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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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物忘れゴーレム

ミラーハウスの前にゴーレムのレムが旗を背に胡坐をかいて座っている。

巨大な体の眼前には強化ガラスでできた蜜柑箱に近い台。

その台の横にはサッカーの審判のような服装を着たロボットが立っている。

鞍馬蓮実と筋金太郎はよく分からない状況にただ首を傾げた。

レムの雰囲気がまるでチャンピオンベルトを守るような気迫に満ちている。

ロボットに気迫というのもなんだかおかしい話だが、鞍馬蓮実はそう感じた。

背中にある物を絶対に渡さないという敵対心や警戒と言ってもいいかもしれない。

とにかく簡単に取れるとは思わなかった。


<ここでの勝負は腕相撲とさせていただきます>


審判の服を着たロボットが機械音声で伝える。

腕相撲、それは子供から大人まで熱中する腕一本によるガチンコ勝負。

相手の手の平を台に触れさせれば勝ち、逆の立場なら負け。

単純で純粋に力が求められる、力自慢の二人だったら普段は喜んでいた。

しかし相手はロボット、それもゴーレムと形象するに相応しい大きな手を持つロボットだ。

力が自慢とはいえまだ子供である。そんな明らかに不利な勝負は素直に受けることはできない。


<受けなければ、不戦敗とします>

「ちょ、待つんよ!ハンデとか!?明らかに差がありすぎ…」

<不戦敗とします。よろしいですか?>


審判役のロボットはただ必要事項のみを伝える。

レムは一言も言わないまま、その大きな手をガラスの台に乗せる。

握手するようにも見えるその手は、相手を倒すためだけに差し伸べられている。


<スベテハジョージ・ブルースサマノタメ>


レムは片言の言葉でそう言った。感情など一欠けらもない機械らしい口調。

前の少し丁寧で穏やかそうな話し方を忘れたかのように、ただ対戦相手がその手を握るのを待っている。

全てはジョージ・ブルースのため、そう聞いた鞍馬蓮実はガラスの台の前に同じように胡坐をかいて座り込む。

筋金太郎が驚いて無理なんだなぁと言おうと思ったが、鞍馬蓮実の目を見て言葉が出なくなる。

レムの雰囲気を気迫というなら、今の鞍馬蓮実の雰囲気は鬼気。恐ろしさすら感じる迫力をかもし出していた。


「…太郎。オイラは負けないんよ」

「蓮実…でも相手は人間じゃないんだなぁ!」

<そうだべ!危険だべ!!>

<子供という不利もある故…>


「オイラは本当に大切な物を忘れる奴に、絶対に!!負けるわけにはいかないんよ!!」


普段は出さないような肩や体の内部を震わせる大きな声。

鞍馬蓮実のそんな声を聞いてまで止められるとは。誰も思えなかった。

差し出された手を掴み、鞍馬蓮実は真剣な目でレムを睨む。

機械の手は冷たくて大きく、また鉄の固さが手の平から伝わってくる。

お互いに握った手を上から審判が合図を送るまでの間、動かないように握られる。


<一回勝負。片手のみの使用。もう片方の手は膝の上に。あとは…なにもありません>

<カツ。タダソレダケ>

「…」


鞍馬蓮実はただ目の前に集中した。

腕相撲では最初に勝負がついてしまうことが多い。

だから最初は拮抗するために最大の力を出して、ロボットの力に対抗しなくてはいけない。

馬鹿らしい説で、話であるとは思っているが鞍馬蓮実は絶対負けたくなかった。

キッキがレムのことを家族のように思っていたと聞いた。

今回はウィルスのせいだと、仕方ないとキッキは困ったように笑っていた。

本当は今にも泣きたかったはずなのに、少しでも大人になろうと笑っていた。

別に泣いても良かったのに、責任ある立場を自覚した今ではそれすら叶わない。

キッキはひたすら我慢して、強がってみせた。


なのにレムはそんなキッキのことも忘れて、敵に回った。


ウィルスのせいだ、レムのせいではないと口で言うのは簡単だ。

それでも鞍馬蓮実には許せなかった。しかも忘れた上に敵の大将のためとのたまった。

ロボットでも人間でも、大切なことを忘れたら本当に終わってしまう気がすると鞍馬蓮実は思った。

だからこそ目の前にいるレム、終わったロボットには負けたくなかった。


<…始めっ!!!>


合図と共に審判の手が離れ、鞍馬蓮実は最大限の力を込めた。

しかしレムはビクともしない。なのに鞍馬蓮実の手をガラスの台に触れさせようとしない。

ただその握った手に力を込めていた。握り潰すかのように、砕き折るように。

鞍馬蓮実の手が握られた圧力で血が止まり鬱血していく。白い部分と赤い部分ができ始める。

筋金太郎はすぐに気づいて、卑怯なんだなぁと叫ぶがレムは応答しない。


人間を殺してはいけない、行動不能にしてはいけない…だが手を潰してはいけないとはルールにはない。


レムの行為はルール違反にならず、このまま鞍馬蓮実の手を握り潰すだろう。

手の骨は細かい部品が多いが、それら全てを純粋な握力で潰す。多大な痛みを鞍馬蓮実を襲うだろう。

そして痛みで手が離れた時にルール違反と難癖をつければ、ロボット側から有利なルールを提示できる。

レムに与えられた任務は旗を守ることではなく、人間側にルール違反を起こさせることであった。

それはあと少しで達成できる。そのはずだった。


<…!?>

「今のオイラの闘志も、手も、簡単に砕けてくれるような軟なもんじゃないんよ!」


レムがどんなに力を込めても、鞍馬蓮実の骨の手は砕けない。

それどころが皮膚に圧力をかけているはずなのに少しずつ押し返されていく感触。

さらには腕が傾き始め、ガラスの台がきしみ始める。レムは慌てて握る力を少なくして傾きを修整する方に力を入れる。

ありえないことである。鞍馬蓮実は普通の子供で、その手はすぐに砕けるはずだった。


<ナ、ナンニモセオウコトナイコドモガナンデ!?>

「それはお前のことなんよ!オイラの背中には…たくさん、後悔も期待も…信頼も背負ってるんよ!」


レムは背負っていた遊園地のスタッフであること、キッキの家族であること、あらゆることを忘れてしまった。

それはウィルスのせいだったかもしれない。実は最後まで足掻いていたのかもしれない。

だが鞍馬蓮実の目の前にいるレムは全て忘れていた。結果は非情で、無情であった。


鞍馬蓮実は遊園地に来て、後悔したことがいくつもある。

その中の一番大きい後悔は、親友である瀬戸海里を一人残したことである。

信頼している仲間が後から来ることや、瀬戸海里なら大丈夫だろうという信頼があったから残した。

でも苦しめることは分かっていた。辛いことも分かっていた。悲しいことも分かっていた。

だから戻ってきたら怒りの制裁一つ食らうくらいは覚悟していた。

なのに瀬戸海里は心配したや大丈夫など聞いてきて、挙句の果てには良かったと言ってきた。

鞍馬蓮実はその瞬間、罪悪感が背中に圧し掛かったのを感じた。とてつもなく大きくて重い感覚。

表面上では明るく振舞っていたが、瀬戸海里と話すたびに心の中で何度も謝っていた。

そんな簡単に許さないで欲しいと自分勝手なことを考えては自己嫌悪に陥っていた。

皆川万結を抱えて逃げてきたところでは今度こそ助けなくてはと無我夢中に重い物を投げた。

瀬戸海里が危険ということも忘れて。それもまた罪悪感に変わって鞍馬蓮実を潰そうとした。


しかし鞍馬蓮実はあることに気付いた。背中にかかる重みが大きくなるほど、なぜか力が湧いてくるのだ。


今までよりも何倍も力が出せて、運べなかった物も運べるくらい力が出てきた。

まるで漫画の主人公のようだと嬉しくなった心の反面で、疑問も膨らんでいた。

なんでそんなことが起こっているのか、もしかしてシンクロ現象が起きているのかと疑っている。

シンクロ現象は体の限界以上の力を引き出す代わりに、体を破壊する諸刃の剣。

今そんな状態なのかと恐怖した、それでもレムの勝負を受けたのはシンクロ現象でもなんでも、この力なら勝てると思ったからだ。

後で体が壊れてもいい、罪悪感で押し潰されて再起不能になってもいい、それでもこの勝負だけは負けたくなかった。

今バリケードでは瀬戸海里を含めた多くの仲間、そして新しく知り合った皆川万結を含めた子供達が待っている。

襲撃を受けた直後で不安だろうが、それでも必死に守ろうと頑張っている。

きっと鞍馬蓮実達が旗を持って帰ってくるだろうと期待して待っているのだ。

そして期待してくれているのは、鞍馬蓮実達なら大丈夫だと信頼してくれている証なのだ。

瀬戸海里も皆川万結に大丈夫だと言っているだろう。一人残してしまったのに、薄情な自分のことを信じて。


昔から友達の鞍馬蓮実なら大丈夫だ、と誰かを勇気づけているのだろう。


その期待もまた鞍馬蓮実の背中に乗っかって押し潰してくる。

でも今はその重みさえ力に変わってくれる。ロボット相手に引けを取らない力になる。

背負うことは重くて苦しくて辛いものだ。でも軽くて楽で平然とした背中で勝負に勝てるとは思わなかった。

鞍馬蓮実は重い背中に感謝した。その重さは全部自分が作り上げて、繋げて、築いてきた絆に近いものだから。

どんなに重くても手放したくない、絶対に手放さないと誓えるほど掛け替えのないものになっていた。


改めてレムを見る。全てを忘れて、背負っていた物全て放り投げたロボット。


こちらのルール違反を発生させようと、ルールの裏をかいてきた。

家族であるキッキを陥れるために、子供達を殺そうとしているジョージ・ブルースのために。

なにも背負わず、何もかも忘れた軽い背中で勝負に勝とうとしている。

歯を強く食いしばり、鞍馬蓮実はさらに力を込めて絞り出すように言う。


「そんな捨てれる物だったんよ?簡単に忘れるほど…ウィルスに負けるほどの記憶でしかなかったんよ…?」

<ナンノハナシダ?イマハ…カンケイナイ>

「っ、キッキとの!家族や友達、大切な思い出は、ウィルスで消えるような…弱いデータだったんよ!!?」


鞍馬蓮実が赤い顔で脂汗を浮かばせながら叫ぶ。

今でも手は握り潰されようと力を込められ、皮膚は内出血の跡が見えて、骨も音を立てている。

それでも負けたくない、勝ちたい、絶対勝ってみせると痛いのを我慢して力を込めていく。

ガラスの台、肘を置いている部分にひびが入る。レムと鞍馬蓮実の力に耐え切れなくなっている。

異様な事態なのだが審判は止めようとせず、筋金太郎は祈るように手を組む。

もう止められるような勝負ではなかった。お互いに力の限り勝とうとしているのだから。






レムはキッキの名前を聞いて、CPU内をデータ検索する。

しかし不思議とその項目だけ不自然に消えていて、何も出てこない。

家族や仲間、それに検索をかけても何も出てこない。

代わりに出てくるのは青い血のため、ジョージ・ブルースのため、子供達を負かすということ。

さらにルール違反を起こさせろと重要案件のように強調してくる。

レムの思い出はAliceによって消されていた。真っ白にではなく、真っ黒に。

まるで光のない地下世界のように、温かみもないものだった。

デリートされたのではなく、上書きをされているように入念に思い出が消えていた。

これ以上はデータ検索しても無駄だろうと止めようとした時、CPUが一つのファイルを表示してくる。



ファイル名はbrotherとあり、兄弟のことを示す単語である。



しかしレムはロボットであるため同時生産や系列ロボットはいても、人間の感覚でいう兄弟はいない。

それでもそのファイルが表示されたということは、データ検索にひっかかったのだろう。

自分の記憶というデータはウィルスによって消えるデータだったのだろうか。その謎がそれを開けば分かる気がしたのだ。

ファイルを展開する。表れたのは自分が誰かに手当てをする記憶。


そのファイルデータは破損していた。

大きな手で真っ黒に塗りつぶされた誰かの手に包帯を巻いている。

手はかなり小さいので幼い子供の手だろう。塗りつぶされているから確証はない。

壊れ物を触るかのようにレムは包帯を巻く。出来上がったのは不格好な包帯ぐるぐる巻きである。

黒く塗りつぶされた人影がなにかを言っている。しかしその音声さえ聞き取れないほど破損していた。

そこでファイルのデータは終わる。最後にレムは黒い人影に照れたように笑っていた。


レムは何もわからなかったと結論付けた。

結論付けたはずだった。なのにCPUが大きな音を立ててデータを修復し始める。

現在のレムという感情データを無視して、大切な何かを取り戻そうとするかのように。


ロボットなのに変なの


レムはそう思った。そう思った瞬間、フラッシュバックする。

白くて赤い目の子供。ぐるぐる巻きの包帯を見ておかしそうに笑っている。

手放したくないと足掻いて、忘れてしまった大事な記憶。

そこから先はCPUが悲鳴を上げるんじゃないかと思う程の稼働の忙しさ。

バックアップデータをインストールするのではなく、壊れたデータを直していくような複雑な工程。

力が抜けていく。それほど内部のCPUはデータを取り戻そうと必死になっている。















気付いたら手の甲がひび割れて今にも壊れそうなガラスの台についていた。










目の前には汗だらけで今にも倒れそうなのに笑っている鞍馬蓮実。

人間側の勝利を告げる審判と後ろで喜ぶ筋金太郎。

アンドールの熊タイプのベアング、ムササビのムサシも同じく喜んでいる。

レムは力を込めていた手を放し、鞍馬蓮実の握られて少し形が歪んた手を見つめた。

赤黒い部分や青白い部分など斑になっている手は痛々しく、子供の手とは思えないくらい酷い有様である。

内出血がさらにその斑に拍車をかけ、長時間力を込めていた手は指一つ動かすのも辛そうである。

レムはこっそり作っていた収納スペースの蓋を開く。腹に作っていた収納スペースには救急箱。

そこから包帯を取り出して、鞍馬蓮実の手に巻いていく。不格好でぐるぐる巻きの変わらない巻き方。

鞍馬蓮実が目を点として驚いている。レムは照れくさそうに言う。


<ロボットなのに不器用で変でしょう?>

「…いーや、変じゃないんよ」


鞍馬蓮実は晴れやかな顔で笑う。額から垂れてくる汗を包帯を巻いてない反対の手で拭う。

竜宮健斗は全部救うと言った。鞍馬蓮実は無理かもしれないけどそのつもりで動いていた。

だから今目の前に表れた結果が嬉しくて嬉しくて、涙が出てくるのは仕方ないと自分に言い聞かせた。

筋金太郎もつられて男泣きし、おろろろろろろろろろんと特徴的な泣き声を発する。

そして男泣きしつつもちゃっかり勝利の証である旗を手にし、戻ろうと言ってくる。


<思い出すのに凄い負荷がかかりましたが…悪くないですね。この重い動作も>

「そうなんよ。だから手放したくなくて力を込めるんよ」

「うう…いい話なんだなぁ。きっとこれは奇跡なんだなぁ…」

<…そのことなんですけどね。多分奇跡じゃないです…>


審判役のロボットをコントールしつつ、レムは鞍馬蓮実達についていく。

向かう先はバリケード。キッキに早くこの結果を伝えたくて早足で戻り始める。

その最中でレムは思い出せたことは偶然でも奇跡でもなく、誰かが助けてくれたからと言う。

推理のような考察を聞きながら、鞍馬蓮実達は目を丸くすることになる。





残り時間三十五分。旗は残り二つ。




そして子供達を虐殺するためのロボット完成まで、あと十五分。



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