘くないのだ。

「うーん……、知らないなぁ。そんなキノコがこの世界に存在するだなんて……やはりキノコは奥が深いな」

 迫真の演技でそう言ってのける俺を見て、クイーンはあからさまに肩を落とした。

「そう、ですか。こちらの地域に居る人間が採取したと聞いたのですが……」

 それを聞くなり、俺はぎくりとする。〈キノコの娘〉の世界、情報回るの早いですって。

 あからさまに驚いてしまったから、クイーンに感付かれたかもしれないと思ったが、特に気付いた様子もなかった。

「では、また明日探すとしましょう。……では、あなたの家にわたくしを連れて行ってください」

「え、なんで命令口調!?」

「では粉奈さん。逆にお伺いいたしますが、動くことが出来ない女性をこの場に放置なさるおつもりで?」

 そう言われてしまうと、何も言い返す気になれない。

 これが仮病や演技たというのなら、絶対に放置していくだろう。たが、クイーンは座っているのですら辛そうにしているのだ。それも、目が据わっていない。逆に大丈夫か? と声を掛られそうなほどであった。

「お願いします。どうか……」

 本当だったら、叶の居る俺の家に連れて行きたくなんて無い。でも、こんなにも弱っている女の子……それもキヌガサタケの〈キノコの娘〉を置いて行くなんて、愛キノコ家の名が廃る。

 俺はクイーンに背中を向けてしゃがむと、渋々こう言った。

「わかったよ。…………ほらっ」

「……っ! ありがとう、ございます」

 弱々しくも、嬉しそうにそう言うと、俺の首にしがみつくクイーン。彼女の悪臭が漂ってくるが、鼻から呼吸をせずに口から呼吸することで何とか凌ぐことに成功した。


 俺はクイーンの負担にならないように、ゆっくりと歩みを進める。

 ただ、お互いに黙ったまま自宅に帰るのも気が利かないと思ったので、少しだけ話すことにした。

「なあ、クイーン」

「……はい?」

「もし、その願いを叶えるキノコを見つけたとして。何をお願いするんだ?」

 どうせ、茶狐みたいにろくでもないお願いなんだろうと思っていると、なかなか返事が返ってこなかった。

「……クイーン?」

「は、はひっ!?」

 俺がまた声を掛けると、今度は弱々しかったとは? と思わせるほどの元気な声が聞こえてきたのだ。

「わ、わたくしのお願い、…………本当に聞きたいのです?」

「うん」

「わ、笑ったりとか…………しませんか?」

「うん」

 彼女の声が物凄く動揺しているようであった。

 俺は彼女の言葉を待っていたが、それからまた少し間が空いてしまう。

 もうこの話題を変えた方が無難かと思った瞬間、蚊の鳴くような声でクイーンは何かを言った。

「――――です」

「え?」

 俺が聞き返すと、急に首にしがみついていたクイーンの腕に力が入る。

「ニジイロタケに、わたくしの悪臭を消してもらいたいのですっ!」

 クイーンはそう叫ぶが、俺はそれに反応しているどころではなかった。喉に彼女の腕が食い込み、首を絞められている状態にってしまっていたのだ。

「ぐ、ぐるぢい…………」

 俺は必死になってクイーンの腕を掴む。すると、やっとクイーンは俺の首を絞めていたことに気が付き、腕の力を緩めてくれた。

「ご、ごめんなさい」

「い、いやいや。君のお陰で改めて空気が美味しいと実感出来たよ」

 笑ってそう言うと、後ろでくすりと笑う声が漏れた。

「粉奈さんって、なんだか変わった人間ですね」

「そうか? 俺は変わっていることが自分の個性だと思ってるからなぁ。……で、なんでクイーンはその個性を無くそうと?」

「……個性、ですか」

 そうクイーンは言うと、また間を置く。そして、あまり覇気の無い声で喋り出した。

「粉奈さんは、わたくしのこの悪臭も個性だと仰いますか?」

「ああ。俺にとって、それはキヌガサタケの大切な個性の一つだと思ってる」

 そうはっきり答えると、後ろから溜め息が聞こえてきたのだ。

「わたくしは、こんな個性……いらないですわ。あなたがわたくしに気を遣ってくださるのは嬉しい。ですが、だからこそわたくしには許せないのです」

 クイーンの声だけで、その言葉に嫌悪感か含まれているのがよくわかった。

「わたくしは美しいのです! 女王なのです! 完璧でなければならないのです。完璧なわたくしがこんなことで悩んでいるなど、他の〈キノコの娘〉に知られてはならないのです!」

 そう言って、彼女は無い力を振り絞り暴れ始める。

「おい、暴れるなっ!」

「暴れたくもなりますわ! わたくしにとって、唯一の汚点! わたくしにだって、気にすることの一つや二つあるのです! こんなものがわたくしの個性だなんて、わたくしは認められませんわ!」

「わっ! わかった! そんなに暴れるなよっ!!」

 背中で大いに暴れてくれるから、俺は歩けなくなってしまう。たが、クイーンは一向に落ち着こうとしないので、近くのバス停のベンチを借りてそ、そこにクイーンを座らせることにした。

「弱っている女性を容赦なく下ろすとは! なんて酷い方なのでしょうかっ!」

「クイーンが暴れるからいけないんだろう!? 暴れられてたら、 おぶって歩けないのわかるだろうっ! ちょっと、ここで落ち着きなさいっ!」

 俺は、ぎりぎりと威嚇してくるクイーンを宥める。…………なんだか、お母さんみたいだな……俺。

 そんなクイーンを宥める最中、彼女の周りを飛び回るハエが俺にとって唯一の和みになった。

 少し経つと、大暴れしていたクイーンがくたりとベンチに寝そべる。

 多分、暴れたので体力を使い果たしたのだろう。疲れたと言わんばかりの顔で、俺を見てきた。

「…………どうせ、臭いてすよー。どうせ、ウ○コですよー」

 ふてくされたように吐き捨てるその姿は、気品あふれる見た目とは違って子供のようであった。

「逆に聞きたいんたが、なんでそんなに悪臭であることが嫌なんだ?」

 俺はしゃがむと、クイーンの目線に合わせ聞く。

「…………悪臭は、誰だって嫌がりますわ。人間だって、わたくしの……キヌガサタケの悪臭のせいで、なかなか食べてくれないではありませんか」

 クイーンは頬を膨らませ、俺との目線を逸らす。

「確かにそうだが。中国ではキヌガサタケのクレバを落して、粘液を綺麗に洗い流して乾燥させたものを食べるじゃないか。なかなか日本に馴染みがなくても、世界では高級食材として通用してるぞ? 逆に誇らしいじゃないか」

「わたくしは、もっとシイタケやブナシメジのようにお手軽に食べて欲しいのです」

 そう言うと、寝そべりながら顔を伏せてしまうクイーン。

 そんな彼女を見て、俺は溜め息を吐く。そして、自然と言葉を漏らしていた。

「そんなにお手軽に食べられる“竹林の女王”様なんて、俺は嫌だな」

「……そんな、気休めは要りませんわ」

 眉間にシワを寄せ、クイーンは俺を睨み付ける。

「気休めなんかじゃないさ。これでも、そんなキヌガサタケが俺は好きなんだぜ?」

 俺が満面の笑顔でそう言うと、急にクイーンは頬を赤く染めてから目を逸らす。

「ばばば、馬鹿なことを言わないで」

「有名な中華料理店で食べたあのキヌガサタケのスープ……美味かったなぁ。それに、何回か俺自身でも下処理をして食べたことがある。確かに臭いときもあったが、上手く処理できた時の感動、自分で調理して食べたときの感動が今でも忘れられないよ」

 俺は無我夢中になってキヌガサタケの良さを、キヌガサタケの〈キノコの娘〉であるクイーンに話す。

 ……それはお世辞でも無く、本心から出た言葉なのだとわかって欲しかったから。

「それに、その悪臭。それは胞子を虫に運んでもらうための、いわば後(・)生(・)に(・)自(・)分(・)の(・)遺(・)伝(・)子(・)を(・)残(・)す(・)ための知恵じゃないか。それを取り除いてしまったら、君達の進化の過程を否定することになる。…………それに」

「それに?」

 不思議そうに見つめるクイーンの頭をそっと撫でると、俺はこう言った。


「悪臭が無くなったら、もうキヌガサタケじゃない別の物になっちゃうじゃないか。だから、そのままがいい。むしろ、そのままの君でいいんだ」


 それを聞いたクイーンは目をまん丸くして、俺を見つめる。

「クイーン、大丈夫か? 顔が物凄く赤いが……」

 彼女の顔色が、熱があるんじゃないかと思わせるほど真っ赤なのだ。

「べべ、別に! ただ、疲れただけですわ……」

「じゃあ、俺の家に行こうか」

「――――はい」

 俺は背中をクイーンに向けると、彼女は俺の首に手を回す。

 そしてまたゆっくりと歩みを進めると、彼女の寝息が後ろから聞こえてきたのだ。

「……疲れたのかな?」

 俺はクスリと笑うと、クイーンを起こさぬように家路を急いだ。



   ***



「で? なんで茶狐さんを連れて帰ってくるはずだったのに、女(・)王(・)陛(・)下(・)を連れて帰ってくるんですか」

 家に帰ると、玄関先でエプロン姿の叶に遭遇した。

 包丁を片手に持っているので、なおのこと怖い。

「い、いやあ……。なかなか茶狐が見つからなくて。それで、たまたまコムラサキシメジのフェアリーリングから出てきたクイーンと遭遇しましてですね。それで――――」

 かくかくしかじかと話していると、叶は深く溜め息を吐く。

「まあ、もう茶狐さん帰ってきてますけどね。……それに! お昼、食べちゃいましたから! 無双さんのお昼ないですから!」

 叶はそう言うと、ずんずんと足音を立てて部屋の奥へと消えていった。

 俺は昼飯が無いことに悲しさを覚えながらも、クイーンをおぶったまま自室のベッドへと連れて行く。

「なんか俺、女の子をお持ち帰りした悪い男みたいだな」

 クイーンをベッドに寝かせていると、そんなことを思ってしまう。彼女は何も知らず、目鼻立ちの整った顔で可愛らしく寝息を立てていた。

「ゆっくりお休み、クイーン」

 俺はそう言うと、自室を後にする。


 そしてその日中、叶と茶狐に無視され続けたことは一生忘れないだろう。

next;チシオタケとアカチシオタケ~血潮ヘモと血潮アカ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。