メタリックシルバードラゴン見参
絵心太夫や竜宮健斗達が向かった場所にはロボットが一体。
本来ならそれぞれ二体配置と踏んでいたのだが、二箇所から一体ずつ数が少ない。
そうすると二体自由な動きができるロボットがいることになる。
二体のロボット達は東洋龍の生産が終わった瞬間から行動を開始していた。
ドラム缶の形した清掃ロボットで、手はマジックアームのような簡素な物。
しかしそんな簡素な手でも二つあれば銃を握り、引き金を引くことができる。
暴漢対策用のゴム弾を装填している警備銃を片手に、二体のロボットはスタッフルームを目指す。
ルールではスタッフルームへの攻撃および、中にいる人間に攻撃してはいけない。
だが侵入は禁じられていない。二体のロボットはそれが狙いであった。
中で行動しているのは人間で、しかも銃には慣れてない平和の国日本の子供である。
例えどんなに天才だろうが、多くの困難に挑んてきた者でも、目の前に銃口を突きつけられては思考を乱される。
ルールで禁じられているとはいっても、そのルールを破る気かと疑心暗鬼も生まれる。
それだけで多くの行動を制限できる。撃つ気はなくても多大な邪魔として活動できるのだ。
目指すのはAlice対策で動いている天才達の邪魔。あと少しで扉というところ。
そこで上から網が降ってくる。
網もまた暴漢対策用に備え付けられた物で、単純な動きしかできないドラム缶型ロボットの動きを止めるのは容易い。
降ってきた網の衝撃でロボット達は銃を地面に落とし、マジックアームのような手は網から抜け出そうと動く。
そこへさらにバケツに入ったトリモチが大量に降り注ぐ。これもまた暴漢対策用に粉と水を混ぜるだけで作れるものだ。
乾きにくい分粘性が強く、まるで蜘蛛の糸のように相手の動きを絡め取って停止させる。
ドラム缶のロボット達は次第に動きを鈍くしていき、最終的には網とトリモチで完璧に動きを止めることになった。
近くの売店の屋根から竜宮健斗達と別行動していたセイロンとキッドが顔を覗かせる。
網砲弾の発射はキッドが砲台を固定して、引き金を引いた。トリモチは飛べるセイロンが何度も持てる容量のバケツを落としたから。
動かなくなったロボット達に近づき、その体には触れずに地面に落ちた銃を引きずりながらも回収する。
<やはり懸念した通りだったな>
<聡史達と別行動したかいがあったぜ>
そう話すセイロン達は銃にもトリモチをつけて簡単に引き金を引けないようにする。
ルールにはわざと作った穴がある。敵はやはり子供だと油断して、その穴に気付いて仕掛けてくるように細工していたのだ。
今回のスタッフルームへの侵入に関するルールもそうだ。あえて明言しないことで真っ直ぐ向かってくるように。
もちろん他のルールに関してもいくつか仕掛け、また裏の裏を突けるように誘導している。
本当にこれが十代の子供が作ったルールなのかと疑うほど、セイロン達はルール提示した玄武明良の頭の速さに驚きを隠せない。
しかしやはり子供というか、この穴を突いてきたロボット達を自分で対処すると言ったのも玄武明良だ。
本来であれば竜宮健斗達と一緒に旗取る役目であったセイロンは、そこに子供の甘さを感じて別行動を取ったのだ。
イレギュラーになってしまったが、やはり判断は間違っていなかったとセイロンは感じる。
脅しとはいえ、実弾ではないと言っても銃は銃。指先一つで殺傷能力を持つ恐ろしい武器だ。
いくら相手がかかってくると分かっていても、銃口を突きつけられると分かっていても、玄武明良はともかく扇動美鈴は少なからず動揺するだろう。
その動揺が後々の作戦にとって致命的なミスを起こさないとも限らない。不安要素は少なくあるべきなのだ。
後は竜宮健斗達の勝利が決まればアンドール同士の通信で、報告がなされるだろう。
それまでドラム缶ロボットが動かないよう見張っていると決めたセイロンとキッド。
二匹の集音機器が変な音を拾い上げる。巨大な物が動くような低く震えるような音。
キッドは自分がロボットを見張っているから、様子を見てこいと翼と反重力装置で飛べるセイロンに声をかける。
セイロンはすぐ戻ると言って、飛んで遊園地上空から地面を見下ろす。
すると蛇のように体をくねらせ、まるで虫の足に似た四足で進む龍のロボットが駅に向かっていた。
その体はシルバーメタリックで塗装され、長い胴体に首。尻尾も長く振り回すだけで猛威。
耳障りな機械音を放ちながら進む節ある足は迷いを見せてない。
首の先には細長い顔。馬のようだが頭にはドリルのような角、髭は生えていない。
口は半開きで牙はないものの、口径の大きい砲台が見えている。
セイロンはそのロボットが動く様子と向かう先の映像データを一斉配信する。
少しでも早く駅にいる子供達に危機を伝えるため、アンドール達が子供達を守れるように。
不意に顔をセイロンの方に向けたロボットは、半開きの口から飛び出ている砲台にエネルギーを充填していく。
砲口に光が集まる様子を見て、セイロンはビーム砲かと思い当たり逃げようとした。
しかし下に逃げれば遊園地のアトラクションや行動している子供達に当たるかもしれない。
だからといって天井には限界がある。セイロンが悩んでいる間に光が強くなり、凝縮されて放たれる。
あまりにも強い光は爆発のように視界を白くし、続いて天井の一部が砕かれる音が後から響く。
駅にいた子供達もその光に気付き、近づいている脅威の存在に息をのむ。
キッドは見上げたまま呆然とした。遠くてよく見えていなかったが、ビームが放たれたのはセイロンが飛んでいった方向。
遠くてよく見えていない、だがいくらセイロンに通信をかけても返事はこなかった。
旗を片手に戻る途中だった竜宮健斗は、激しい光に目を眩ませた。
相川聡史も同じで手で目の辺りを押さえてる。激しい光は痛覚となって脳を襲う。
その次に遅れて壁の一部が崩れる音がする。光速と音速による速度の違いで起きた現象。
遊園地にいた誰もがほぼ同じ現象や振動、光などを見ていた。
懐かしい音楽が園内放送で鳴る。ヴァイオリンの音だけが本物の、六つの楽譜と楽器によって構成された音楽。
かつて多くの子供達を時計台の中で倒れさせた、消失文明が残したANDOLL*ACTTIONという曲だ。
「あっいただだだだだだだ!?え?なんか脳が痛い…」
「そこは頭痛いだろ馬鹿!ったたたた…自分の声も響く…」
<にゃ!?旦那さん達どうしたにゃ!?>
頭痛で動けなくなる二人にチェシャ猫が慌てて声をかける。
しかし説明する余裕もないほどの頭痛と吐き気が襲ってくる。
バリケードに戻っていた籠鳥那岐と錦山善彦、少し遅れて筋金太郎。
あと少しで戻れるといった位置で時永悠真が頭痛に苦しんでいた。
鞍馬蓮実と絵心太夫だけが身構えつつも、何の痛みもないことに驚いている。
「…なんで太夫くんとタイラノだけ…」
「おそらくだが俺の真なる力が目覚めたことによる自己防衛反応が…」
「………たたたたたた」
痛みで言いたいことはたくさんあるが時永悠真は頭を押さえるだけである。
梟のアンドールであるロロも頻発するCPU処理に熱暴走を起こしかけている。
ANDOLL*ACTTIONは強制的にシンクロ現象を起こし、さらに同時認識による深度増大によってクロスシンクロまで発展させる。
クロスシンクロではアニマルデータと所有者であるユーザー間で通信が行われ、データ交換を起こす。
アニマルデータは本来人間であったため、もし人間の体を欲しった場合相性のいい体の持ち主の脳内記憶などをデータ化することができるのだ。
ユーザーのあらゆる情報をデータ化する際にアニマルデータは全てを思い出す。
そしてアニマルデータがデータ交換するかどうか判断する。ユーザー側に拒否権はない。
かつてはそれで多くの子供達が体を奪われる危機に瀕した。だがアニマルデータ達はデータ交換を拒否した。
今ではその事件に出くわしたアニマルデータ全てが脳の容量一部を借りつつも、アンドールの中で昔の記憶を持ちつつ新しい人生を生きている。
もう一度クロスシンクロが起きても、データ交換はないだろうと全員が高を括っていた。
しかしANDOLL*ACTTIONとは強制的にシンクロ現象を起こすものである。
シンクロ現象はクロスシンクロ手前の状態で、脳に影響を及ぼして潜在能力を引き出す副作用がある。
もちろん潜在能力が普段出てこないのは、体が壊れないように脳が無意識に止めているからだ。
それを無理やり引き出すため脳だけでなく体のあらゆる部分に負担がかかる。
かつて竜宮健斗の場合は鼻血が止まらなくなり、相川聡史の場合は血管が膨張して皮膚を破裂させた。
またシンクロ現象はアンドール事態にも影響を及ぼし、機体性能ぎりぎりまで引き上げる。
そのためANDOLL*ACTTIONを聞いているユーザーとアニマルデータはクロスシンクロを拒否できても、シンクロ現象は拒否できない。
副作用のためある程度意思で止めようとしても、強制的に干渉されるのだ。
皆川万結やキッキのような一般人には目の前で何が起こっているか分からない。
モグリのようなアニマルデータではない自立思考型ロボットも把握できてない。
ただ銀色の龍が襲い掛かってこようと進撃してくるのだけが刻一刻と迫っていた。
<キッ…ナー…>
銀色の龍が放つ声は、自らの足音で掻き消えていた。
石畳の街、四つの地域とそれを治める女王。
大人になることはなかったが、成長すればさぞ美しい女性になったであろう少女。
金色の髪の毛がまるで太陽のように輝き、その言葉は未来への希望を唱える。
公平で平等で自分のために生きれなかった少女。
もう会うことも叶わない少女。最後は機械の体で黒焦げになって死んでしまった。
セイロンは白い光が迫る刹那、その少女を思い出していた。
あの時竜宮健斗の体を乗っ取っていれば。
もっと早く記憶を思い出していたなら。
目覚めないままデータとして眠り続けていたら。
たらればが頭の中に渦巻いて、それでも後悔したくなかった。
目覚めたのも、記憶を思い出さなかったのも、竜宮健斗の体を乗っ取らなかったのも、全て自分が決めたこと。
運命の歯車などという流れ作業の中で起きた訳じゃない。それを言い訳に逃げてはいけない。
それでもふと気が緩んだ時に思ってしまう。もう一度会えたらどんなにいいだろうか、と。
光に呑み込まれたにしてはやけに長く思い出す、と思い立った瞬間にセイロンは再起動した。
<…っは!?い、生きてててて…こ、これはANDOLL*ACTTION!?>
体に多大な負荷をかける音楽の存在に、セイロンは起き上がれずに植え込みに再度倒れこむ。
どうやら運よく体勢が崩れてレーザーを避けられ植え込みに落ちたらしい。悪運ここに極まれり、と自嘲する。
クロスシンクロ手前のシンクロ現象に酷似した症状に、セイロンは少し違和感を感じる。
というのもいつものシンクロ現象よりは体への負荷が少ない。まるで不完全燃焼だ。
セイロンは少し考えて、おそらくレーザーへの認識負荷による強制停止が原因だろうと考える。
レーザーが迫ってきた際に多大な思考と視覚情報、その他諸々でCPUが強制停止を行い落下。
その後何が起こったか把握できてないが、少なくとも竜宮健斗と同じ情報は共有してない。
ANDOLL*ACTTIONではクロスシンクロまで深めるために、ユーザーとアニマルデータになるべく多くの感覚を共有させる。
曲自体が機械音の打ち込みで未完成なため、そうしないと強制的にシンクロ現象起こせてもクロスシンクロまで届かない。
敵の狙いはシンクロ現象なのだろうが、それでも感覚を共有しないだけでここまで違うとは思わなかったのだ。
しかしだからといって動けるかどうかは別問題で、セイロンに出来るのは通信状態の把握と竜宮健斗のデバイスに連絡を取るだけだった。
管理室では玄武明良と扇動美鈴が集中して作業に取り掛かっていた。
その部屋には音楽は流れていない。しかし二人共眉間に皺が寄っている。
まるで偏頭痛に悩まされる人間の顔そっくりである。
『こちらで園内にANDOLL*ACTTIONの放送を確認』
「は!?あれは御堂のおっさんが回収してそこの馬鹿親が仕掛けたファイアーウォールに守られてるはず…」
『二番があのセキュリティを突破できるとは思え…』
マスターは自分ならできるがという心情を含ませた言葉を途中で詰まらせる。
そして盛大な舌打ちをした後、並行作業で解析に取り掛かる。
扇動岐路は玄武明良と扇動美鈴に一旦作業を休むように言い、二人分をカバーしようと更に手を動かす。
クローバーの代理人は淡々と遊園地内の状況を説明。まるで報告書を読み上げるように話す。
現在、園内において正体不明のロボットを確認。
園内ロボット認識においてピエロロボットと同型と確認。
銀色の龍を模しており、レーザー砲と長い体で駅へと進行中。
内部にAliceの存在を探知。第三者の干渉確認。
ANDOLL*ACTTIONは依然園内で放送。
現在多くのユーザーが行動不能。外傷は一切なし。
未確認情報ではありますがユーザー内でも行動可能数名とのこと。
人間側の四本の旗入手確認。全ての旗が時間内に人間側へ渡ったことになります。
また正体不明のロボットを含め、ロボット側二十一体となりルール違反確認。
至急違反による警告及び、勝敗判定への移行を実行します。
クローバー側の代理人は緊急回線でジョージ・ブルースへと繋げる。
あっさりとジョージ・ブルースは回線に応答する。
その声は勝利を確認した悪役といった様子である。
『こちらで深刻なルール違反及び、全旗入手による人間側の勝利を宣言します。至急龍型ロボットの停止を』
『…ヌハ、ハハハハハハハハ!!だぁああれがっ旗を全部手に入れたら勝利とルールに書いた?ん?んん?』
聞いているだけで苛立つような声に挑発する言葉。
しかしクローバーの代理人は改めてルール表を確認する。
・旗は人間が手に取った瞬間、人間の物になる
・ロボット達はバリケード内部(駅のホーム方面、バリケードの向こう側)にいる人間には手を出さない
・ロボット達は旗を守るための盾を装備できる。それ以外の武器の装備を禁ずる。また旗自体に触れてはいけない
・人間を殺してはいけない、行動不能になるほどの傷を負わせてはいけない。動けなくなった人間への攻撃を禁ずる
・また人間もロボットを完全破壊してはいけない。行動不能になるほどの破壊をしてはならない。動けなくなったロボットへの攻撃を禁ずる
・人間はロボットの生産を妨害してはいけない。代わりにロボットはスタッフルーム及び中にいる人間を攻撃してはいけない
・ロボットに保管されている棺桶を安全な場所に移動し、お互いに手を出してはいけない
・ロボットは電車へ攻撃、及び干渉してはいけない。(バリケード内部への侵入も同時に禁ずる)
・参加数は二十まで。ロボットも人間も同数であり、補充は可能
これらのルールを破った側は自動的に負けになる
確かに旗を全部取ったら勝ちとは言った。
しかしルールとして勝利条件は書かれておらず、追及することができない。
ただ旗を人間が手に取った瞬間、人間の物になるそれだけである。
『数がルール違反です。またこのまま活動すればバリゲード内部及び電車襲撃のルールに触発します。ルール違反は負けです』
『そのことなんだがなぁ、バリゲードを壊せば内部もへったくれもない、電車に攻撃ししなければいいんだろうぅ?んぅ?』
『…』
『ああ続きは言わなくていいよ。数だろう!何体かそちらの捕虜で数が足りない、だから補充した。不満かね?』
クローバーの代理人は少し熟考し、画面向こうのクローバーに目を向ける。
言い変えそうと思えばいくらでも切り返せる屁理屈。しかし困ったことに筋が通っている。
その筋を曲げるとすれば今度はこちらがルールの話で事態を長引かせてしまう。
すると龍型のロボットはあっさりと駅にいる子供達へ攻撃を仕掛けるだろう。
クローバーは代理人に挑発してみて、と手振りで指示する。
『…最初から殺す気でいたんですね。ルールもゲームも踏み倒して弄ぶために』
『いい、いいねぇ!!踏み倒して遊ぶ、蟻螻蛄を潰すみたいにプチプチプチプチプチプチプチッとぉ!!赤い血の子供達を殺したいって最初から考えていた!!!』
『外道が』
ルールもゲームもこのフラッグウォーズ全てを持ち掛けてきたのは、ジョージ・ブルースだった。
しかし提案者は最初からそれを踏みにじって虐殺することしか考えていなかった。
竜宮健斗達の必死の作戦も行動も全て、前座の余興でしかなかった。
守る約束もルールも最初から蹴り飛ばして、龍型のロボットを作る時間を確保しただけだった。
努力や積み重ねた物を笑いながら崩すのが快楽と言わんばかりに、ジョージ・ブルースは陶酔しきっていた。
その気配は機械越しにも伝わり、誰もが嫌悪感に顔を顰める。
『どうだ、一番!これでも私を二番と嗤うか!?馬鹿にするのか!?見下すのか!?嘲笑うのか!?失望するのか!?青い血に相応しくないと戯言を吐くか!!!???』
『僕は子供達にチップを賭けるだけさ』
最早相手にならないと青頭千里はジョージ・ブルースに告げた。
青い血の一族、人外である人間にとても近い生き物の一番と二番。
二番は一番を見返すためだけに、一番は自分のためだけに。
行動した結果は多くの子供達を巻き込み、一つの隠された文明すらも巻き込んで。
それでも決着をつけるのは自分達じゃないと、決定権を地中に放り投げた。
放り投げられた決定権は今も誰の手にも掴まれないまま落ち続けている。
『い、いっちぃいいいいばぁああああんんんんん!!?』
『はいはい。早くこのしょうもない物語にも終わらせてくれるかな、天才なんでしょう?人間の』
いまだ作業が終わらないマスター達に笑顔で言う青頭千里。
それは誰かの誇り、プライド、人生、思考、心、あらゆる物にひびを入れて血管を浮き上がらせる。
明らかに見下した言葉、それで怒らないならいつ怒ればいいと言うのか。
傍観して楽しんでいるだけの青頭千里、果ては同じ青い血のジョージ・ブルースに怒りが向かう。
『代理人、お前は園内の放送ジャックを阻止しろ。私はウィルス解析に向かう』
「おっさんは悪いが俺と美鈴の分頼む…この頭痛じゃミスしかねん」
『分かった。じゃあ人外に人間の本気を見せてあげよう』
クローバーの代理人以外の天才達の額に青筋が浮かぶ。
代理人は眉一つ動かさなかったが、頭に乗せている氷袋の溶ける速度が速くなっている。
それを画面向こうに眺めているクローバーは、笑顔のまま青頭千里に向けて親指で首を切るという動作をした。
ANDOLL*ACTTIONが流れ続ける園内で、龍が駅へと迫りくる中。
キッキがモグリと一緒に子供達を電車に向かわせている途中、崋山優香は平然と龍のロボットを見据えていた。
なぜか向かってくるロボットが怖くないのだ。むしろ仲間や友達がいなくなるかもしれないと思った時計台の事件の方が恐ろしかった。
公平に国民を愛して蘇らせようと、現代人を生贄に捧げようとした確固たる意志を持つクラリスの方が偉大だった。
今目の前にいる巨大なロボットは大きいだけ、意思もない。ただ我武者羅に走っているだけなのだ。
確かに尻尾で一振りされれば死んでしまうだろう。それでも怖くなかった。怖いのは確かな意思で命を奪うと決めた人の心。
歩いてて虫を踏んで罪悪感を覚えない心を、いや心があるかすらわからない物体も確かに怖いだろう。
それでも崋山優香は不思議とその物体が怖くなかった。そう思って見据えていたら帽子屋のロボットがお茶を零しながら話しかけてきた。
<あのロボットの弱点知りたくないですか?お嬢さん>
淑女をお茶会に誘うような軽く紳士的な問いかけ。
だが今の状況からすれば重大でトチ狂った話であった。




