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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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俺達の墓場を超えていけ

葛西神楽はダンスのステップで激しくガラスを揺らす。

ブレイクダンスの応用で軽い足取りに、格闘技のような力強さで足を動かす。

さすがにガラスが震える頃に、部屋にルーム管理人という設定を持ったロボットが止めてくる。

岩で作られたゴーレムといった外見で、葛西神楽の体を簡単に持ち上げてしまう。

とても大きな手が特徴で、その手だけでも動くのではないかと思ってしまう。


<危ないですよ!下は溶岩で溶けちゃうんですよ>

「でござるよね…」

「ああ、すいません。彼が急に踊りたいと言ったもので」


苦笑いする葛西神楽とは反対に、仁寅律音は平然と嘘をつく。

もちろん疑われないような優雅な笑顔付きである。

ロボットはレムと名乗り、踊りならWルームがオススメですよと言う。

仁寅律音はそれを聞いて、ではそこへ行こうかと、後ろに控えていた相川聡史達を促す。

降ろしてもらった葛西神楽は、レムに謝ってから仁寅律音達の後をついていく。

仁寅律音達はエレベーターに乗り込んで、WではなくAルームのボタンを押す。

静かな場所でゆっくり話がしたいと仁寅律音が呟く。


「なにか分かったのかよ?」

「むしろなんで分からないの?」


疑問を疑問で返されて相川聡史は苛立ちで仁寅律音を睨む。

その間に鞍馬蓮実が入り、落ち着いて話すんよ、となだめてくる。

エレベーターはすぐにAルームへ辿り着き、魚達が泳ぐ楽園のような部屋が扉の向こうで出迎える。

仁寅律音は部屋に入りながら、魚達が泳ぐ水槽を簡単に叩く。

音も鳴らないくらいの小さな叩き方だが、振動が伝わって少しだけ水が震える。


「今の見て、何か分からない?」

「…水が震えただけじゃねぇか。それがどうしたんだよ」

「…溶岩だって粘性はあるけど水と同じだろう?振動を加えれば何かしら動きがあるはずだよ」


そこで錦山善彦が葛西神楽の方を見る。

つまり仁寅律音はわざと床を震わせて、溶岩が本物かどうか確かめていたのだ。

しかし誰もがガラスが割れないか不安でいたので、溶岩を見ていない。

指示した仁寅律音以外は。




「さっきので確信した。あれは映像」




仁寅律音は溶岩だけでなく、溶岩を川のように形作る岩肌も見ていた。

いくら強く叩いたからと言って子供の力で起こした振動だけで溶岩に大きな動きが見れるとは思っていなかった。

しかし床と隣接している岩肌なら振動で小さな石や欠片が出来ると考えていた。

結果は全く動いていなかった。溶岩も岩肌も、不自然なほどに同じ流れを維持していた。

レムが止めに入る前で確信したので大人しく引き下がった。


「…ねぇ、溶岩の下には何があると思う?」

「はぁ?あるわけねぇだろ。全部溶けちまうじゃねぇか」

「そうだよね…誰もその下に何かあると思わない…でも溶岩が映像なら話は違うよね?」


相川聡史はまた何か言い返そうとして、何も思いつかずに口を閉じる。

本物の溶岩なんて見たことないから、あの溶岩を本物だと信じていた。

でもそれが偽物として何故映像を流すのか。わざわざ部屋まで用意して。

仁寅律音が少し考え込んだ後、思いついたことを口に出す。


「Uルームってアンダー…下って意味の英語だと思ったけど…」

<律音。どうしたんだ?>

「アップ。つまり上もUなんだよね。例えばこのアトラクションがなにかの上に建てられた物だとしたら?」

<しかしエレベーターでかなり下までいくぞ。それこそ地の底まで…あ>





「…まぁ遊園地に相応しくない場所だからね…アトラクションで隠して誤魔化したんだね…墓場を」





仁寅律音が最後に呟いた言葉に、相川聡史達は青い顔をして何も言えなくなる。

特に床の上でダンスをしていた葛西神楽は、足元に墓場があったかもしれないという状況に顔を青くする。

しかし仁寅律音だけが渋い顔で、悩みに眉根を寄せる。


「問題はその下へ行く方法が分からないことなんだよね」

「行く気満々かよ!?」

「だって本当か分からないじゃないか。全部僕の仮説だし」

「ああ…俺は仮説とはいえ墓の上で踊ったのでござるか…」

「何かあったら俺んちの神社に来いよ。友人割引でお祓いしてやるからよ」

「ただじゃないんかい…」


仮説まで辿り着いた仁寅律音は、進行できない状況に苦い顔をする。

するとAルームに新しいエレベーターが訪れた音がする。

扉が開いて入ってきたのはドリルを片手に土で汚れたキッキ。

誰もがその不自然なほど白い肌に驚き、そしてキッキが遊園地のオーナーであることを知る。


「探してはいけないと…ルールで書いたんだけど、逆効果だったかな?」

「そうだろうね。特に僕は好奇心旺盛な少年だから」


笑顔で言うキッキに対して、仁寅律音も飄々とした態度と笑顔で言う。

袋桐麻耶などは両方嘘くさいな、と今の状況に焦りつつもどこか冷静な頭が変な感想をもたらす。

キッキは一回だけ深くため息をついた後、真っ赤な瞳で仁寅律音達を見る。


「このままお仕置きしてもいいけど…仮説が当たってるかどうか確かめてみる?」

「…つまり逃がす気はない、と」

「もちろん。お客様は神様だけど…ルール破るなら僕は神さえ埋める」


緊迫した空気なのだが、相川聡史はふと北エリアにいる絵心太夫のことを思い出す。

何故思い出したかと言われれば、キッキの台詞が絵心太夫が好きそうな類であると思ったからだ。

そして今は思い出している状況じゃないだろう、と自分自身にツッコミを入れる。


「もちろん、今の仮説聞いた君達も同罪かな…で、どうする?」

「…殺すのか、それだけでも聞いときたいね。僕はまだ死にたくなくなったからね」

「殺しはしないよ…ただ、生きてるかどうかは怪しい線だけどね」


葛西神楽達は顔を青ざめて、そして錦山善彦が袋桐麻耶に小声で話しかける。

仁寅律音は平然とした顔で、殺されないなら確かめたいかな、と言う。

相川聡史達も少し悩んだが、あることを思い出して怖々と小さく頷く。

それを見たキッキは笑顔でエレベーターに手招く。

扉が閉まる頃には、Aルームに残った者はいない。

しかし一つだけ、ある物が姿を隠して残っていたことをキッキは知らない。

その物が常に通信を行っており、姿を隠せる動物を真似したロボットということを知らない。





<ああ…神よ、子供達に幸あれ>






非常通話ボタンのその横に、爪楊枝しか通らないような細い穴が空いていた。

その穴にキッキは銀で作った鍵を差し込む。

するとエレベーターは今までと比較にならないほど下へと時間をかけて降りていく。

凛道都子が青い顔で肩を震わせるので、葛西神楽が手を握り、筋金太郎が肩に手を置く。

このまま辿り着かない方が楽なのか、さっさと着いた方が楽なのか分からなくなる頃。

エレベーターの扉が静かに開く。


鍾乳洞のように広くぽっかりと空いた穴の中。

水晶が無造作に土の天井に埋められ、淡い光を発する。

端には墓石を洗うための川が流れており、桶や柄杓も用意されている。

そこまでなら少し変わった墓場だっただろう。

しかし墓石を見て全員が目を丸くする。


墓石は様々な鉱石が使われていて、金銀銅だけでなく宝石の類や中には王冠をお供え物にしている墓もある。


あまりに煌びやかな墓石群にキッキ以外の誰もが開いた口が塞がらなくなる。

墓場と言うより海賊が隠した宝と言う方がまだ説得力があった。

石の形は西洋のような十字架、交差する真ん中の部分には三日月が彫られている。


「というわけで仮説は大正解☆…はぁ、本当に陰鬱な場所だよね」

「こんなに派手な陰鬱ないと思うよ…」


暗そうな顔をするキッキだが、あまりにもその表情と墓場が似合わない。

墓場が、というより地底人独特の文化で作られた墓場、という意味だが。

仁寅律音は仮説自体は正解だったが、墓場の内容にいまいち納得してない。

実は騙されたんじゃないかと思う程である。


「この墓はダニー。いじめっ子でガキ大将だったけど女の子には弱かったね」

「へー」

「こっちはサルト。お転婆で大きくなったらお嫁さんになるって騒いでた」

「ん?この墓石…」

「これはポルコル爺さん。陽気で歌が上手くて穴掘りも上手。孫もたくさんいたよ」

「なんやこの墓石…名前が…」

「会ったことないけどチクガって人の墓。臆病だったけど奥さんのために危険な火山地帯に行って家の材料を集めてきた」


次々と墓の説明をするキッキだが、仁寅律音達は違和感に気付く。

普通石には埋葬された人の名前が刻まれる。しかしどの墓にも名前らしき文字がない。

あるのは三日月のマークだけ。しかしキッキはまるで暗記しているように次々と埋葬された人の名前と人柄を説明していく。

見回せば墓場は存外広く、百は優に超えている。もしかしたら墓場は一つだけではないかもしれない。


「全部…覚えているんか?」

「忘れないためにね。それが地底人の埋葬の仕方…だから陰鬱なんだよね…」

「わけがわからねぇ…」

「だって忘れてたらどうしようって……心配になるけど、考えればもう心配しなくていいのか…」


キッキは言いながら何かに気付いたのか、一人納得したように頷く。


「もう動いている地底人は僕一人だし…忘れても忘れなくても…教える相手はもういないんだ」

「…やっぱり。君だけだったんだ」

「うん。どうせお仕置きが待っている君達に何教えてもいいか…そう、動いている地底人は僕一人だけ」


キッキは近くにあった墓石に寄りかかりながら、水晶が埋め込まれた天井を見上げる。

仁寅律音は動いている、という単語が引っかかったが続きを聞くことにした。




地底人はかつて地上に住んでいた人間の一族だった。

それこそ今の文明よりもずっと前にいた、とても古い一族。

ある日、一族は太陽を恐れて地下へと逃げた。なぜなら太陽によって肌が焼け爛れていくのだ。

なぜ急にそうなったのかは分からないが、一族は知り合いのある国の王族の力を借りながら地下へと進んだ。

掘って進んで広げて…そして地底世界を作り上げた。

それ以降は太陽が沈まない限り外には出れず、一族は滅びると思った。

しかし知り合いの王族の力や、その王族が作り上げた文明の力を借りて一族は生きる術を見つけた。

機械技術や地層や地震のメカニズムなどを学び、発展させていく。

王族の文明が滅ぶ前は恩返しとして、とても長い洞窟を作り上げた。

意図は知らないが、とても必要だと言われた地の底まで続くかもしれない洞窟を。

そして地上のある文明が滅びた後も、一族は人種と呼べるまで増えて、地底世界で細々と生きてきた。

つい最近までは…まだ地底人はたくさんいた。




「でも新しい文明は目先の技術に目を奪われて…それがどれだけ危険か知らずに地面に撒いた」

「…なにを?」

「君達もよく知っているものさ。それこそ巷にありふれた物質…農薬だよ」




地上では虫を殺すため、野菜の見た目を良くするために撒いてきた。

時には枯葉剤、殺虫剤、なにかの命を奪う薬剤を使っていた。

地面に撒いた後はそれだけで終わるが、地中に染み込んだ薬剤はいずれ地下水に溶けたり、土に残ったままになる。

地底人がいるとは知らない地上は、命を奪う薬剤が大量に染み込み、地底世界に届くことを知らない。

気付いた時には数は半分以下に減り、子供も産めない体が多く…生まれても奇形児などで呼吸できない赤ん坊もいた。

増えない以上は減っていく。キッキが生まれる頃には一族は百をきっていた。

そしてキッキ以降に生まれた赤ん坊は皆死んでいったので、キッキが最後の地底人の子供になった。

なんとか薬剤を地面や地下水から除去、無効化できる技術が開発されたころにはさらに半分が死んでいた。

中には地上に出て、太陽を直に浴びて焼け爛れて死んでいく者もいた。

長く地中で住んでいた一族は、その環境に適応した体に変化していた。

色素の必要がないため全体的に色が薄くなり、それがことさら太陽の下に出れない体になっていた。


「僕は永遠にここで生きていくしかない…でもそれでもいい環境を作ることにした」

「それが遊園地なんよ?」

「そう…そして来てくれた皆にはこの地底世界に永遠に住んでもらうんだ!そしたら僕は…もう一人じゃない」

「で、でも私達にも生活が…」

「辛いことが多い地上の方がいいの?」


キッキの視線に凛道都子は目を逸らしてしまう。

確かに地上は辛いことが多い。正直逃げ出したい時だってある。

本音を言えば15までに結婚する人を見つけなければ、顔も知らない人と結婚させるような実家は苦手だと思っている。

だからって急に地底世界で永遠に住むなんて納得できないと、凛道都子はそう思っている。


「もちろん腕時計をしてくれれば帰って貰っても構わないよ?」

「制限つきだろう。しかも外したら…原因不明の昏倒」

「あれは仮死状態にしてるだけだよ。そういう植物がこの地底だけに生えている…解毒剤ももちろんあるよ」

「渡す気は?」

「ないね。だってここにいれば何も問題ないから」


キッキとの会話をして仁寅律音は溜息をつく。

そして、もういい、と言って会話を打ち切る。


「いいの?そしたらお仕置きだけど☆」

「どうぞお好きに。君が何を企み、何を思い、何を行動原理にしていても…僕達には変わらないモノが一つあるんでね」

「…それって何?」

「いずれ君も会うよ。このまま君が自分のためだけに行動して、僕達を消していけば…必ず出会う」


仁寅律音の言葉に葛西神楽や相川聡史達が力強く頷く。

手は震えているが、視線は真っ直ぐとキッキを見据えている。

いやむしろその向こう側、未来を見据えているような目だった。

その視線の先に気配を感じたキッキは思わず後ろを向くが、なにもいない。

今はまだ、いない。


「僕の運命を変えた大馬鹿は…きっとこの馬鹿な世界の運命も変えてしまうよ」


命を助けた直後に殴り合いの喧嘩まで発展させる大馬鹿。

その姿を思い出して、仁寅律音は小さく笑う。

今頃は学校行事で幼馴染の少女に、馬鹿と言われているであろう大馬鹿。。

変なところで間違わないアレなら、なんとかしてしまうのだろう。

呑気に笑いながら、たまに真剣に怒ったり考えたりしながら。


「…最後に一つだけ」

「まだあるのかい?そろそろお仕置きしたいんだけど…」

「本当にこれで最後……皆を巻き込んでごめんね。あとはよろしく」


言い終わり、仁寅律音は両手を上げて降参のポーズをとる。

キッキはいまいち釈然としないものの、早く口を塞がないといけないと思い、アンドールを回収して仁寅律音達も眠らせる。

そして歌いながら、今回は人数が多いからどんなお仕置きにしようかなと考える。

実は子供の数とアンドールの数が合っていないこと、袋桐麻耶のデバイスが通信状態だったことを知らないまま。
























「よろしくじゃ…ないよ」


袋桐麻耶のアンドールはカメレオンのカメルン。

姿を周囲の景色に溶け込ませ、隠れたまま瀬戸海里がいる場所を探したのだ。

そして録音していた音声データを、瀬戸海里のデバイスに送った。

カメルンだけ来たことに瀬戸海里は驚きつつ、音声データを宿泊施設の中で聞いた。

誰にも聞かれないように、個室のベットの上で。

クッションで顔を隠し、唇をかみしめる。

それでも嗚咽が漏れてしまい、涙はシーツやクッションの布地に吸い込まれる。

折角増えたのに、状況はさらに最悪な形へと変貌した。


瀬戸海里一人、遊園地に残されてしまったのだ。


<…ルールを破りしは消すのみ…酷いものじゃ>

<ああ、神よ…どうか…どうか…麻耶を生かしてください…子供達を…生かして…>


アンドール達もいるが、今となってはあまり意味がない。

一人になった恐怖で、瀬戸海里は一日中ベットで泣いたまま出なかった。

遊園地の天井スクリーンは青空のみで、時間間隔を鈍らせる。

だから瀬戸海里は気付かない。外では時間がどれだけ過ぎているかを。









地上では夜と朝が交互にやってきて、時間経過を見せつける。

御堂霧乃は帰ってこない子供達のことを考え、そして思考する。

どうすればいいか、どうすれば帰ってくるのか、どうすれば…

そしてらしくないなぁ、と自嘲する。

前はクラリスのことで、いかに相手を困らせるかで策謀した。

なのに今は逆の立場で策謀を巡らせる。


「正義の味方は辛いぜ………しょーがない、今度はあいつらか」


そう言ってパソコンのテレビ電話の項目をクリックする。

繋ぐは北エリアの番号、それも今は親子と家主が住んでいるであろう個人宅に。

そこに繋ぐのが一番手っ取り早いと知っているため、かけるのである。


なにせそこには二人の天才と、開花していない天才候補がいるのだから。






ルール3.アルファベットルームのDルームは探さないこと


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