ドッキリ☆ハウス
籠鳥那岐の連絡から一日経過。
御堂霧乃はお菓子を寝ころびながら食べつつ、タッチパネルのパソコンを使っていた。
そこには行方不明者と位置情報が分からないアニマルデータの比例図。
しかしその二つに共通性はなく、今回の件に一切アニマルデータが関係していないことが分かる。
つまりは無差別に子供が行方不明になっているということである。
「うーむ、せっかく新大会の案があると言うのに…健斗も泊りでの校外学習とか…」
<霧乃様。行儀が悪いです…淑女である貴方がそうでは…>
御堂霧乃はうんざりした顔で起き上がる。
クラリスの一件以来、リスのアンドールであるリスリズは小姑のようにうるさくなった。
さらには父親である御堂正義も心配かけたせいか過保護になりながらも、躾が厳しくなった。
もちろん二人とも好意による行動とはいえ、自由奔放な御堂霧乃としては口うるさい他ならない。
「なっちゃんも行方不明入りしちまったしなー…遊べる相手がいなくてつまらないぜ」
まず北エリアボスである玄武明良は御堂霧乃のことを胡散臭いと感じている。
そのため相手してもらえない上に、すぐに悪戯がばれてしまう危険性が高い。
猪山早紀との関係をからかおうにも、許嫁であり将来結婚確定なので面白い反応は見られない。
逆に西エリアはボスがいないまま、仮候補である仁寅律音はくえない少年である。
前は感情が乏しく精神的に豆腐メンタルという好条件だった。
しかし開き直って感情豊か、母親との問題も解決して精神的に安定してしまった。
すると少しの付き合いから御堂霧乃の弱みを的確に突いてくるので厄介極まりない。
下手に悪戯を仕掛けようなら、百倍返しが目に見えていた。
「ぁあああああああ!!!つっまんねぇえええええええええええ!!」
<霧乃様。レディたるものそのような奇声を上げてはなりませぬと何度も…>
からかえる相手がおらず、ストレスが溜まった御堂霧乃は早く籠鳥那岐が帰ってきてほしいと心の底から願う。
何故なら籠鳥那岐は根が真面目であるがゆえに、からかうには最高の相手なのだ。
しかしそれが恋愛や友愛に発展するかといえば、そんなことは全くない。
長い付き合いでドライながらも意地悪できるという、年頃の少女にしては味気ない関係の友人に近い知人という存在だった。
そんな御堂霧乃の願いをまるっきり無視して、籠鳥那岐は頭を抱えていた。
宿泊施設があったため、休憩のために寝るのには困らなかった。
しかし今一番困っているのは時間感覚の判断が危うくなっていることだ。
何故なら壁や天井のスクリーンは青空のままで、園内には時計がない。
ライトもずっと光輝き、唯一時間が分かるのはデバイスの時計表示だけだった。
デバイスの表示を見てやっと一日経過していることに気付き、体内時計が狂っていることに危機感を感じる。
「何日も行方不明…か。こういう仕組みもあって、起きているのだろうな」
遊園地は遊ぶどころが、住むにも問題ないほどだった。
宿泊施設はお風呂も付いている完備施設で、食事なども全て無料。
誰かが厳しく命令することもない上に、友達と楽しく気侭に過ごせる空間。
遊んでいるだけでいい、確かに夢のような場所。
「しかし終わりがないなら…悪夢だな」
<善彦達はまだ気にしてないようだが…時間の問題だな>
まだまだ遊園地を満喫している錦山善彦達は、一日経過していることに気付いた様子はない。
疲れたら宿泊施設で休んで、お腹すいたら売店の食べ物を食べて、アトラクションで遊ぶ。
時計がないから時間感覚はとうに狂っているだろう。もちろん、あと少しすれば違和感に気付くだろうが。
「出るには…オーナーの許しが必要か…しかし見つからんな」
<最初があまりにもあっさり出会えたせいか、すぐ再会できると思ったが…いやはや>
地底遊園地は思ったより広く、もしかしたらNYRONという街の4分の1程の広さがあるかもしれない。
もちろん移動の際に園内の乗り物を使うアトラクションもある。
しかしこの園内で子供一人探すと言うのは至難のわざだった。
「こうなったら…従業員通用口を探すか」
<…だな。出口を作らない、設計ミスした相手が悪い>
籠鳥那岐は園内を再度歩き出す。
従業員は全てロボットのため、休憩は必要ない。
しかし故障すれば必ず直すための場所へ運ぶはず。
それがこの遊園地での従業員通用口、裏側へと行ける場所だ。
カラフルな壁や扉を注意深く見つめ、ロボットに気付かれないように調べる。
数時間後、やっと壁際にあるアトラクションの傍にスクリーンでカモフラージュされた扉を見つける。
籠鳥那岐は迷うことなく、その扉へ入っていく。
裏側は思ったよりも殺風景だった。
鉄くずや鉄パイプ、そして露出した岩肌を下手に隠すような鉄板の廊下。
華やかで賑やかな遊園地とは裏腹の静けさと乱雑な光景。
籠鳥那岐はその廊下を進んでいく。すると修理室と書かれた部屋を見つける。
その部屋からはドリルと火花が散る音がする。
「…オーナー以外の地底人かもしれない。用心して開けるか」
そう小さく呟いて、ドアノブを握る。
小さく隙間を開けるように扉を動かす。
中では売店の店員らしきロボットを修理する、少年の姿。
オーナーである遊園地の主、キッキがそこにいた。
「おい、お前の許しがないと外出れないんだろう?出口へ連れて行け」
「…マナー悪い子だね。こんな裏側に入って…それに出口?」
キッキは修理の手を止めて振り返る。
その表情はオーナーとして出迎えた明るい笑顔ではなく、不気味さを思わせる微笑み。
小さなライトしかない部屋で、その不自然なほど白い肌には黒い影が大きく落ちる。
「ないよ。出口なんて…何かあった時の非常口に一時的に外には出すことはできるけど」
「一時的か…それでも出られるんだろう。出せ」
「どうして?遊園地面白くない?…でも君、一つのアトラクションも乗ってないよね?」
「乗る必要がないからな。遊びに来たんじゃない…」
「…うーん、君は駄目。戻ってくる気なさそうだし…なによりルールを破った」
籠鳥那岐の背後には扉。
その扉から大きな手が覗いてくる。
キッキは子供を叱るような顔で笑いながら言う。
「そんな悪い子はお仕置きだ☆」
大きな手が籠鳥那岐をシュモンごと掴む。
同時に指先から催眠スプレーが噴出され、意識が遠のいていく。
何か言う前に体は動かなくなり、シュモンもスタンガンでCPUを一時的に強制スリープさせられる。
キッキはドリル片手に、大きな手のロボットと共に移動する。
鼻歌を歌いながら、違反した者がまた動かないようにするための部屋へ向かう。
「悪い子は壁の中でぐっすりおやすみ~♪寝顔が素敵よいこだねんねしなぁ~」
あるアトラクション、ドッキリハウス。
そこでは子供達を驚かすためのあらゆるギミックが詰め込まれている。
伊藤三月が本気で怖がり叫び声をあげ、有川有栖は少し計算された叫び声をあげる。
その二人以上に伊藤双葉と伊藤一哉が怖がり、基山葉月は今にも入口に向かって逃げそうである。
錦山善彦は、片腕をしっかりと布動俊介にホールドされている。
「障子から手で怖がり過ぎやろ…えー、次の部屋は人面壁ぇ?そらまたえげつない…」
障子から手が飛び出る廊下の先にある扉を開け、白一面の部屋へ出る。
白い壁は凹凸しており、その凹凸には確かに子供の顔がいくつも浮かんでいる。
あまりにもリアルな出来栄えにとうとう基山葉月が動けなくなってしまう。
怖い物平気な錦山善彦もさすがに顔を青ざめるほどの出来である。
すると伊藤三月がある顔を涙目で指さす。
「…あの顔、ボスそっくり…ひっく…」
誰もがその顔を見て小さな悲鳴を上げる。
他人の空似というには似過ぎているその顔に驚くしかない。
穏やかに寝ているような人面の凹凸。色んな顔があるため、もしかしたら誰かに似ている顔が他にもあるかもしれない。
「そ、それにしても…うわぁ、落書きしたいなぁ」
「あははは。額に肉とか書く?」
「そ、そう思うと…怖くない、かも?いや、やっぱり怖い!!」
「そうやなぁ…さっさとここから出て何か食べに行かへん?ついでにボスと連絡とろうや」
それ以上壁の凹凸には触れず、錦山善彦達はその部屋を出る。
誰もいなくなる部屋、凹凸している人面壁は動かない。
その顔は寝ているようにも、安らかな死に顔のようにも見えるほどである。




