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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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30/36

矮小で凶悪で底辺で厄介

機械音が聞こえる、と布動俊介は長い間閉じていた瞼を開ける。

体のいたる箇所が動かなかった反動を訴えるように悲鳴を上げる。

それでも布動俊介は痛みを堪えて右手を眼前に持ってくる。

まだ小さくてなにも守れないような子供である自分の手。

大切な物を掴むには十分な大きさの手がそこにはあった。


「…生きてる?」


そう呟いて布動俊介は静かに涙を零す。

起きた今だからわかる、静寂すらも感じない眠りの恐怖。

眠ったまま目覚めなかった可能性に体が震えて涙が止まらなくなる。

カブトムシのアンドールであるビータが、ユーザーである布動俊介の枕元に近寄る。

そして何も言わないまま涙が止まるのを待つ。かつて消失文明で未来へ行くために永い眠りについたビータは気持ちがわかる。

目覚めるかどうかは起きるまでわからない。永すぎる眠りから目覚めてもビータは記憶すら曖昧だった。

クロスシンクロして布動俊介の脳の一部を借りてやっと一個人を取り戻せた。

だからこそわかる。もし目覚めなかったと感じる恐怖を。深く理解していた。


「あ!俊介が目覚めたぞ!!有栖!」

「うっさいわね、聞こえてるわよ!葉月の声大きすぎ」

「はっはっは!これで全員目覚めたな!」

「後は田中さん?だっけ…車の手配が終われば駅へ向かおう」


賑やかな声に誘われるように布動俊介は上体を起こす。

そこには有川有栖と基山葉月、そして伊藤一哉と伊藤双葉。

そして布動俊介が寝ていたベットの横に伊藤三月が立っている。

伊藤三月は目覚めた布動俊介にいつもの泣き顔ではなく、柔らかい微笑みを向ける。


「おはよう。早速だけど健斗さん達を助けに行こう」


伊藤三月の言葉に無言で頷き、目元を荒々しく拭って布動俊介はベットから降りる。

地底遊園地、最初は楽しんでいたけどとても怖い場所。知っている限りではそこに籠鳥那岐と錦山善彦が残っている。

そして竜宮健斗の名前が出てきたことから、多くの知り合いが地底遊園地にいることが読み取れる。

時計台に向かった時は何が起こっているか分からなかった。ただ知り合いの後ろ姿を追いかけただけだった。

だが今回は恐ろしい地底人の正体を知った。深い眠りを味わってしまった。


「詳しい話は田中さんがしてくれると思う。でも一つだけ…今ね、地底人は味方なんだって」

「…え?」

「それよりも怖い人が遊園地で暴れてるって…田中さんも早紀さんから聞いただけで確信はないらしいけど」


伊藤三月の簡単な説明に布動俊介は目を丸くする。

てっきり地底人が竜宮健斗達に酷い目を合わせてまた体乗っ取りとか企んでいると思っていたのだ。

しかしそれが覆されている状況で、さらに恐ろしいと思っていた地底人よりも恐ろしい存在の浮上。

一体どれだけ事態が進行して転換を繰り返しているかわからないことになっている。


「でもやることは変わらないと思う…ぐすっ、健斗さんが戦ってるなら私達も戦うだけ」

「そーよ!ここで女子力見せればあの健斗さんも私の魅力にころりと…」

「女子力は物理じゃないぞっご、べぇ、らぁ、っ!!」

「葉月―!?」

「す、すごい跳び蹴りからの連携技。もう笑うしかない美技!!」


執事の田中が病室に戻る頃、騒いでいた六人はしっかり看護婦に怒られていた。








ジョージ・ブルースは愕然としていた。

なぜか伝えてもいない緊急スイッチが押され、龍のロボットが動きを止めてしまった。

これでは赤い血の子供達を踏み潰す光景を眺める楽しみがなくなってしまうと慌てる。

即座に音声指示でAliceに意思を伝えるためのパソコンを起動させ、通信を展開する。


瞬間、パソコンがエラー音を何度も鳴らし始め一つの音楽を作り上げる。


クラシックの第九という曲のようなメロディを作り上げるエラー音。

一体なんの悪ふざけかとジョージ・ブルースは椅子から立ち上がりパソコンに近寄る。

画面はエラーを警告するウィンドウがいくつも開かれ、そこにはファイアーウォール破壊なども報告されている。

パソコンは度重なるエラーに動作を重くしていき、最終的には黒い画面だけがそこに残る。


『…つーわけでよぉ、エラー音という楽器による演奏会は楽しめたか人外の二番』


ニヤリと笑う顔が浮かぶような声に、ジョージ・ブルースは下唇を噛む。

ジョージ・ブルースは人外ではあるが天才でもないし、パソコンも少しだけグレードの高い一般品。

もちろん一流企業並みのセキュリティやファイアーウォールを仕込んでいたが、この天才には意味がない。

そして同じような天才が他に四人存在し、五人共闘でジョージ・ブルースの手段を奪いに来た。

Aliceへの性質変更介入、連絡通信、ロボット達への指示、ANDOLL*ACTTIONの放送。

パソコン一つを奪われただけでジョージ・ブルースは何もできなくなる。

遠隔操作のメリットは安全性と正体の隠匿。デメリットは操作権限を奪取されること。

だからこそ天才達はここぞとばかりにジョージ・ブルースの操作しているパソコンを狙った。

ハックは知識さえあれば子供でもできてしまう簡単なこと。細かいフォローや難易度に関してはマスターが全て取っ払った。

ANDOLL*ACTTIONの放送のせいで予定よりは少し遅れたが、普通に考えれば異常な速度でパソコン一台を完全封鎖した。


『貴方の通信や操作は全てそのパソコンから送られているのを扇動岐路博士が初期段階で突き止めていました』

『そして明良くんと美鈴にパソコンハックの手続きをしてもらう。これくらいは知識さえあれば子供で楽に出来てしまうからね』

『代理人さんには起こる事態の細かい対処やミスのフォローをしてもらいました』

『あとはマスターとやらが遊び心とやらで、余計なプログラミングやエラー音による音楽とかで完全な乗っ取りを遂行した」

『システムエッグによるAlice作成や扇動岐路博士特製ファイアーウォール破壊には驚いたが、ここまでだよ二番止まりの人外』


ジョージ・ブルースは五人の説明にぐうの音も出なかった。

しかし唇の口角を吊り上げ歪んだ笑みで肩を震わせ始める。

天才達は作業に追われて知らなかったであろう最高の隠し玉。

相手が勝利を確信した場合のために用意しておいたとっておきをジョージ・ブルースは持っていた。


「なぁああにがここまでなんだ?ここまでなのはお前達さ、天才と子供達」

『…まさかキッキさんの兄ですか?それならクローバー博士の指示で意識を確保する方法を…』

「か・ら・だ。棺桶を安置させたのは誰だと思う?安全な場所を決めたのはどっちだ?んん?」


代理人の傍に置いてあるテレビ画面の向こう側。

そこでクローバーは、もしかして、と余裕を持たせていた顔色を変える。

あらかじめ知っていたことが変わったことに驚愕するような、不安を滲ませていく。


「絶望に歪むお前達の顔は見れないが、とってもいいことを教えてやるよ!!そして私の下種で外道で小物で厄介な悪意をその胸に刻み付けろ!!!」


どこか恍惚として自虐的な叫び。少しもスッキリとさせない言葉達。

ジョージ・ブルースはそんな自分の言葉に酔い、宣言した。





キッキの兄が弟を見守るためにデータ化していたこと。

データの中を移動している最中、偶然にAliceがキッキの兄の意識を飲み込んだこと。

Aliceに呑み込まれた意識はジョージ・ブルースによる変質や現場に合わせた変容で残っているかすら定かではないこと。

データ化した意識を抽出する方法など現代の科学では不可能なこと。

そしてジョージ・ブルースがルールをギリギリのラインで守っていること。


誰にも手が出されない安全な場所。龍のロボットの中に棺桶があること。


そして緊急停止スイッチが押されると、自動的に棺桶の保存機能が失われて病状が進行すること。

最初から全て救うなどできないように策を張り巡らしたこと。









「高らかに告白してやろう!!地底人の兄はもう助からない!!全部救う道なんて作らせるわけないだろう、ばぁあああかぁあああああああああああああ!!!」










ただただ相手を苦しませて絶望させて自分勝手に行動する悪意がそこにあった。

自分さえ良ければ、自分さえ楽しめれば、自分さえ勝てばいいという身勝手な思考。

どんなに罵倒しても言葉が足りないであろう気持ち悪い誇り。


竜宮健斗達は全部救うために動いてきた。全力で最善をしてきた。

その行動で動かされたロボットがいた、大切なことを思い出したロボットがいた、勇気を出して命を賭けた者がいた。

孤独だった地底人が大人になって、初めてできた友達と協力して戦った。

深い眠りから目覚めた子供達も今は駅に向かっている。子供達が戻るのを地上で待っている大人達がいる。

子供達を救うために躍起になっている者がいる、少しでも安全に避難が進むように拡声器片手に立つ者がいる。

全ての繋がりを総動員して遊園地すらも救おうと必死で不利な状況を乗り越えてきた。










それら全てがたった一人の最悪最低な人外に壊された。






















『試合に負けても勝負に勝てばいい。ヌハッハハハアーハハハハハハハッ!!!!』


高笑いが響く目の前の画面に玄武明良は拳を叩きつける。

パソコンの位置などは特定している。しかしそこまで行くには時間がかかるし、その間にジョージ・ブルースは安全な場所まで逃げるだろう。

遠隔操作のメリットは安全性と正体の隠匿。その利を最大限に活用した敵はなんのダメージも負っていない。

今度こそは全てを救えると思っていた。そのために様々な動きをしてきた。作戦もたてたし十分な功績もあげた。

努力が水泡に帰す、足元から全てが崩れ落ちるような感覚。玄武明良は何度も画面を叩く。

言葉を出したいのに何も言えずに力任せに、衝動的で原始的な行動しかできない。


「こんなのって…こんな、あ、あんまりです…」


傍にいる扇動美鈴は涙目でそう呟く。

園内中に放送されていたANDOLL*ACTTIONは、パソコンを乗っ取ったことにより止められている。

脳味噌を鷲掴みにして揺さぶられるような痛みはないが、今度は精神的な痛みが心臓を襲う。

締め付けるような痛みは呼吸を乱し、苦みを口内に発生させて気持ち悪さを誘発する。


「ちっくしょう…ちぃっくしょうぅうううううううううううううううううううううう!!!!」


獣のような玄武明良の叫びは、ジョージ・ブルースの心を満足させるだけだった。

それすらも悔しいのにどうすることもできない。子供達はあまりに無力だった。









『諦めないで、明良さん。じゃなかった、明良くん。未来はまだ変えられる』






その声はクローバー代理人の画面から聞こえてきた。

青年のような声だが、どこか老人のようで、少年のような齢を感じさせない声。

代理人の声ではない。しかしどこかで聞いたことがあるような不思議な声に玄武明良は顔を上げる。


『僕は知ってる。君達がどれだけ頑張って前を向いて歩こうと、仲間の手を借りながら未来を作ろうとしたか』

「…お前は…」

『その未来でも悲しいことは沢山あるし、幸せなことばかりじゃない。後悔ばかりだし、全部救うなんて鼻で笑われる』

「…」






『でもね、間違ってない。だから僕は君達を助けるんだ。何度だって手を差し伸べるから、お願い、掴むことを諦めないで』







玄武明良は画面を叩くのを止めた。

そして意思を力強く込めた瞳で、クローバー代理人の画面を見る。

ボイスオンリーとあるため顔は見えない。それでも玄武明良は画面向こうのさらに画面の先にある顔が想像できた。


「…教えてくれ、クローバー!俺はあの馬鹿が掲げた夢物語を現実にしたい!!」


子供達は無力で今にも崩れ落ちそうな場所に立っているような状況だ。

それでもまだ終わってない。手を差し伸べてくれる存在がいる。

だから全力でその手を掴む。もう駄目だと諦めたくなかった。


『諦めないことを僕に教えてくれた君達を、今度は僕が救う』



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