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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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夢の終わり

心臓の音と脈を確かめた。一切の反応が返ってこない。

レムが太い指先を器用に動かして瞳孔の確認もする。

しかし確かにキッキ兄は死んでいた。そう、判断するしかなかった。












キッキが泣いて兄の遺体に縋る。

最後に残ったたった一人の肉親、ずっと守り続けてきた命。

それがこんな事件で失われてしまった。誰も声をかけられない。

崋山優香が口元を押さえて涙を零すので、竜宮健斗が肩を貸す。

誰も声を発せない状況の中、クローバー代理人の画面から少年か老人かわからない声が響く。


『あと十秒』


なんの話だと、空気読めと誰もが思ったその直後。

いきなりキッキ兄の体が痙攣したようにバウンドした。

まるで心臓マッサージやAEDを使って心臓に電気を送り、息を吹き返した患者のような。

一回バウンドした胸元が動いて、口から吸いこむ呼吸音が聞こえた直後に咽る咳。

上体が勢いよく跳ね上がり、死後硬直で固まっていた体が痛むのかいててててという声も聞こえる。


「げほっ、はっ、ごほったたたたたた!!咳が、咳が響く!!」

「…兄さん?」


咽て体の痛みに悲鳴を上げて体を動かしているのは、死んでいると判断したキッキ兄。

要は死体が急に動き出したことになる。皆川万結がいきなり泣き始める。


「ぞ、ぞんびだぁあああああああああああああうわあああああああああああああああああ!!!」


その声がパニックを呼び、何人かキッキ兄が寝ていた棺桶からダッシュで離れる。

特に長く離れたのが相川聡史で、相当怖かったのか豆粒くらいの大きさしか見えない所まで全力疾走している。

凜道都子は改造モデルガンを両手に、銃口をキッキ兄に向けるが袋桐麻耶が生き返っただけだろ、とモデルガンを没収する。

瀬戸海里と鞍馬蓮実はとりあえず皆川万結を慰め、泣き止むようあやす。


「…え?ゾンビって…え?あれ?死んでたよね…僕…そうだ確かに死んでたはずで…」

「兄さん…」

「確か金色の髪の少女と…そうだキッキ!怪我は?どこか痛いところないか?」


死んでたはずの自分を放置して、弟の心配をし始めるキッキ兄。

それは昔キッキを世話していた頃の兄と変わらない姿と態度だった。

変わったのは地底世界の様子と成長した兄弟の体、そして身の回りの状況だ。

キッキは赤い目に涙を大きく溜めたと思ったら、すぐに零していく。

熱くて大粒の涙が頬を伝って地面に落ちていく。









「にいさ…トットにいいいさぁああああああああああん!!!!」






大声で泣いて起き上がった兄、トットの体に抱きつくキッキ。

感動の兄弟の抱擁の横で竜宮健斗が納得したように手に太鼓判を押すようなジェスチャーをする。


「キッキの兄だからトットか!!そういえば名前聞いてなかった」

<…健斗、今その話はいいんだ…俺も思ったけど>

「そうよ、ケン。あとでツッコみましょう、あ・と・で!今は黙ってなさい」


セイロンと崋山優香に諭され、竜宮健斗はそれ以上喋ることはなかった。

しかし誰もが地底人のネーミングセンスを疑わずにはいられなかったのは言うまでもない。






生き返ったものの、毒で弱り眠り続けた体は衰弱していた。

すぐに棺桶の中に横にしたが、トットは眠りたくないと苦笑する。

キッキよりも白い顔で壊れた遊園地を寝た体勢から見える範囲で眺める。


「すごいなぁ。昔はもっと薄暗くて、宝石を飾って楽しんでいた地底がこんな賑やかに…」

「なぁなぁ!昔の地底ってどういうのだったんだ?」

「ちょっと、ケン!病み上がりの方に失礼でしょう!?」

<病み上がりというより病み中なんだがな…>


目を輝かせてトットに笑顔で聞く竜宮健斗。

それをセイロンと崋山優香は止めるが、トットは楽しそうに良いよと笑う。

地底の昔話に興味を持った他の子供達も何人か集まる。

皆川万結も瀬戸海里の手を引っ張って聞きたいとねだる。


トットは懐かしそうに目を細めて話す。

昔は鼻唄を歌いながら地底世界を広げていた地底人。

鼻唄は音程だけのものもあれば、才能ある者なら歌詞もつけていた。

視力が良くない地底人は聴力が代わりに性能が良くなる。

掘っていくスコップをリズムにして、微かに流れる地下水をバックミュージックに。

珍しい鉱石が見つかれば皆で祝い、危なくなったら声を掛け合って協力して生き延びた。

自由気侭に掘って進んで、楽しんで笑って、恋をして家族を作って、人間と変わらない営みを繰り返した。

太陽や青空知らなくても、住めば都、我が都は地底世界、地上よりも遥かに広く深い世界。


「なんで?地上の方が広いじゃん?」

「君達は海には住めないだろう?でも僕らは海底の地中にも住めるんだよ」

「あ、ああ!!そうか!!地底人すげぇえええ!!」


竜宮健斗はずっと地面の上だけが世界だと思っていた。

しかし海中のその下の地面、深海よりも深い場所の世界。

視界が広がるような昂揚感と期待に体を震わせたかと思うと、手足をばたつかせる。


「すっげー、すっげー!!世界の中心にもいけるんじゃないか!?」

「昔試した人いるけど、あまりにも高温や重力の関係で断念したんだって。でももっと科学が進めば…」

「それならあれできるな!叫ぶやつ!!昔流行した叫ぶやつ!」


些か古い話だと相川聡史が心の中でツッコみ、皆川万結は元ネタを知らないので首を傾げる。

崋山優香が騒ぎすぎと注意を入れて、セイロンは頭の上に乗っかり病人の前だぞと注意を上乗せする。

しかしトットはなにを世界の中心で叫びたいのさと笑って、少々咳き込む。

鞍馬蓮実が上体を起こすのを手伝い、瀬戸海里が背中を擦る。


「大丈夫か!?」

「げほっ、うん…起きている内に、生きている内に…精一杯楽しみたいんだ」

「…トット?」

「短くてもいいんだ…僕は、太く生きたい…」


そう言いながらも息を詰まらせたかと思うと大きな咳をする。

電車の様子を確認していたキッキが走って駆け寄る。

簡単な片づけをしていた籠鳥那岐達や、帰る支度を進めていた仁寅律音達は振り向く。

マスター達と継続通信をしていた玄武明良達も作業の手を止めて振り返る。


「兄さん、やっぱり寝ようよ!そうすれば、そうすれば…」

「…次、起きれる保証なんてないんだ。もう一度生き返る奇跡も…たった一度のチャンスなんだ…」


布動俊介はその言葉を実感していた。

深い眠りから目覚めた後は、もう一度眠るのが怖くなる。

眠っていた時間が長いほど、その不安は大きくなることも知っている。

もし起きれなかったら、冗談ではない永遠の眠りになってしまう。

アニマルデータがあっても、コールドスリープのように眠らせる花があっても。

永遠を生きる保証はどこにもない。生き返る保証も、どこにもない。

奇跡なんか何度も起きない。死ぬ時はどんな人間でも、姿でも、死んでしまう。

呆気なかったり、執念深かったり、しこりを残したり…望んだ死に方なんてできない。


「太陽のような少女がくれた…彼女がくれた、たった一回の奇跡なんだ…」

<太陽のような…少女?>

「うん、夢かもしれないけど…僕を生き返らせてくれた、名前は聞き取れなかったけど…金髪の美しい…子だったはず」


トットの言葉にセイロンはたった一人の姿しか浮かばなかった。

大人になれなかった美しい少女、愛おしくて二度と会えない王女。

民全てを救おうとして、現代の子供を犠牲にしようとして、友達を救おうとして、奮闘した。

そしてアニマルデータでありながら死んでしまった、人形の姿で死んでしまった。

セイロンが愛している少女、その存在がトットを生き返らせたと言う。

もし人間の体であったら静かに涙を流したかもしれない。

しかし今は青い西洋竜の姿したロボット、アンドールの体であるため涙は出てこない。

代わりに言葉が自然と零れ落ちてくる。


<そうか…まるで偶然のような奇跡を…彼女は起こしてくれたのか>


本当かどうか定かではない話で、信じるには信憑性の薄い話である。

それでもセイロンは信じた。愛おしい少女の顔を思い出しながら。

記憶の中の少女は笑っている。セイロン、と楽しそうに名前を呼んでくれる。

幸福を思い出せることにセイロンはまだ生きていられることに感謝した。

セイロンの様子に気付いた竜宮健斗は、少し大人びた顔で呟く。


「精一杯、生きた後にお礼しにいこうぜ」

<ふっ…そうだな>


また会える、会えるけどそれは生きている内ではない。

死んでしまった者達の分も生きた後に始まる旅路で会えるという意味を含ませる。

もちろんそれにも保証はない。もしかしたら死後は本当に無かもしれない。

それでも遠くに離れながらも強い繋がりを感じて、再会を信じていく。


「…おい、なんか方法はないのか?」

『全部救えた後なのに我儘ボーイか?』


トットの様子を見て玄武明良は尋ねるが、マスターから小馬鹿にしたような言葉を投げかけられる。

今すぐ通信切ってやろうかという激情を押さえて、教えてくれませんかね、と震えた棒読みの言葉を出す。

肩も震えているのでかなり我慢しているんだろうと猪山早紀は長年の付き合いで知っていた。


『…人外の血をベースに特効薬作れるが…人間のままでいられる保証はない』

「違法薬とか言うレベルじゃない危険性の高さじゃありませんか!?」

『それぐらい厄介な病なんだよ、地底人のは…前にキッキに頼まれて研究したけど…普通の薬作るとしたら、あと十年は必要だ』


冷静に告げるマスターの声に玄武明良や扇動美鈴は渋い顔をする。

まず天才と言われていても全員が分野違いの天才であり、一応知識は持っているが専門家ではない。

扇動岐路やマスターも医学の知識は膨大だが、地底人の体ということもあって時間がかかるようである。

玄武明良は全く医学には興味がなく、扇動美鈴も簡単な止血くらいの知識しか持ってない。

するとマスターの通信の背後から青頭千里の声がする。


『十年かかる研究…なら、クローバー博士が知っているんじゃないかな?』

『そうだな…おい、出し惜しみすんな。おそらくだがそこの扇動美鈴以外はお前の正体に気付ているぞ』

「え?僕以外は…って、明良さんや父さんも!?」

「むしろなんでお前は気付かな…いや、気付かなくていい」

『そ、そうだね。人生知らないことがあってもいいんだよ美鈴』


玄武明良と扇動岐路の曖昧な態度に扇動美鈴は頭を抱える。

今までの会話を思い出すが何か重要なヒントがあっただろうか。

というか研究者なのに知らなくていいことがあっていいはずがないと思うんだけど、と扇動美鈴は珍しくツッコミを思いつく。

そうやって思考が横にずれていき、扇動美鈴はクローバーの正体に気付かない。







『…調合がちょっと難しいレシピしか教えられないけど、どうぞ』






画面に表示された材料名と量、手順に玄武明良は一瞬理解が遅れる。

いくら難しいと言っても限度がある。最新器具や新発見された高価な素材がないと作れない内容。

さらに言えば成功率もあまり高くない。副作用の心配も多い。

それほど突飛で難易度高い薬の調合書が提示された。

玄武明良がクローバーの画面を睨むが、平然とした代理人の淡々とした声が響く。


『最大の譲歩です。こちらの事情を理解されているなら…おわかりでしょう』

「…何を企んでる?」

『今は関係ないことです』


そう言われてしまえば誰も追及することができない。

扇動岐路は調合書を眺めて、さすがに無理と首を静かに横に振っている。

玄武明良と扇動美鈴も専門外すぎて手が出せない。

残った望みはマスターのみとなる、もし駄目なら間に合うかどうかわかったものではない。

マスターの画面に視線が集まると、鼻で笑う声がスピーカーから流れた。


『これくらい楽勝。金も人外が惜しみなく出してくれるだろうから…今すぐ作ってやるよ』

『…え?お金は僕持ち!?…仕方ないなぁ。キッキくんに貸し一つと伝えておいて』


敵にまわったら厄介だが、味方であるならここまで心強いことはないだろう。

そう思わせる自信満々な言葉に玄武明良は小さく一息つく。

案じるのは敵に回った時の恐ろしさ。しかし今は素直に頼ることにする。

椅子から立ち上がる音と白衣を翻した時に生じる音が聞こえたと思うと、遠ざかる足音。

通信切るよ、と青頭千里の声ど同時に画面にLINKOFFと表示される。

楽勝と言いつつも通信できる作業内容ではなかったということを玄武明良は察した。





フローゼは何度も良かったと自分に言い聞かせる。

生き返って良かった、目覚めて良かった、動き出して良かった。

送ったデータが片っ端から消えていく感覚、忘れられない死の実感。

やはり自分のCPUでは駄目だったのではないかと、目の前の奇跡に感謝する。

感謝しながら自己嫌悪に陥る。ロボットの残骸で継ぎ接ぎされた自分の体の醜さにも嫌気がさす。

そうして地面に向かって顔を俯かせているフローゼに、帽子屋が近づく。

相変わらず紅茶を飲もうとして盛大に零して地面に染みを作っていく。


<アンドールが駄目な理由…聞きました?>

<…彼らは脳の一部を借りるほど、データ容量が多いためにトットさんのデータを受け止めきれないと…>

<ええ、そうです。でもね…私はそれだけじゃないと思いますよ>


一体このトチ狂った思考を持つロボットは何が言いたいのだろうと、フローゼは顔を上げる。

帽子屋は空になったティーカップの取っ手に指をかけ、器用に回す。

下手したら彼方に飛んで行って割れる危険性が高い行動だが、今のところ飛んでいく様子はない。

回しながら世間話をするように言う。本当に何の重みもない、気軽な機械音声。


<貴方がキッキさんの家族だからですよ。キッキさんを納得させるには…貴方しかいなかったんですよ>


そう言って取っ手から指を離し、空中で回転させたかと思うと器用に皿の上に着地させる。

大道芸のような仕草に会話は聞いてなかったが、何だろうと見ていた子供数人が拍手を送る。

帽子屋は優雅にお辞儀をし、そして新しい紅茶をティーカップに注ぐ。

その横でフローゼは歪な形の両手で顔面を隠す。人間でいう泣く動作と同じ姿。

ロボットだから涙は出ない、表情だってコンピュータ制御で自由にできる。

それでもフローゼは肩を小刻みに震わせて、小さく機械音声で言葉を紡ぐ。


<…本当に、良かった…>


その言葉を呟く際、自己嫌悪などしなかった。

醜さに嫌気がさすこともなく、全てに感謝した。

この遊園地で起こった全ての偶然と奇跡に感謝したのだった。

帽子屋は黙って聞いていた。代わりに紅茶を零しまくって地面に新しい染みを盛大に作っていた。



キッキは壊れた遊園地を電車の点検しながら眺めた。

歪んだルールで縛り、青い血の悪意に晒され、出口すらなかった遊園地。

きっと一人じゃなにもできなかった。一人じゃなに一つ救えなかった。

兄がもう一度目覚めて会話することも、地上の友人ができることもなかった。

全部救うなんて無謀なこと、きっと叶えられなかった。


玄武明良からマスター達による新薬で兄の病状を軽減させることを知らされた。

完治させるのは難しいけど、平均寿命までは生きていける、一緒に生活できるほど回復できるらしい。

もちろん薬は高価で成合が難しいので、当分は青頭千里との商談が難しくなるだろう。

遊園地も直していかなくてはいけない、それは一人だけでは多大な時間がかかるから専門の業者が必要になる。

今までのように無料での運営はできないだろう、少しずつ地上のルールに従わなくてはいけない。

しかしキッキはある大きな決心と共に、遊園地の歪みを直していこうと考えていた。

自分勝手で孤独な遊園地を止めて、今度は遊びに来るお客様と大勢の地上の人間達のために。


<オーナー!電車どこにも異常はないですぜぃ!!>

「…うん、じゃあ…臨時出口駅、只今から三十分後に発車予定だよ!!」


夢がいつか終わるように、遊び倒したら出口へ向かうように。

竜宮健斗達が地上へ帰る時間がやっと訪れようとしていた。


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