シロガネ
全身漆黒の黒鋼と呼ばれる鬼の背中の鎧が開いて、神沢優はその中に吸い込まれるように消えていった。
背中の鎧が閉じられるのと、エレベーター内の兵隊の機銃掃射は同時だった。
安堂光雄は黒鋼の後に護られるような形で弾丸の被害はなかった。
黒鋼の周囲には不思議な球形のバリアのようなものがあって、それが彼を守ってくれたようだ。
次の瞬間、黒鋼は腰から日本刀のような武器を抜いて、兵隊たちを一刀の下に切り倒していた。
居合抜きのような素早さで、気づいた時には、刀は腰の鞘に収まっていた。
「出でよ、銀鋼! 式鬼召喚!」
再び、神沢優の声で呪文の詠唱が聞こえてきた。
今度は白銀の鬼が安堂光雄のそばに現れた。
「早くそれに乗り込んで! 操作方法はオペレーターから案内があるわ」
上官の命令に反射的に従うという日頃の訓練の成果か、ためらう暇もなく、安堂光雄は銀鋼に乗り込んだ。
いわゆるパワードスーツのようなものなのか、彼の身体の動きに合わせて自在に動いた。
彼が乗り込むと同時に【モバイルギア】の画面に黒髪のショートカットの少女が現れた。
「はーい、オペレーターの月読真夜です。よろしくです!」
元気のいい、ハイトーンボイスである。
「いや、よろしく」
あまりにも急な展開で素で答えてしまった。
「えーと、基本的に銀鋼は安堂さんの身体の動きに合わせてスムーズに動きます。機銃掃射ぐらいなら大丈夫ですが、ロケットランチャーとか、ミサイルの直撃は避けて下さい」
それは普通、避ける。
「あと、武装はサムライブレードしかないので、銃撃を躱して、白兵戦で。神沢さんが先導しますので、上手く脱出して下さい。幸運をお祈りします。」
祈られたのは民間企業の面接落ちた時以来のような気がする。
「了解。しかし、こいつらは何者なんだ?」
「ああ、残念ながら、時間切れ! ロケットランチャー来ます! 左に大きく飛んで、回避してください!」
う、確かに赤い光点が急速にこちらに近づいてくる。
黒鋼に抱きかかえられるようにして、銀鋼も跳躍して、何とか直撃を避けた。
が、ロケットランチャーのためにエレベーターは破壊されてしまい、脱出経路のひとつが消滅した。
【モバイルギア】には新たなルートが現れている。階段を使って地上に出るルートだが、当然、敵も待ち伏せしているだろう。
「私が囮になるから、安堂さんは『転移』して」
【モバイルギア】に神沢優の顔が浮かんだ。
「はい、『転移』はこちらからリモートコントロールで行います」
月読真夜が言葉を続けた。
「了解。コントロールはそちらに任せる」
安堂光雄は素直に従った。
「では、安堂さん、『転移モード』に移行します。ショックに備えて下さい」
その言葉が終わって間もなく、銀鋼が淡い光に包まれ、機体が振動と共に鳴動しはじめた。
次の刹那、蛍のような光の微粒子を残して、銀鋼の姿は消滅していた。