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ANDOLL*ACTTION遊園地編  作者: 文丸くじら


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ヒットマンガール

地底人はロボットに人格データを与えられる技術を持った文明である。

ゴーレムのロボット、レムは目覚めて最初に目をしたのは小さな子供であった。

手を泥と血だらけにしてドリルを握っている、地底人の子供。

最初からある程度の情報は頭の中にインプットされていた。

ロボット三箇条から地底人の歴史から遊園地での接客方法など。

しかしそれら全てを置いて、最初に思ったことは手当てしなきゃ、ということである。

泥にはばい菌があるし、あまり血を流したままなのも衛生上によくない。

でもそれ以上に見ていられなかった。こんな小さな子供が怪我しているのが。

大きな手で不器用に巻いた包帯を見て、子供は涙目で笑った。


「ロボットなのに変なの」


変と言われてしまったが、それでも子供が笑ってくれたことが嬉しかった。

複雑な思考回路の中で積み重なっていく感情、思い出。

それら全てがデータで、簡単に消える物だとしても手放したくなかった。


手放したくなかったのに、その想いすら飲み込んで、ウィルスはレムの体を乗っ取った。





不器用に包帯を巻いた大きな手は、今はひたすらに物を壊すだけ。

泣き叫ぶ子供の声さえ今では何の抑止力にならない。

握り潰そうと手を伸ばしたが、その前に子供を抱き上げて逃げいていくロボットが一体。

最初に造られた仲間のロボット、フローゼ。女性的な思考回路で、キッキのお姉さんのような存在。

レムとも仲が良くて、キッキを心配して過保護とピエロのロボットに言われるほどである。

今はその情報すら、レムを止める材料にはならない。


<っがぁああああああああああ!!!>

<レム!?貴方までウィルスに…くっ、安心してお嬢ちゃん。貴方は私が守ります!>


ウィルスに侵されてないフローゼは子供を抱きしめたまま走り出す。

脚力は人間と比べて速く、入り口であるゲートまで一直線に向かう。

大きな体のレムと比べれば小回りもあり、軽量化されているので追いつかれることはない。

しかし園内の多くのロボットはウィルスによって無差別に攻撃してくる。

気を緩めている暇はなく、ただ泣きじゃくる子供を落ち着かせる言葉しか言えなかった。





キッキは電車を自動運転に切り替え、無事であるモグリくんに有線通信取るように指示する。


<あっしに任せておきなせぇ、旦那!ちゃっちゃっか運転してやるぜぇ!!>

「いやだから、君は出発の合図をするだけだって…」

「…モグリくんって江戸っ子だったんだ…」

<ああ、驚きだな>


可愛い動きで入り口で出迎えてくれるマスコットロボットの性格に、多くの者が驚く。

もしかしてあまり喋らなかったのはこのためかと誰もが納得した。

愛らしいマスコットがいきなり江戸っ子口調だったら、驚きのあまり後ずさってしまうだろう。

しかし話せるのが嬉しいモグリはべらんめぇとノリノリである。


「ピエロの姿が見えないのは…彼も…」

<旦那気を落とすでねぇ。フローゼが無事なのは見たぜぇ!>

「あ、あのお花の妖精さん…そう言えば発信機返すの忘れてたな」

「あとでいいんじゃね?それより入り口前のバリケード作ろうぜ」


今竜宮健斗達は入口である駅前を椅子や机、土嚢で壁を作っていた。

力自慢の鞍馬蓮実や、日頃から力仕事に慣れている筋金太郎は大活躍である。

特に鞍馬蓮実は調子がいいのか、明らかに無理であろう量を軽々と運んでいる。

また絵心太夫も鞍馬蓮実ほどではないが大量の物資を運んでいる。

その動きは重い物を持っているとは思えないほど、重力を感じさせない動きをしている。

錦山善彦は空気を呼んで凛道都子と一緒に物を運んだりと補助の方に働く。

籠鳥那岐も細腕からは予想できない力でいくつか運んでいる。

葛西神楽は身軽さを生かしてあちこちを走り回りながら崩れてないか見回っている。

玄武明良と扇動美鈴は駅にある通信装置で上と連絡とれないか試みている。

なぜならこの地底世界では地上の電波が届かない。上と連絡を取れれば少しでも対策が立てる。

仁寅律音はヴァイオリンを弾いて、不安そうな子供達を慰めている。

丁寧で心がこもったその演奏のおかげで、喚きたてる者は今のところいない。

猪山早紀はキッキから渡された薬を強く握り、緊張した面持ちで電車が出発するのを待つ。


「早紀、その薬は俊介達を起こす大事なのだから、頼む」

「う、うん…明良くんが頑張ってるから…自分も頑張れる」


集中して通信装置を改造している玄武明良の背中を見て、猪山早紀は緊張しているものの笑顔を見せる。

扇動美鈴も配線や工具の受け渡しなどで作業を手伝っている。

その横で同じく工具を扱いつつも怪しい笑みを浮かべる袋桐麻耶。

崋山優香は地面に改造されて放置されたモデルガンを見る。


「これ、本当に遊園地で売ってる物?」

「人生に刺激が必要かと思ったけど…でも人一人怪我するのも難しいほどの威力しかないよ」

「くくくっ…今まではな。良い子には真似できない悪ガキの悪知恵とくとご覧あれ、だ。おい都子」


袋桐麻耶は手近に置いてあった手の平サイズのモデルガン二丁を凛道都子に投げ渡す。

二丁とも凛道都子は驚きつつ慣れたように手の平でペンを回すかのように転がし、位置を整える。

まるで西部劇のガンマンのような動きに数人の少年から羨望の眼差しが向けられる。

そのことに気付いた凛道都子は慌ててわざとらしくモデルガンを地面に落とす。


「わ、私は射撃とかそういうの得意じゃ…」

「いいからあそこの看板、二丁で同時に打ち抜け、鈍間娘!!」

「は、はぃいいいいい!!」


誤魔化そうとした瞬間に袋桐麻耶に恫喝され、思わず拾い上げ二丁同時撃ちする。

距離的には十メートルは余裕であったが、凛道都子は慌てていた時とは打って変わった真剣な顔で引き金を引く。

二発のゴム弾は正確に看板に当たり、看板を大きく揺らす。表面には二つのへこみが確認される。

袋桐麻耶は満足そうに笑い、凛道都子はやってしまったと後悔するように泣き顔になっている。


「すげー!!かっけー!!都子良いぞー!!」

「け、健斗くん…ああ、でも女の子らしい方を見て欲しかった…」

「人を怪我するのが難しいモデルガン?」

「…改造されたらどうにもならないよ」


崋山優香の胡乱気な目を流しつつ、キッキがドリルを片手に壁のスクリーンを一部剥す。

そこにはコードやケーブルが詰められた点検用の配管で、鉄板で蓋をされている。

打ち付けられた鉄板もドリルで壊し、自前の工具で配線を変えていく。

赤や青、黄色から紫まである配線を迷うことなく組み替えていく。

崋山優香からしたら何が起きているのかも分からないほどの素早さである。


「聡史と海里は見回りで、セイロン達は狭い所の探索…で、俺は何すればいい?」

「馬鹿はそこに立ってろ」

「馬鹿だからむやみに手を出すな」

「馬鹿なんだし大人しくしてたら?」

「明良と那岐と律音が酷い!!?俺なんかした!?」


三人の打ち合わせしたかのような罵倒に周りは苦笑するだけだ。

竜宮健斗がなにかしたかと言えばなにもしていないというのが現状だ。

あえて言うなら本気でなにもしていない、籠鳥那岐達のようにお仕置きを受けていない。

後からのほほんとやってきて、遊んで、そしてなんやかんやでキッキを丸め込んだだけである。

最後に美味しい所だけをかっさらった竜宮健斗に、なにか言ってやりたいのはある意味人情であろう。


「お、俺だって何か…」

「機械配線やネット通信できるか?」

「忘れがちだけど機械疎い!」

「的確な指示と迷わず行動できるリーダー性はあるか?」

「大体皆に何か言ってもツッコミを入れられる!」

「人を宥めたり一発芸とかできる?」

「将来には役立ちそうだけど、今はない!!」


キッキが配線をいじる手を止め、振り返る。

その顔は言う言うまいか悩んでいるが、決心したように口を開く。

曖昧な笑顔は儚げというのかもしれないが、どちらかと言えば投げやりな顔である。


「健斗は立つだけでいいよ?ね?」

「キッキまで!?俺だって…俺だって東のボスなのにぃ…」


落ち込む竜宮健斗を他所に作業は次々と進んでいく。

バリケードが少しずつ大きくなり、それを見つけた避難の終わってない子供達が半乱狂でやってくる。

まだ動ける子供は良い。しかし怯えて物陰から動けなくなる子供もいる。




そんな子供達を探すのが人当たりの良い瀬戸海里といざとなったら叱れる相川聡史が探している。

見落としそうな場所はアンドール達が各自別れて行動し、通信機能を使ってデータ内の地図を埋めていく。

持ち主達とあまり遠くに離れると記憶の方に障害が出るが、子供達を探すだけなら問題ない。

たとえ前のように機械的な口調だとしても、生活の中で見慣れたアンドール達なら遊園地とのロボットと見分けがつく。

あとは話すことができれば、会話が成立すれば安心感を与えられ導くこともできるだろう。

もしなんで喋るのと聞かれたら、緊急用に機能を付け加えたと少々嘘をつけばいい。

瀬戸海里は穏やかな笑顔で椅子の下に隠れていた女の子を手招きする。


「ほら、そこじゃあせっかくのお洋服も汚れちゃうし危ないよ?」

「…ロボットさんがおそってくるほうがこわいもん」

「大丈夫。僕達が安全な場所まで案内してあげるから。お兄ちゃん達を信じて、ね?」


優しく穏やかな声音で言われ、女の子は戸惑いつつ椅子の下から出てくる。

そして周りを一通り見回した後、やはり怖いのか瀬戸海里の首筋に抱きつく。

震えているその体を宥めるように、瀬戸海里はリズミカルに背中を軽く叩く。


「おにいちゃん、じつはねたすけてくれたロボットさんがちかくにいるはずなの」

「アンドールじゃなくて?」

「うん。おはなのね、ようせいさんみたいな。まゆをここにかくして、ようすみてくるっていったまま…」


瀬戸海里はまゆ、皆川万結と名乗った女の子が指差した方を見る。

そこは売店だった場所で、大きく破壊されて備品のコップや食料が散らばっている。

相川聡史がおそるおそる中を覗き込む。外見でも酷いが、中はそれ以上に酷かった。

コードやケーブル、ロボットの機械腕が一本残っていたが誰もいない。

そのロボットの腕もマジックハンドみたいな簡潔な物で、相川聡史の記憶にある花の妖精のようなロボットとは一致しなかった。


「ここにはいねーな」

「ロボットさんぶじ?よかった!」

「多分ね。じゃあ万結ちゃんは僕達と安全な所に行こう。そこにロボットさんもいるかもしれないし」


瀬戸海里は皆川万結を抱き上げ、速度は遅いものの走ってバリケードに向かう。

相川聡史は見落としがないか、ロボットが襲ってこないか走りながら警戒する。

ロボット達は子供達だけではなく、暴走しているのか同士討ちのようにロボット同士でも争っていた。

そのおかげで数は減っているものの、まるで共食いのような光景は背筋を凍らせるものがある。

辺りには機械の部品が転がり、ロボットの残骸も多く火花を散らすものも少なくない。

楽しかったはずの遊園地がまるで戦場のように見える光景である。


「…おかしい」

「海里?なにがおかしいんだ」

「なんかさっきから争う声が聞こえないというか…静かすぎるんだ」


相川聡史は改めて耳を澄ませ、小さな物音を聞き逃さないよう集中する。

すると確かに火花が散る音や物が傾いて自重で崩れる音はするが、意図的な争い音がしない。

子供達も避難か隠れているのか声も聞こえないほど静かである。

避難誘導する身にとってはありがたいことだが、それにしても先程の暴動が嘘のようである。

まるで台風の目に入った、新たな脅威がくるのではないかと危機感を抱くほど。


「俺、こういう静かなの駄目なんだよ…ホラー映画とかでこの後すぐに驚きの仕掛けがっぁああああああああああああああああ!!!?」


口から出た真か、火のない所には煙は立たないのか。

相川聡史は横の建物から飛び出してきた影に叫び声を上げてしまう。

そのせいで瀬戸海里に抱かれていた皆川万結が泣き出してしまう。

飛び出してきた影はそのまま地面に倒れてしまう。

弾む鼓動を押さえて相川聡史は倒れた物体を注意深く見る。

体の各所が破損して関節もいくつか壊されている華奢な体。

それは花の妖精というに相応しい容姿のロボット。


「ロボットさん!?」

<…オ、嬢……ぶ、無事ぃじじじじ…jjjjっじ>

「おい無理して喋んなよ。音声装置かCPUやられてるのか、本気でホラーみたいになってんぞ…」

「いや、聡史くんそこじゃなくてね。彼女乗せる台車みたいなの近くにない?」

「えっと…そこの売店の横に車椅子がある!」


瀬戸海里は一旦皆川万結を地面に下ろし、相川聡史と二人でロボットを椅子に座らせる。

華奢な体とはいえ鉄でできた大人サイズのロボットであるため、あまり力のない二人には大変な作業である。

それでもなんとか乗せることに成功し、改めてバリケードに向かうため瀬戸海里は皆川万結を抱き上げる。

相川聡史は車椅子の取っ手を掴み、なるべく落とさないような全速力で走り出す。

ロボット同士での争いのため平坦な道ではなかったが、なんとか転ばずに車椅子を押せていた。

そしてバリケードが見える頃、二人の姿を見つけた鞍馬蓮実が手を振っている。


「おーい、こっちなん…っ!?」


最初は無事に安心していた笑顔が固まり、驚愕で目が見開かれる。

抱っこされて後ろを見ていた皆川万結が涙目で呼吸を詰まらせ、その顔を瀬戸海里の肩に埋める。

一体何事かと振り向けば、手に斧を持った同じ容姿で色違いの白と黒の熊。

その二匹が今にも瀬戸海里達を襲い掛からんばかりに斧を振り上げている。

相川聡史は車椅子の車輪のおかげでさらにスピードが出せた。

だが瀬戸海里は子供一人抱えて走り続けていたため、追いつかれそうになっている。

袋桐麻耶が改造したモデルガンをロボットに向けるが、距離が遠く瀬戸海里に当たる可能性が高い。

心の中で盛大な舌打ちをした横で、顔に影がかかるのを感じて見上げる。

するといつもの穏やかそうな表情を消した、憤怒の顔した鞍馬蓮実がある物を持ち上げている。

それは下水管に繋がる穴を塞ぐマンホールの蓋。しかも三枚同時にである。

バリケードを作るために一つずつ持ってきたもので、重いため子供二人で運んでいた代物。

それを持ち上げる、しかも複数枚などはいくら鞍馬蓮実が力持ちだからといっても信じられない光景である。

しかし実際に持ち上げており、さらには頭上高く、今にも投げ飛ばしそうな勢いである。







「オイラの親友に…手ぇ出したっら許さないんよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」






そして実際に投げ飛ばした。誰もが呆けている中、いち早く我を取り戻した袋桐麻耶が叫ぶ。


「その親友に当たる可能性考慮しろよ、この大ボケ熊!!!」


言われた直後に鞍馬蓮実が、あ、と間抜けな表情をするがもう遅かった。

投げられたマンホールの蓋三枚は放物線を描き、白黒の熊二匹と瀬戸海里の上に振ってくる。

二匹の熊が斧を投げ、二枚は強制的に叩き落とす。

しかし一枚は白い熊の顔である眉間に突き刺さり、頭部を破壊しながらその体内に深く潜り込んでいく。

それでも黒い熊は諦めずに、少し距離が開いたが瀬戸海里を追い詰めようと追いかける。

すると瀬戸海里と入れ替わるように凛道都子が黒い熊に向かって走っていく。


「あ、あのすみませんが…武器持っていないところ恐縮ですが、破壊させてください!」


おどおどした言い方しつつも目は本気で、両手に持ったモデルガンで眉間に二発。

次に首の関節に二発。胸部に一発。視覚情報を得るであろう目の部分に二発。

両足の膝に二発ずつ、そして止めと言わんばかりに残った一発は直接腹部に銃口を突きつけ引き金を引く。

改造に改造を重ねたモデルガンは看板をへこました時と威力が段違いになっており、その鉄の体を撃ちぬく。

CPUは主に胸部、腹部、頭部に作られることが多いため、目は少しでも多く情報漏えいを防ぐため。

首は伝達するための神経代わりとしたコードが集まるため、膝の関節はいざという時のために動きを止めるため。

相手の動きを確実に鎮静化させるための狙撃は全て的中し、黒い熊のロボットは音声も出せずに地面に倒れ伏せた。

凛道都子はずれた眼鏡をなおしつつ、瀬戸海里に不安そうな顔を向ける。


「あ、あの…大丈夫?かな?」

「…う、うん…あの、都子ちゃん…」

「おねえちゃん、カッコイイ!!!まえみたえいがの…えーと、そう!ヒットマンガールみたい!!」

「それつい最近金曜日放映された暗殺者の映画じゃねぇか。しかも極道もの」


極道という単語に凛道都子は苦い物を噛み潰したような顔をする。

しかしすぐに気を取り直して、早くバリケードへ向かおうと相川聡史の背中を押す。

そこにはこれ以上追及されてはたまらないという感情も含まれている。

瀬戸海里は苦笑いしつつ、先程マンホールの蓋を投げた鞍馬蓮実を遠目で見る。

特に変わったところは見受けられない、傍には熊のアンドールであるベアングはいない。

なのにありえないほどの力を発揮した、まるでシンクロ現象を起こしたかのように。

しかしシンクロ現象は体の潜在能力を発揮させる代わりに、体に大きな負担を強いる。

時には鼻血程度から筋肉断裂と、体への影響は見て取れるほど。

しかし鞍馬蓮実は元気そうに動いている。大声で大丈夫なんよーと尋ねてくるくらいだ。

さらに言えばシンクロ現象はアンドールにインストールされたアニマルデータがなければ起きない現象。

ベアングを含めたアンドール達は遊園地中に散らばっている。近くには一匹もいない。

だから今の不可解な力はシンクロ現象ではない。


「…あのクマみたいなおにいちゃん、すごいね!」

「そうだね…」


皆川万結が嬉しそうにそう言うから、瀬戸海里は簡単な返事で濁すしかなかった。

それでも違和感はどこかで燻っていて、でも追求する余裕はどこにもなかった。






ウィルスが遊園地中に広がるのを見てほくそ笑む男が一人。

画面に見えるウィルス分布図と二十近くある赤い点の動きにさらに笑いを深める。

そしてキーボードに簡潔な単語を入力する。


従え


それだけでウィルスに汚染されたロボット達は動きを変える。

なにかを探すように建物を重点的に破壊していく。

仲間であったロボット達の残骸を山のように積み、形を整えていく。

即席に破いた布と鉄パイプを使って旗を作る。

その旗を残骸の山に突き刺す。動かなくなったロボット達の体がまた一部壊れる。

山は遊園地の各地に作られた。ミラーハウスの前、コーヒーカップが回るアトラクションの真ん中。

博物館の屋根の上、そしてアルファベットルームの最下層、Dルームの中。

そのことに竜宮健斗達は気付いていなかった。

旗が立ち並ぶその光景は、竜宮健斗達にとって馴染み深いものに酷似している。


地上で行われるアンドールの大会、フラッグウォーズに。


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